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碇シンジとネガティヴ・ケイパビリティ

本noteはエヴァ映画のネタバレnoteではありません。そしてエヴァについて書いたnoteでもありません。

ここに書いてあるのは、これからの時代に最も必要な能力(と僕が思っている)、『ネガティヴ・ケイパビリティ』について。

「おいおい大きく出たな!」と思われた方はぜひ最後まで読んでいただき、僕の見立てが妥当かどうかを判断してもらえると嬉しいです。

▲こちらに全て書いてあります!


ネガティヴ・ケイパビリティとは?


まずは言葉の定義から。

ネガティヴ・ケイパビリティとは、「問題」を性急に措定せず、生半可な意味づけや知識でもって、未解決の問題にせっかちに帳尻を合わせず、宙ぶらりんの状態を持ちこたえる能力を指します。

これがネガティヴ・ケイパビリティです。おそらく一回読んだだけでは腹落ちしにくいと思うので、良かったらもう一回読んでみてください。


問題を解決しない能力…???


と思われるのではないでしょうか。僕は思いました。「能力」と聞くと、なにかを達成したり解決するための力を想像しますよね。そうではなく、何かを解決しないことを奨励していて「?」となると思います。

ここで大切なのは、「問題を解決しない能力」ではなく、「問題を解決しない宙ぶらりんの状態を耐える能力」という点です。解決しない能力ではなく、”解決しない状態”に耐える力。これがネガティヴ・ケイパビリティです。


人は”わからない”に耐えられない

ここまでだと、なぜネガティヴ・ケイパビリティがこれからの時代に最も必要な能力なのかはわからないと思います。もう少しお時間をください。

冒頭で紹介した書籍にこのような記述があります。

私たちが年頭に置いて、必死で求めているのは、言うならばポジティヴ・ケイパビリティです。しかしこの能力では、えてして表層の「問題」のみをとらえて、深層にある本当の問題は浮上せず、取り逃してしまいます。いえ、その問題の解決策や処理法がないような状況に立ち返ると、逃げ出すしかありません。それどころか、そうした状況には、はじめから近づかないでしょう。

*「ポジティヴ・ケイパビリティ」=問題を解決する能力

つまり、人はわからないことをそのままにしておいたり、理解が及ばない状況におかれることを苦手としている。と書かれています。

なるほど、これは確かに。やったことない仕事が急に降ってきたり、話したことのない人と接するとき、その瞬間はすごくストレスな状況になります。

そのストレスな状況をなんとかするために、詳しい人に仕事のやり方を聞いたり、初対面の人に話しかけたりし、”わかる”ために人は行動を起こします。

しかし、行動を起こしてもわからなかったとき、人は生半可な意味づけや知識でもって”わかった気”になってしまう。これはとても怖いことです。理解していない物事を理解した気になっているのですから。誤った知識は時に人を傷つけ、大きな損失を産むことにつながります。

そんな大惨事を避けるための能力、”わかった気”にならず、わからない状況に「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」と耐える能力。これこそがネガティブ・ケイパビリティなのです。


VUCAの時代を生き抜くためのネガティブ・ケイパビリティ


すこしエモい話が続いてしまったので、ここで少しビジネスの話でそれっぽくしておこうと思います。

現代ビジネスはVUCAの時代だ! と言われて久しいですよね。僕はいつも「なんの頭文字やったっけ?」となるので自分のためにメモっておきます。

V:olatility(変動性)
U:ncertainty(不確実性)
C:omplexity(複雑性)
A:mbiguity(曖昧性)

ようは、「変化が早すぎる現代のビジネスはめっちゃ難しいよね」ということです。これも体感的に「確かに〜」と思うのではないでしょうか。clubhouseはどうなっていくのでしょうね。

輪をかけるようにコロナウイルスの影響で「一年後どころか半年後もわからん…いや一ヶ月後も…」となってしまいますよね。正解をあてるのは不可能に近いと思います。

しかしながら、諦めてはいけないのはバスケもビジネスも一緒です。思考放棄しては試合に臨むことすらできません。

そんなVUCAの時代に求められる能力こそネガティブ・ケイパビリティ。正解がわからない=先が予測できないビジネス環境に耐え、思考を放棄しないためには、まずは不確実性の高い環境に耐えるネガティブ・ケイパビリティが必要なのです。

実際、これまで会った優秀と呼ばれるビジネスパーソンはみなネガティブ・ケイパビリティが高いなと感じています。難題に直面しても、その不確実な状況から逃げずに向き合い続ける。特に経営者や新規事業の担当者に求められる能力だと思います。

