「ダイヤ改正」の今昔
「終電時間の繰り上げ」
2021年3月に行われるJR各社のダイヤ改正のメインテーマである。おそらく鉄道ファンの方々が多いので承知済みではあると思うが、ダイヤ改正とは、列車の時刻や停車駅など、運行に関わることがらを変更することである。
「○○線廃線!」
「○○線が減便!」
など、近年のダイヤ改正は明るい話題が少ない。しかしながら、そんな鉄道が栄華を極めていた時代があった。それは…
1960~70年代である。新幹線も、飛行機も、ましてや高速道路もさほど普及していなかった時代に、鉄道(特に在来線)は長距離輸送の主役であり、輸送の最前線にいた。
今回は、1978年の時刻表を参照しながら、近年のJRダイヤ改正との違いを見ていきたい。Let's タイムスリップ!
「ゴーサントオ」の概要
1978年(昭和53年)10月2日のダイヤ改正は、その頭文字をとって「ゴーサントオ」と呼ばれることもある。この改正は、いわゆる「白紙ダイヤ改正」という、今までの運転時刻を白紙に戻し、一から時刻表を組みなおす形のダイヤ改正であった。この改正のメインテーマは以下である。
東日本を中心に、全国主要線区に特急の増発、(中略)、通勤通学輸送力の増強、武蔵野線の延長開業、列車番号の統一など大幅な輸送改善が行われます。
――日本交通公社『国鉄監修 時刻表 1978年10月号』より引用
ここで当時の時代背景を考えたい。
そもそも、この時代は第2次ベビーブームが収束し、オイルショックも重なって、高度経済成長が終焉を迎える時期である。この改正は、特に東北・信越方面に向かう特急・急行が増発されている。東北各県がまだ高齢化や人口減少に悩まされる前の頃だろうか。どちらにしろ、全国各地に人が多くいたため、鉄道の需要が非常に高かった時期であると察する。
前置きはこのくらいにして、今昔ダイヤ改正の比較をしていこう。
ダイヤ改正の傾向の比較
今回は、今を2019~2021年改正を中心とした2010年代後半のダイヤ改正、昔を1978年改正として比較する。そもそも白紙ダイヤ改正と挿入ダイヤ改正では規模が大きく異なり、3年かけて行うようなダイヤ改正以上のことを1日で行っている。当時の国鉄はこの時期、およそ10年に1度あるいはそれ以上のペースで白紙改正を行っている(ゴーサントオ以前は1968年、1961年に行われている)。この時代は高度経済成長の最中であり、それに伴い世の中も変革期であったため、国鉄もそれに対応せざるを得なかったのだろう。
今回は、ダイヤ改正のトピックごとに比較する。
共通していた点は、
①速達列車の増発
②新車投入
③新サービス導入
の3点である。
まず、①速達列車の増発から考察する。1978年改正では、東北方面への特急が計12本増発されたのに対し、2020年改正では「はやぶさ」が計6本増発されるにとどまっている。しかし、特に人口減少が顕著である東北地方への長距離列車が、近年になっても増発されていたのは驚きである。
しかしながら、1978年において急行は減便傾向にあった。特急が36本増発された裏で、急行はそれを上回る57本が減便された。現在はJRから急行列車が消滅していることから、急行が減便される発端がこの1978年改正であったと察せる。
次に、②新車導入である。時代は違うものの、確かに新車投入はされていた。1978年改正では1245両の新造車両を投入していて、国鉄が都市圏輸送の改善に力を入れていたことがよくわかる。一方近年の改正では、環境に配慮した新型車両の置き換えを進めていて、特に(首都圏の新車導入が落ち着いたためでもあるが)地方線区に新車導入が行われている傾向にある。
最後に、③新サービス導入である。1978年改正ではL特急の追加のほか、すべての特急に自由席がつくことになった。この改正により全国に浸透した「グリーン車+指定席+自由席」という特急の形は、約40年間特急のスタンダードとして定着することになった。また、①の特急偏重傾向もあいまって、現在「急行」は消滅したのに「特別急行」のみ存在している要因になっていると思われる。
さらに、特急や急行の号数表示が下り奇数、上り偶数に変更された。これも現在のシステムのスタンダードとなっている。
一方近年の改正では、「座席未指定券」の導入により、全車指定席の特急に回帰しつつある。特に、2019年改正により中央線特急「あずさ」「かいじ」に、2021年改正で東海道線特急「踊り子」に…と、首都圏特急のメインを担う列車に導入された。当該システムの拡充がなされたことで、新しいスタンダードを生み出した。
比較① 所要時間
2019年改正では、青函トンネル内スピードアップにより4分の短縮が図られ、最速で東京~新函館北斗間が4時間を切った。さらに、2021年改正では上野~大宮間が1分短縮され、スピードアップが図られた。
では、1978年改正はどうなのだろうか。
実は、大幅にスピードダウンしている。
