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ダンベルとの別れ

ダンベルをご存知だろうか。
持ち手の両脇に膨らみがあって、色々な重量があり、普通は2個一組で両手にそれぞれ持ち、負荷を掛けながら運動するために使う道具だ。
30年近く前に、運動が大の苦手、しかし運動はした方がいいと思っていたわたしは、自宅で隙間時間にできる手軽な運動として、ダンベルをがいいのではないかと思い込んだ。
ダンベル運動はしたことが無いので、本屋に行って(当時はなんでもInternetで習熟する時代ではなかった)最も初心者向けのダンベル体操の書籍を購入した。
ダンベルは、重さが大切だ。
重すぎてはやる気を削ぐし、軽すぎては負荷にならぬと思い、2㎏が適当であろうと判断し、鉄製2㎏ダンベル2個を購入した。

さて、ダンベル教本はテレビ台に置き、ダンベルはテレビの傍に置いた。
テレビを見ない日は無いので、ダンベルが否が応でも目に入る作戦である。
自分が運動嫌いなのはわかっているので、無言のプレッシャーを常時与えるというクレバーな作戦の筈だった。
しかし、ダンベルは運動で使われるより、拭き掃除のために移動させられる回数が遥かに多い状態がかなり続いた。
仕事で10年ほどドイツに滞在したが、流石にダンベル合計4㎏は送付荷物に入れなかった。
飛ばされたドイツの職場では、長い知り合いのドイツ人の男性の同僚が隣の部屋だった。
日本での入社直後の海外研修で知り合ったので、15年以上の知り合い期間で、彼が日本に出張の際には、ドイツ語が話せるから、ホテルと会社の送迎もした。
彼は二の腕が太い。
普通の体格よりは鍛えている感じだったので、ある時、ダンベルは使うのか、何㎏を使うのかと尋ねたら、片方25㎏と言われ、呆れ果てた。
日本の家のテレビ脇の2㎏ダンベルの話はしなかった。
ところで、ドイツから帰国して、既に何年も経つ。
テレビ脇のダンベルと再会である。
相変わらず拭き掃除の際には、ダンベルを動かさねばならない。
何とかせねばと、両手にダンベルを持ってみた。
確かに片方2㎏なので、両手それぞれで持って腕を水平に保つことは不可能では無い。
しかし、これで運動することは無理であることに気がついた。
30年近く前は、まだ相対的に若く、力もあった。
今は、持ち上がるが、運動するには負荷が大きすぎる。
悲しかった。
国道沿いに金属を買い取るという、業者がいることにずっと前から気づいていた。
ダンベルの持ち手部分のテープを剥がし、金属買い取り業者に持ち込んだ。
事務所から不審顔の女性が出てきて、少しこちらがたじたじとなるような口調で何用と尋ねる。
大変申し訳ないが、鉄だと思うので引き取ってもらいたいものがあると言うと、1㎏以上でないと引き受けないとの返答。
4㎏であるが、お金は要らない、引き取ってさえくれれば嬉しいと言ったら、ダンベルを見て、鉄だから引き取ると言ってくれた。
新品の様にピンピンして、色褪せた本は、次回の資源ごみに出す予定だ。

ダンベルよ、ダンベルらしい生活とは程遠い生涯を送らせてしまい、悪かった。
リサイクルされ、生まれ変わったら、今度こそ、その目的に合致した生き方に邁進できることを、願っているよ。
長い間、ありがとう。

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