ネガティブ・ケイパビリティという土壌の上に、ポジティブ・ケイパビリティ(問題を解決する力)が咲いている人が優秀と呼ばれるビジネスパーソンなのではないでしょうか。


ダイバーシティを支えるネガティブ・ケイパビリティ

「VUCAの時代」と同様に「ダイバーシティの時代」もよく聞くワードだと思います。とっても大事ですよね、多様性。

ただ、ダイバーシティな社会はとてもストレスのある社会でもあります。こんなにも世界でコンフリクトが起きているのはその証左ですよね。

なぜかというと、思想が違う人と一緒に過ごすのは辛いんですよね。僕だと、夫婦別生に対して反対意見を熱く語っている方と一緒に過ごすのは難易度が高いと思います。

もちろん、「意見は意見、人は人!」だとわかっているのですが、心がどう感じるかをコントロールするのは難しい。ようは、相手が何を考えているかわからないんですよね。自分と意見が違うので。

ですが、まずはその”わからない状況”に耐えないとダイバーシティな社会は実現できません。そうです、もうお分かりですね。ネガティブ・ケイパビリティが必要なんです。

ネガティブ・ケイパビリティで相手が”何を考えているかわからない状況”に耐える。そして、自分と意見の違う他者と対話をし、意見に同意はできなくても、その結論に至るまでのプロセスに共感をしめす。これこそがダイバーシティへの唯一にして最良の方法だと僕は考えています。


コーチングとネガティブ・ケイパビリティ

ここまで読んでいただけると「なるほど〜ネガティヴ・ケイパビリティって大事そうだな〜」と感じるのではないでしょうか。

感じられなかったら、完全に僕の実力不足ですね…。書籍だけでも…購入して読んでいただければ…絶対わかるんで何卒…!

ここからはプロコーチである僕の興味関心のみで書いていくので、コーチングに少しでも興味のある方に読んでいただけると嬉しいです。逆に興味がなければ面白くないかもです…初手言い訳。

結論からいうと、コーチングにもネガティヴ・ケイパビリティは必要不可欠だと思います。

書籍の著者である箒木さんは精神医科、そして詩人キーツが提唱したネガティヴ・ケイパビリティを世に広めたのも英国の精神医科・ビオンです。ネガティヴ・ケイパビリティは精神医学によって発見された概念であり、コーチングの大切なことはそういった分野に横たわっていると僕は考えています。

著書の中にこんな一文があります。

精神分析学には蓄積された膨大な理論があります。こういう症状の裏には、こういった生育史が抽出できる。こういう事態は、これこれの治療段階でよく生じ、これこれの理由によりうるものだといった具合です。

これらの定理を頭に入れておけば、目の前に生じた事象も、患者の症状も、迷わずに理解できます。理論を当てはめればいいだけの話です。本人は一向に悩む必要はありません。一種のマニュアル化です。

これをビオンは嫌ったのです。これでは、生の患者と生の治療者との一期一会の出会い、交わされる言葉の新鮮みと重さが、台なしになってしまうと危惧したのです。

これは精神医科だけではなく、コーチングにおいても全く同じだと思い、読みながら「うわあ…」とこぼしたのを覚えています。

コーチングにおいても様々なフレームや流派、過去のサンプルなど蓄積されたノウハウやナレッジがあります。あえてマッチョな書き方をすると、それを勉強するのは当たり前で、クライアント(コーチングを受ける方)に応じて学んだ知識を適用できるのも普通のことです。

ですが、すべての人が違うように、全ての人にこれまでのフレームや知識で対応できるわけではありません。もっと怖いのは、得た知識でどうやってクライアントをコーチングをしようか、と知識ベースの発想になってしまうことです。


ところが、現実の患者さんの状態は、そう簡単に鋭利なナイフで切れるものばかりではありません。問題が見つからない場合や、複雑すぎる場合、そもそも解決策がない場合だってあります。

箒木さんがこう書くように、”解決策がない場合”もたくさんあると思います。

「じゃあどうすればいいの。勉強に意味がないっていうのか。」と思われた方もいるかもしれません。決してそうではありません。勉強することは必須です。

そうではなく、「どんなに勉強して知識を吸収してもどうしょうもない時がある。その現実に直面したときに、得てきた知識を全て手放して目の前のクライアントに向き合えるか」が大切。そして、自分の知識を捨てて宙ぶらりんの不確実な状況に耐えうる能力こそがネガティヴ・ケイパビリティなのです。

これまた感覚的な話で恐縮なのですが、この知識を捨てた瞬間に覚悟のようなものが決まり、セッションも良いものになる感覚があります。知識があればあるほど、捨てるものが大きければ大きいほどその効果は高まると予想しています。

最後に、著書で感銘を受けた一文を抜粋して締めたいと思います。

ネガティヴ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐え抜く力です。その先には必ず発展的な深い理解が待ち受けていると理解して、耐えていく持続力を生み出すのです。

おそらく、ネガティヴ・ケイパビリティを支えるのは「きっと自分ならなんとかできる」という自己への肯定感なのではないかと考えています。

今「じゃあどうすればネガティヴ・ケイパビリティが鍛えられるのか」を信頼する仲間と自由研究しているので、なにかわかったら書き殴りたいと思います!ではまた!

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