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#36 はじめて君が泣いた日

2000年3月22日、この世ではじめて君が泣いた日に

私は、ここに居た。
そこは、怒号と罵声が飛び交い、控えめに言っても「異常」な雰囲気がある会社だった。前職とは比べ物にならないほど、THE肉体労働で、体力には自信があっても
1週間でやめていく人がザラであった。
入社当初の仕事は、敷地内の清掃と10tトラックからの荷下ろしである。
45度のお辞儀をした状態の体制で作業を続けるため、
1台終わる頃には、腰がパンパンで動けなくなる。
それを5.6台休みなく熟すという
地獄のような日々であった。
当然汗だくになるため、ほとんどの人が冬でも半袖である。暑くてジャンパーを脱ぎたかったが、会社の制服を着ているという現実を受け入れられず、
体から湯気を出していた。
そんな時に一報が入った。
「母子共に無事に産まれました!」
その時の気持ちはあまり憶えていないが、嬉しさのあまり、変な行動をしていた。「実は今日、僕の子供が生まれたんです。」と、気づくと見ず知らずの人に、ハリウッドスターにでも会ったかのように伝えていた。

自撮り

嬉しい気持ちを抑えきれず、この日の気持ちを残したくて自撮りをしてしまったのだ。今思うとよくそんなこと思いついたなと、我ながら恥ずかしい、恥ずかしくて一度も見ていない。でも確かに存在している。
そして、1週間後に病院で初のご対面をした。
ずっと眠っているが、確かに存在している。
「あっ!動いた」
少しでも目を開けた瞬間を撮りたくて、
2時間ビデオカメラを回し続けていた。
後で見ると静止画像のようで、「あっ!」という叫び声とタイムキーパーだけがやたら目立っていた。

今日で会社辞めます

家族を支える気持ちはあっても、肉体は悲鳴をあげていた。腰、両膝、両足首サポーターでぐるぐる巻きにして働いていた。いつも走っていることが代名詞だったが、私は走りたくても走れなかった。
限界を感じてからが、スタートと誰かが言っていたが、
限界どころか、モルヒネを打ちたいほどだった。

「もう無理、もう無理、心と体が壊れる。」と自分を正当化し「今日で辞める」と妻に告げると、優しく微笑んでくれた。その笑顔の内側に潜む感情が、逆に怖かった。
朝方出勤の用意をしていると、寝てるはずの0歳の娘が起きてきて私を見つめていた。そんな円な瞳で見られたら「やめられないじゃないか〜」と心の中で叫びながら、
毎回今日まで、今日まで、今日までやると叫びながら結局、8年働いていた。そして50周年記念カタログのドライバー代表なるまでになった。
毎回「今日で辞める」宣言をすると必ず起きてくる、あの時の娘に感謝だ。

卒業しました

そんな娘も今年大学を卒業した。娘を観る私のレンズは、恥ずかしながら4歳のままで止まっている。車の移動中気持ち悪くなってマーライオンになったこと。店の定員にお姉ちゃんの名前はと聞かれ「お姉ちゃんはいません」と答えたこと。日焼けした肌を見て「茶色になったね」と言われたこと。コンビニで「細かいのはあるの(小銭)」とキヨスクのおばちゃん風に言われたこと。嫌いな食べ物があるとわざと落とすこと。私のレンズが変わらないのは、顔が幼少期と変わっていないのも理由のひとつである。

まとめ

はじめて君が泣いた日から、新しい感情と発見の連続だった。親歴はまだまだ浅いが、様々な問題に遭遇し、どう臨むことが好ましいのかを学ばせてもらった。
答えがわからなくても自分なりの問いを立てて最善を尽くすことができた。
後で間違いに気づき後悔しながらも前に進めた。
苦しい時ほど、0歳の円な瞳を思い出す。
今となっては最高の宝物です。

改めて、お誕生日おめでとう。・・・・・

人生も映画も巻き戻せないから面白い。
2009川越スカラ座

最後まで、お読みいただきありがとうございました
godaigenso

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