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ミゾカクシとサワギキョウ 

 わたしは2021年5月から道端の植物を写真と共に上げるツイッターを始めて、700種以上の植物をツイートしてきた(https://twitter.com/ShirobanaT)。植物をテーマにしたツイッターなので、勢い植物をテーマにした方々をフォローすることが多く、ツイッター画面に色々な植物の写真が並ぶことになる。季節の流れを、自分が道端で見ている植物からばかりでなく、様々な地域の植物の写真からも知ることが出来る。

ミゾカクシ
サワギキョウ

 そんなとき、フォローしている複数の方々が、ミゾカクシという植物の写真を見せてくださった。記述によれば、それ程稀な植物でもないらしい。自分では見たことが無く、美しい花の写真がずっと羨ましかった。
 ある日、公園内を散歩していたら、樹木の下で、小さな白い花を見つけた。目が大層悪いので、ひざまずいて、顔を地面に近付けたら、なんと「ミゾカクシ」だった!みなさんの美しい写真から、勝手にもっと大きな花を想像していたのだが、わたしが見た植物は、草丈が10㎝にもいかず、花は大きさが1㎝くらいしかなかった。でも美しかった。
 そのほぼ一か月後、ある植物園の池の周りで、矢張り初見で、サワギキョウを見た。草丈は1mを軽々越しており、花の大きさは全体で3㎝以上はあった。
 実際に植物を目の前にしていた時は、うかつにも思い出さなかったが、ツイッターに写真を挙げてから、花の形に覚えがあることに気が付いた。あれ?と思い、学名を見たら、同じLobelia属(ミゾカクシ属)だった。草丈が10倍以上も違い、花の大きさも色も異なるので、同属の近い植物であることに、すぐには気づかなかった。でも、自分の足で歩き、自分の手で写真を撮り、自分の眼で見て、自分の頭で考えて、似ていると思い、確認したら、同じ属だったのだ。
 この、どうでもいい、些末な出来事が、どれ程嬉しかったか、わかっていただけるだろうか。「理解する幸福」を味わったと、大げさに表現したい。ミゾカクシとサワギキョウが同属なのは、既知のことだ。でも、自分の体験を通じて、既知のことに辿り着いたのだ。数学の小難しい応用問題を、自分の力だけで解き、回答集のやり方とは異なった解法だったときの喜びと似ている。

 この方向の喜びの最大値は、研究だ。研究こそ、今まで知られていなかったことを発見したり、現象は知られていても、未知だった因果関係を説明できるようにする手段のひとつだ。
 わたしは30年間企業の研究所の片隅で一研究者として過ごしたので、この喜びをよく知っている。未知の化合物の効果を生物を用いて確認することが業務だった。上手に計画し、知りたいことを明確に表現できる試験系を独自のアイディアで組むことが出来ると、本当に嬉しい。思わぬ効果を観察できる場合もあり、再試験をして、確証を得ると、文字通り心が湧きたつ。正直、社内報告書なぞどうでもよくなる程、その現象そのものが尊い。勿論仕事だから、詳細な報告書は必須だが。

 さて、ある程度の規模の研究には、組織・資金・設備が不可欠だ。退職した一個人にはどうしようもない。力ない個人は、研究を諦めなくてはならないのだろうか。これは退職以来ずっと自分に問いかけ続けてきた疑問だ。
 では、「自分にとって未知なこと」に対する答えを自分で見つけるならどうだろうか。わたしが知らないことは無限にある。その中で「犬も歩けば棒に当たる」式に、自分で調べるなり、経験するなり、考えるなりして、無限の未知な事柄の一つでも、「自分に説明する」なら、それは自分にとって貴重だし、喜びではないか。既知のことだって、自分は知らなかったのだから、それを知ることは、自分にとっての発見だ。
 ツイッターもnoteも、外の世界との接点の方法の選択肢だ。携帯電話もPCも道具になりうる。自分が使える方法や手段を駆使しながら、柔軟に状況に対応しつつ、これからも「自分にとっての発見」を続けられることを願う。
 
 
 

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