山下 大祐・OM-1 MarkⅡを生かす!シンガポールの鉄道シーン
先代OM-1から早2年、OM SYSTEMの新フラッグシップ機が発売となった。ペンタ部に「OM SYSTEM」のロゴを誇らしげに掲げ、見た目にも期待が高まるモデルチェンジである。いつも国内の鉄道ばかり撮っている私も、このカメラの記事執筆のために気分一新。南国シンガポールでの撮影を試みた。
シンガポールはマレー半島の先端にある貿易・金融大国。鉄道は6路線の地下鉄(Mass Rapid Transit=MRT)が張り巡らされている。そのほか、いわゆる新交通システムが地域の足として3路線と空港ターミナル間輸送に走っていて、番外的に観光エリアのセントーサ島に向かうモノレールがある。東京23区ほどの国土面積であるため都市間輸送というものがなく、日本でいういわゆる普通の電車は走っていない。
歴史が新しい国だけに、必要な鉄道が必要な形でつくられているのである。
シンガポール・チャンギ国際空港
さてシンガポールの玄関、チャンギ国際空港に降り立つと最初に出会う鉄道がスカイトレインである。4つの旅客ターミナルのうち1から3の主要ターミナル間を結び、三菱重工製「クリスタルムーバー」という新交通システムが採用されている。単純なターミナル間移動ではなく、保安検査エリア内でも移動できるように路線や車両をうまく分けており、3両編成は2両が検査外、1両が検査内として開閉ドアの左右が異なる。複雑だが、発着も数分おきと利便性が高められているようだ。
さあ入国間もないが私がまずこの国でやることは、スカイトレインに乗ること・撮ること。初めて訪れる異国の空港で、気分は鉄道少年にかえったようにワクワクする。
ターミナル2と3を結び3両編成が走る系統には、途中で大きなドームの中を通る。このドームは2019年にオープンした「ジュエル」という商業施設である。巨大な屋内庭園では、ガラス天井の中央から筒状に滝が落ちる非凡な仕掛け。その脇をスカイトレインがかめるように通るという驚きの鉄道シーンが繰り広げられている。
早速「ジュエル」内部へ撮影に向かった。まずは手始めに滝と列車のサイズバランスが良く、かつ庭園の雰囲気も見せることのできるポジションを探る。高層フロアから見下ろす角度がよかったが、手前の草木が線路に被っていてシャッターチャンスは僅かという場所だった。列車の速度と正面部を収める隙間を考慮し、「静音+連写」で撮影。というより、私はこの「静音+連写」をデフォルト設定にしている。秒間20コマという連写速度は不意のシャッターチャンスにも不足なく、それでいて撮りすぎることのないちょうどよい連写速度だと感じている。
新機能「ライブGND」を試す
OM-1 Mark II の新機能である「ライブGND」は、GNDの段数(ND2、ND4、ND8)と、フィルター効果の境界(Soft、Medium、Hard)を、ファインダーやライブビューで設定ができるもの。フィルター効果の境界の位置や角度を画面を見ながら設定し、撮影時に複数枚の画像を高輝度部と低輝度部で異なる合成を行うという、非常に演算能力の高いカメラだからこそなせる機能である。
基本的には動きの少ない静物被写体に対して薦められる機能であるが、列車をブラしたような表現では活用できそうである。また単に露出差を均一な明るさに補正するためだけでなく、均一な露出を崩す表現にも活用したいところだ。何せほかに類のないOMらしい新機能の登場に、色々試してみたい気持ちでいっぱいである。
こちらは滝が落ちる前の時間に撮影。OM-1 MarkⅡの新機能「ライブGND」を使って露出オーバーの天井に、トーンをつけてみた。撮影前からファインダー内で効き目を確認しながら設定できるので、物理フィルターを選ぶ時のような露出計算は不要。ただし「ライブGND」は複数枚合成から実現する機能のため、たとえ高速シャッターを設定していても、動く被写体はブレたように写る。
こちらは縦位置での「ライブGND」例。やはり天井のハイライトをおさえて露出を均一に近づけるような使い方である。今度は動く列車が残像のようにブレて写らないよう、軽く流し撮りのように撮影してみた。するとNDのグレーが掛からない風景部分は少しブレたが、列車は写し止めることができた。「ライブGND」は流し撮りすることで、列車をブラさない表現もできるようである。
