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しろくまを連れた帰りみち

帰り道、しろくまを連れて歩く。

背中にジャムの小瓶を乗せたしろくまは、図書館で借りた本を包んで運んでくれている。

この子が一緒なら、なんとか家に帰れそうだ。心臓の音が少しだけ穏やかになった。

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6月の下旬。低気圧の影響か、どうにも体が動かず憂鬱な気分で過ごしていた。
聴力検査で聞こえる音が減っていき、世界が遠くなる感覚がやってくる。文字を一文字打つのも苦痛に感じるくらいガンガンと頭が痛み、夢の中まで痛みが追ってくる。
前にもこんな経験があった。こんな時は休むべし。
できる限り家を出ず、眠れるだけ眠った。


それでもどうしても出かけないといけない時はある。(もしかしたら出かけなくても良かったのかもしれない。けれど、そんな判断もできなかった)
重い体を引きずって出かけ、帰りに図書館に寄って調べもの。

数冊の資料と、気分転換になれば・・・と小説を2冊借りた。

思いのほか荷物が増えてしまいカバンに入らない。ボーッとしている自分に苛立ちを覚えて、「はあ・・・」とため息をつく。

普段なら、これくらいのことで情けなくなったり落ち込んだりしないのだけれど、この日は、どうにもダメだった。


沈んだ心でふりかえると、「借りた本を入れるのにどうぞ」と書かれた箱の中にたくさんの紙袋が入っていた。

ここの貸出カウンター前のテーブルには、不要になった紙袋を集めた箱が置かれている。空っぽのことが多いのだけれど、この日は(きっと誰か一人が大量に持ってきてくれたと思しきまとまり具合で)たっぷりと紙袋が入っていた。

アルビオン、スタバ、そのほかにもお菓子や化粧品の紙袋が多かったから、きっと同じ年頃の女性が持ってきてくれたのかなぁ、なんて想像しながらありがたく物色する。

私の本を入れるのにちょうど良さそうな白い紙袋を見つけて引き出す。

そこには、「しろくまジャム」というロゴとともにジャムを背負ってご機嫌なしろくまが描かれていた。

いっぱい紙袋を置いていってくれた優しい人がいたこと、ちょうど良い紙袋があったこと、そこに可愛いしろくまがいたこと。

心細さと緊張感でいっぱいになっているところに「大丈夫、大丈夫」と言われたようで、心がゆるんで涙が出た。

私は以前、身体を壊して数年がかりでなんとか騙し騙し復帰した経験がある。
いつ治るのかわからない体調不良になると、またこのまま長いことかかって、仕事ができなくなったり家族や周りに迷惑をかけてしまうのではないかと不安に襲われる。

自分でコントロールできないコンディションへの苛立ちと、焦り。回復のために何をすべきかとか、約束のリスケとか、できないタスクの対処方とか、頭ではわかっている。作業は淡々と進められても、心がついてこない。置いていかれているような不安ばかりが増幅してしまう。

そんなものでパンパンになった心をするりと緩めて、少し空気抜きをしてもらったようだった。

大丈夫、ゆっくり歩いて帰ろう。


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「しろくまジャム」、調べたら静岡のお店だった。
LIFE IS SO SWEET!って書かれてた。こんど、行ってみたいな。
久々におでかけしたい気持ちになった。



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