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<連載>OM と旅する鉄道情景(第11回/牧野 和人) GROUP K.T.R

今様東海道の富岳

東海道の象徴

日本一の峰、富士山は静岡県下を横断する東海道を彩る景色として、人馬が往来した街道華やかりし時代より象徴的な存在だ。鉄道沿線でも東海道本線や御殿場線等の車窓から麗姿を眺めることができる。東海道本線では新たな施設の設置や道路の開通等で失われていった名場面がある中、沼津駅の周辺には現在も列車の背景に秀峰を据えることができる場所が健在である。沼津市と駿東郡長泉町の境界となる黄瀬川(きせがわ)で東海道本線が川を渡る付近から上流方向を望むと、線路の背景に富士山の山頂付近が顔を覗かせる。現在、当地を通過して行く旅客列車は短い編成の普通が大半を占める。使用されている車両は旧国鉄の民営化後に製造された電車である。それに対して貨物列車は重厚感溢れる長編成で運転され、主要幹線として機能していた本路線華やかりし頃の残り香を、束の間ながら味合わせてくれる。早朝に通過する寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」などと共に鉄ちゃん(鉄道愛好家)にとっては画像に残したい場面だ。

E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

 西岸の堤防上に続く道を機材を携えて歩く。携行性に優れたOMシステムだから、600mほどの道のりは全く苦にならない。途中で現れる陽光に煌めく川面や水鳥に写欲をそそられ、のんびりと川岸を散策した。対岸付近の景色を引き寄せる感覚で撮影。カメラに装着した12~100㎜レンズの望遠側が重宝される。鉄橋と富士山を正面に望む所で足を止めた。三脚を立てて列車と富士山、川面に映る森が塩梅良く据わるよう、画面の四隅に気をくばりながら構図を決める。
 画面の下方を占める黄瀬川は穏やかな流れで、川面は鏡になって橋の周辺を写し出す。しかし水辺には数羽の水鳥が佇んでおり、気まぐれに川の中ほどへ泳ぎ出ると、鳥の足元からみるみる広がっていく紋が鏡絵を掻き消していく。列車通過時の状態が気になるところだが、水鏡の出現を信じて構図は川を大きく入れたままとした。瞬時に構図を大きく変えることができる広い焦点域を備えたズームレンズならではの余裕だ。

E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

貨物列車が横切る絶景

スマートフォンのアプリで列車の運転状況を確認する。目当ての貨物列車は定時で沼津駅を通過したようだ。山、雲、森、そして水鏡…。画面細部の様子を何度も凝視点検する。ふとファインダーから目を離すと目の前を下り電車が軽快に右手より駆けて行った。「これで手前を走る列車が画面上で被ることもあるまい。」と安堵していたら、間髪入れず件の機関車が左手より現れた。先頭部分が最も右手の橋脚上を過ぎた所でシャッターを切る。自身が絵になると想う位置に車両が留る瞬間はまさに眼を瞬く間もないくらい。また、機関車に続く貨車の列が橋梁を渡って行く間にも撮影は続く。同じような車両が同じような走りっぷりで流れて行く中で、4両程が収まるコンテナ車の画面上に位置に気を配る。
 重量級の貨車をけん引する機関車の速度は思いのほか速く、設定した高速のシャッター速度が車両を写し止める上で功を奏した。


E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
E-M1MarkⅡ / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

筆者紹介

牧野和人(マキノ カズト / Kazuto Makino )

写真家。
幼少期より写真撮影に親しむ。2001(平成13)年より写真業、執筆業を生業とする。
臨場感に富んだ画像を撮影すべく、全国各地を訪れている。撮影成果は一般誌、児童書、旅行誌、鉄道趣味誌等に掲載。企業ポスター、カレンダー、時刻表の表紙等の大型図版も手掛ける。

※GROUP K.T.Rとは、このnoteを担当する「鉄道を愛し、OMを愛する」3人のフォトグラファー牧野和人、神谷武志、高屋力の名前のイニシャルから取った頭文字です。
グループの首謀者神谷の準地元であり、OM SYSTEMの地元でもある「京王線」の旧社名をリスペクトした名称でもあります。今後もさまざまな鉄道ネタをご紹介していきます。どうぞお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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