こちらの横位置は「ライブGND」機能は未使用。前述の縦位置のものと天井部分の明るさが異なっているのがわかるだろう。代わってこちらは「デジタルシフト」を用いた。見下ろすように下を向くパース感を補正して、樹木が垂直に立つ端正な画面を狙っている。
「ライブGND」ND8、Softの設定でカメラは動かさず、列車をブラした。画面の下半分にND効果をつけて、上半分をハイキーに飛ばしている。水のブレも加わって抽象的な写真になっているが、GNDというものを、露出差を補正し双方を立てるためだけに利用にしないというのが私の目標である。
「ライブND」も強度が拡充
「ジュエル」の滝は多少の強弱がありつつも、流れ出すと営業時間中ずっと流れている。この日のスカイトレインは、朝は2列車を複線で運用していたが、日中は1列車の単純往復。上り下りとも同じ軌道上を行ったり来たりしていた。5分程度の間隔でやってくるので、思いつく限りの表現を試し尽くそうと、フロアを登ったり降りたり。半日近くここでスカイトレインを撮っていた。
OM-1 MarkⅡから「ライブND」の強度が拡充されND128が選択可能になった。物理フィルターを利用しないユーザーにとって、このND128とはどの程度の強さなのかピンとこないと思うが、露出7段(7EV)分に相当する。カメラのメニュー画面でも、カッコ書きでEV値も書かれているので親切だ。ND128時の制限として、連写できないことやシャッター速度が1secより速くできないことなどがあるため、やはり静物被写体向けではあるが、ここでもブラシの表現や流し撮りで鉄道撮影に応用はできるだろう。手持ち撮影に強いOM SYSTEMだからこそ、なおさら生きてくる機能である。
新しく設定された「ライブND」のND128を用いて「ジュエル」の滝とスカイトレインを撮影。自然風景分野ではたくさん登場する「ライブND」と滝の作例。まさか鉄道シーンで撮ることができるとは、感慨深い。OM-1 MarkⅡのシンクロ手ぶれ補正は、先代よりさらに強力になった。このような表現もサクサク手持ちで撮っていける。
まだあまり一般的でない「ライブND」流し撮り。単写となるので一発必中が求められるが、E-M1Xのころからやっているのでもう慣れたものだ。ND64、6EV分露出を落としてF11。「ライブND」がなければ撮れないシーンであろう。レンズを水平方向へ振る際は、縦横に関わらず手ぶれ補正モードを「S-IS2」にするのがおすすめだ。
こちらも「ライブND」流し撮り。再びND128で撮影した。手前の緑をブラして列車を透けさせるという狙いでチャレンジ。うまく先頭部だけが見えるようなポジションを見つけることと、単写の流し撮りに慣れることが秘訣だ。
新レンズM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
次はセントーサ島へのアクセスとなる胯座式モノレール、セントーサ・エクスプレスを撮るべく半島南部のショッピングモールへやってきた。ここから対岸のセントーサ島に路線が伸びており、島内はカジノや大型テーマパークなどが立地するなど、シンガポール観光の一大拠点となっている。そんな島の施設を背景に、カラフルなモノレールを注目の新レンズM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISで狙う算段だ。
ズーム中盤の314mmを使用。35mm判換算628mm相当と、すでになかなかの圧縮感だ。ちょうどモノレール軌道の両端が緑に隠れ、背景のお城全体が入るところでフレーミング。ズームであることは、こういった画面処理のこだわりにつながってくる。またモノレールであっても被写体認識はしっかりと鉄道を検出し、こちらが選択する手間もなくAF追従で撮り続けることができた。
こちらはワイド端の150mmの画角。ひとつ前の写真とはシャッターのタイミングが全く異なっている。AF追従させながらズームを引いていくような撮り方では、ズームリングのトルクスイッチをL位置にすることで、軽いズーム操作が可能だ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの魅力は各種テレコンバーターが使用可能なこと。MC-20テレコンバーターを使えば35mm判換算2400mmという信じがたい狭画角も得ることができる。背景に写っていたお城は完全にフレームアウト