1976年のダイヤと比較しても明確である。青森駅で青函航路1便に接続する特急「はつかり」は、1976年時点では上野16:00発、青森0:15着だったのに対し、1978年改正では上野15:30発、青森0:13着と、所要時間が約30分伸びている。その他にも、特急「やまびこ」「ひばり」は約20分所要時間が伸びている。
これは、輸送力、そして線路容量におけるキャパシティの逼迫が一つの要因にあった。
皆さんは、朝ラッシュの電車が他の時間帯のものよりノロノロと走っていることにお気づきだろうか。特に中央線や京王線は顕著だが、朝ラッシュ時には速達列車を減らし、同じ種別・停車駅の列車を多く走らせることで、より多くの輸送力を確保するタイプのパターンダイヤを構築していた。これはダイヤグラムを見れば一目瞭然で、ダイヤグラム上の「隙間」が少なくなることからも理解できる。
比較② 普通列車の本数
次に、普通列車の増減便である。近年では、「輸送体系の見直し」という名目で、普通列車の本数削減が行われている。2019年の横須賀線や東京メガループ各線の増発はあったが、東北や山陰などの地方線区を中心に、青梅線や五日市線をはじめとした関東辺縁部でもその傾向にあり、人口減少や自動車のさらなる普及による路線の採算性の確保が原因であると推察される。さらに、列車本数の削減は行政も懸念しているが、この話題はまた別の機会に触れようと思う。
しかし、1978年改正はその逆で、普通列車が全国で合計217本増便されている。先に述べた通り、全国的な人口増加に伴う需要増が背景にあると考えられる。特急・急行・普通・貨物が同じ線路をひしめき合う中でこれだけの増便が図られている。これもパターンダイヤの恩恵なのだろうか。
しかしながら、特に大都市付近の幹線などは現在のほうが本数は多い一方で、宗谷本線や日豊本線の宗太郎越え区間など、地方線区では現在のほうが本数が少ない傾向にある。これもまた人口から分析するが、首都圏では、鉄道駅周辺の人口増減がほぼない、あるいは微増であるのに対し、地方では全体で5~10万人/年の転出超過状態であることから、人口と普通列車の本数に相関関係が認められる。時代の変化とともに、列車本数も変化していることがよくわかる。
↑↑今昔の宗谷本線の時刻表。本数が大幅減↑↑
比較③ 文体
次に、少し違う角度から比較をしてみよう。ダイヤ改正に記されている文体が大きく異なっているのである。
「思いたった時が旅立ち」のような、洒落た宣伝文句が特徴的である。さらに、「ついている」「おしゃれになりました」など、情報を読み取る文章にしては言い回しが柔らかい点に気づく。一方で、現在のダイヤ改正のプレスリリースは「短縮」「利便性向上」など文語体で硬い言葉を用いることで、情報のみを集約している。この40年で日本語が変化したのか、それとも国鉄民営化とともに、利益を追求するためにおしゃれな言い回しをやめたのか……どちらにしても、面白い差異である。
比較④ 夜行列車
最後に、1978年当時に全盛期であった夜行列車の比較をする。1978年改正では、夜行列車は特急・急行を中心に全国各地に遍在していた。特に上野駅では、夜行列車が発車する時間帯は普通列車が上野駅に入線できない関係で、大宮始発の中距離電車が一定数存在したほどの線路容量の逼迫ぶりだった。
しかし、設備の保守点検や他の交通機関の台頭により、2016年改正で最後の急行かつ定期客レであった「はまなす」、また2020年改正でも大垣夜行を継いだ「ムーンライトながら」が廃止され、現在の定期夜行列車はサンライズ瀬戸・出雲のみとなってしまった。夜行列車の削減は、まさに時代転換の象徴だろう。
↑↑上野発の夜行列車と大宮発の普通列車↑↑
いろいろ比較してみたまとめ
時代が変化しても、基本的なダイヤ改正の内容が変化していない点は驚きだった。しかし、同じような特徴のトピックの中にも、夜行列車や普通列車の減便をはじめとした時代を感じさせるものが多くあった。筆者はまだ大学生であるため、1978年の事情を詳しく知っているわけではないので、詳細を知っている方がいらっしゃったら、話を聞いてみたい。
今回は今昔ダイヤ改正を紹介した。ダイヤ改正の内容から、当時の日本社会を垣間見ることができた点は非常に興味深かった。このコロナ禍を抜けた後の鉄道ダイヤは果たして増便か、減便か、はたまた新サービスか…今後の動向にも注目したい。
参考文献
日本交通公社『国鉄監修 時刻表 1978年10月号』
JR東日本ニュース「2019年3月ダイヤ改正について」
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20181213.pdf
JR東日本ニュース「2020年3月ダイヤ改正について」
https://www.jreast.co.jp/press/2019/20191213_ho01.pdf
JR東日本ニュース「2021年3月ダイヤ改正について」
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20201218_ho01.pdf