監督のセクハラ報道で思い出した話

 日々新しいニュースが世間を賑わせ、昨今では「暴露系」が頭角を現している。ますます世論の流れは速い印象だ。(それでもウクライナとロシアの戦争に連日進展があるということは、それだけ世間が注視している事柄なのだろう。)

そんな中、園子温監督と俳優の木下ほうか氏の性加害ニュースが報じられた。ニュースサイトなどを見ていくと、どうやら界隈では有名な話のようである。また主演女優にはだいたい手を出していたようで、こうした「かき消される声が出てくる」この令和という最高に素晴らしい時代を生きているなと実感する。

私がこのニュースを見て思い出したのは、卒業した専門学校の話である。
当時1年だったころの私は、人のうわさ話が唯一の娯楽だった田舎から出てきたイモ女であった。
当時の同期のほとんどは関東育ちで海を越えたことがなさそうなシティ育ちの印象だった。中には高校生の頃からコスプレイヤーをやっていた同期は、みな自分の化粧の方法をわかっていたようだった。

 さて、今から私が話すのは、お芝居を指導するセクハラ講師に一矢報いた話である。
セクハラの被害を受けていたのは、専門学校の初日にあるオリエンテーションで隣の席に座った小動物系の女の子。私が初めてその学校で仲良くなったお友達だった。

私がセクハラの話を聞いたその当時は、お互い違う題材で舞台を作っていたため、間接的にしかその話を聞くことはできなかった。専門学校で初めてお芝居に触った人間と、吹奏楽で前からステージでパフォーマンスしていた彼女。比較するまでもなく魅力的なのは彼女である。そのため彼女は主演の役だった。
彼女が受けたおぞましい行為の数々は口にするのも憚られるため詳細は伏せるが、以前別の女の子の太ももを撫でていたところを見たことがある。

本来であれば、発覚した時点でなにかしらの対処がされるはずである。

しかしこのセクハラ講師、実は専門学校にドラマや映画のエキストラの案件を持ってくる男であったが故に、当時の担任は聞かなかったフリを決め込んだのだった。
そのため歴代の先輩方がどんなに訴えても、何年も居座っていた。
そのころ私の同期からは、稽古を欠席する人が目立ち始め、間違いなくこの『情けない大人たちへの諦め』であることは、当時20歳になりかけのイモ女からみても明らかだった。

青臭く寒い感情ではあるが『これから入ってくる後輩たちには同じ思いはさせたくない』という思いがあった。

虎視眈々とその時を待っていたある日。
照明の都合で演技する場所にスタッフから指定が入り、その延長で「マジで演出コロコロ変わって大変ですよね?」と、話題提供がてらに話を振ったのだ。
その時女性のスタッフが深刻そうな顔で「あの人、セクハラしてきませんか…?」と教えてくれた。
「えっ、されたんですか?…すみません、言える範囲でいいのでどんなことされましたか…?」
出てくる出てくる、学生という弱い立場を利用した悪行の数々。
そして舞台ということもあってステージ上以外には明かりがないため、そのスタッフは本気で怖かっただろうと思う。

「(仲良くしてくれてた音響)ちゃん、スタッフの先生の名前教えて。」

その日の稽古終わり、職員室のようなフロアに足を運んだ私は、言葉が鮮明のうちにその担任に事のあらましを伝えた。
「アクターの講師たちから、歴代の先輩たちはこのことを伝えてきたのですが、こっちの担任は動いてくれませんでした。
…正直、私はこれから入ってくる後輩にこんな思いさせたくないですし、お芝居の楽しさをちゃんと教えてくれる人に指導されてほしいんです。」

あの講師を追い出す方向に話を進めていただけないでしょうか。

翌年別の講師から聞かされた話では、その男は専門どころか、運営する学園グループ全体からも出禁を食らったという話だった。
しかし出まくった杭のイモ女は担任に目を付けられ、大本命でエントリーしたかった専門学校合同で行うミュージカルの影ナレーションのオーディションメールは来ず、担任が更新していた外部向けのブログでオーディションをしていたことを知ったことの絶望感といったら。
そしてカリキュラムのひとつであるアニソンを披露するライブでも、最後までミュージシャン志望の学生たちが生演奏してくれるライブパフォーマンスはやらせてもらえなかった。結局担任の一言で決まってしまうからである。
「なんではせまほがバンドできねぇの?!」
この回答、なんて答えるのが正解だったのか未だにわからないです。
そんな徹底的に打たれまくった女は挫折寸前まで追い込まれ、台本なんて二度と読まねー、と思いながら卒業した私は、今日までお芝居や作詞、ナレーションをやっている。これにはお芝居の楽しさを思い出させてくれた恩師や、切磋琢磨しあえる尊敬と友愛を持った役者仲間との出会いのおかげである。

つまり、この業界のセクハラはずっと前からある。
表沙汰になった一例は氷山の一角でしかなく、叩けば埃どころかネズミが出てくるだろう。つくづく自浄作用が全くない業界だなと、以前関わったことのある監督の「アイドルっぽい事務所で適当に笑っていれば売れるよ」という発言を思い出しながら思うのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?