ここまで来たものの、アクティビティに溢れるセントーサ島に渡ることなく次なる場所へ。M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISをもっと他のシーンでも試してみたくなった。そこで、シンガポール地下鉄の主要路線である東西線(ラインカラー緑)のドーバー駅を選択し、駅の端から手持ち撮影をした。明かり区間の長い東西線は比較的撮影に向いているのだ。
ここではOM-1 MarkⅡで進化したインテリジェント被写体認識・AI被写体認識AF(鉄道)をバリバリ効かせての撮影に終始。時折、上下の列車がいいタイミングですれ違うことが判明し、自身のこだわりスイッチが入って撮り過ぎてしまった。
線路の勾配を登ってくる様子をシュート。一見ありがちな写真に見えるが、35mm判換算946mmの超望遠の世界だ。しかし難なく被写体を認識しAF撮影できた。シンガポールの電車のほとんどが、第三軌条方式という地上に設置した3本目のレールから電気を取る方式。背景の抜け感がすっきりしているのもそのおかげだ。
少し引いて編成のうねりを見せる。6両編成の列車だがなんとなく長く見えるのは、日本の一般的な鉄道車両より1両あたりが少し長いからか。
ちょうど撮影方向で上下の列車がすれ違った。本音としては、もう少しカメラに近いところで両者が並んで欲しい。そう思って撮影を続けると、このパターンが巡ってくるのは20分に1回くらいのようだ。こだわり出すと撮影時間が長引いてしまうのは良くあることだ。
そうして無事望み通りのタイミングですれ違った。こうした引きをもっているかどうかは、カメラマンとして必要な素質である。このように2つ以上車両がいる場合では、慌てずにピントを合わしたい列車の方にAFターゲット差し向けよう。その際ターゲットのサイズはなんでもよい。
滞在最終日にして、マリーナベイサンズのスカイパーク展望デッキへ行ってみた。発展著しいシンガポールを象徴する、ランドマークといえる場所である。
地上56階からの眺めは、遠くに何とか鉄道を発見することができた。ここでもM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISの使い心地の良さが光る。ロングショットにおいても十分な解像性能で、望遠レンズは大きく撮るだけが役割じゃないことを証明してくれるようだった。
有名なこのシルエットがマリーナベイサンズだ。ホテルやブランドショップ、カジノなども入った複合型施設だ。
四隅まで解像性能に変化が少なく、左奥マンションの足下に駅から出てくる列車が見える。手前はこちらも名物巨大観覧車。ピントは列車に置いたがほぼパンフォーカスとなっている。それにしてもシンガポールはタワマンが多い。
シンガポールの旅は最低限の機材で臨んだ。OM-1MarkⅡボディ1台と標準ズーム、望遠ズームとM.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 ISを1つのリュックに入れての撮影行だった。OM SYSTEMの携行性の良さは、慣れない土地での安心感も提供してくれ、世界の鉄道をもっと撮ってみたくなった。
おまけ
筆者紹介
山下 大祐(ヤマシタ ダイスケ / Daisuke Yamashita )
1987年兵庫県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、今度は写真作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。
業務では、鉄道会社のライブラリ、車両カタログ、カレンダー、CM撮影などに携わるほか、鉄道誌、カメラ誌等で撮影・執筆を行う。
OM SYSTEMゼミ講師、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員
2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座
2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー
ウェブサイト:http://www.daisuke-yamashita.com
SNS: https://www.instagram.com/yamadai1987/
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