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フツカヨイ

なぜ、フツカヨイになるのか、飲みすぎるからだ。かんたんな話だが、ドウにも適量でお酒を飲むのをやめることができない。タバコは禁煙できたが、禁酒はできない。なぜ人は酒を飲むのか、ナニかに変身したい願望があり、その願望が酒を飲むという行動に走らせるそうだ。いま酒の消費量が減っているとニュースになっている、みなの変身願望がなくなったのだろうか。

一週間に5回はフツカヨイになっている。そんなフツカヨイのプロともいえる私が、フツカヨイについて書いてみようと筆をとった。

まずフツカヨイの特効薬はない。アレをしたらフツカヨイが治る、コレを飲んだり食べたりするとフツカヨイが治る、そんなことはない。一週間に6回はフツカヨイに苦しめられている私が言うのだから間違いない。フツカヨイの特効薬を発明する人がいたら、ノーベル賞を与えるか、酒の池を作ってあげたいと思う。

フツカヨイを治すには、酒と一緒に飲み込んだ、白いモヤのような酒の精が、体から抜けるのを待つしかない。ただひたすら待つ。これがフツカヨイから復活する方法だ。一週間に7回、フツカヨイに苦しめられている私の結論だ。

しかしだ、酒の精が抜ける時間、これは短くすることはできる。一週間に8度、フツカヨイに苦しめられるたびに、私の体で人体実験を繰り返した結果、有益な情報を集めることができたと自負している。

軽度から中度のフツカヨイであれば普通に生活していれば、昼頃には酒の精はフッと抜けているだろう。あぁ、そういえばフツカヨイだったわ。と笑いとばせる。

いちばん困るのが、ふとももがピクピクと痙攣し、まぶたをあけても重力にまけ、まぶたが下がってくる。右脳のほうから、ゴリラがハンマーでタイヤを叩いているような頭痛がする。左側の首のつけねが、キリキリ、ギリギリとバルタン星人のハサミでしめつけられるぐらい痛いといった。重度のフツカヨイ。これがツラく、奥歯に挟まったもやしぐらい酒の精がぬけてくれない。

ずっと布団でゴロゴロしていたいところだが、まずは布団からでる。これ大事。そして、朝日を浴びる、これ光合成。そして、風も浴びる。千の風を感じる。

つぎはよく言われるように、ひたすら水分を飲む。1~2リットルの水分をとる。真水はツラいだろう。クエン酸をいれたり、柑橘類の果汁をいれたり、スポーツドリンクもよい。いまでは、ソルティーライチという商品がある。あれは二日酔にまことによい。

緑茶や煎茶、麦茶などもよい、紅茶でも中国茶でもなんでもよい。とりあえず飲む。コーヒーはなぜか吐き気がする。

つぎに体をうごかす、シンドいけど、体をうごかす。ラジオ体操や筋トレ、部屋の掃除をして体をうごかす。いつもは掃除をしない場所などを掃除してやる。着てない服や使っていない物を捨てるのも断捨離になりよい。

体を動かせば、腹がへってくるだろう。あなたの体に問いかける。もしもしナニを食べたいですか、と。体が返事をしてくれるだろう。ナニも食べたくありません、と。それでも何度も何度も問いかけ続ける。

体が根まけして、食べたいものを答えてくれるだろう。体が食べたいと言ったものを食べる、ひたすら食べる、お腹がパンパンになるまで喰う。水分もガバガバ飲む。吐き気をおぼえても、グッと飲みこむ。

あとはすることはない、ゆっくりと酒の精が抜けるのを待つだけだ。動画を見たり、読書をしたり、まったりしておけばよい。お腹がふくれたことによより、眠くなることもあるだろう。眠くなればしめたものだ、ゆっくり寝て起きれば、ほとんど酒の精は昼寝をしているあいだに、ネロとパトラッシュのように空に帰っているだろう。

けっきょくフツカヨイを治すには、基本的なことを淡々とこなすしかないわけである。

一週間に9度はフツカヨイになっている、男のフツカヨイ治療の様子を書いてみよう。

昨夜もしこたま飲んだ、起きるのがシンどい、布団でゴロゴロする。二度寝の態勢にはいる。

一度眼を覚ましてから、45分後やっと布団からノロノロとはいでる。

冷蔵庫に冷やしておいたスポーツドリンク2リットルを半分ほど飲む。一週間に十◯回、フツカヨイになるプロは酒を飲みだすと同時に、スポーツドリンクを冷やしておくものだ。備えよ常に、フツカヨイに。

真っ黄色のおしっこをドバドバとする。ついでにトイレ掃除もする。

布団のシーツを洗濯し、布団をベランダに干す。掃除機をかける。フローリングをウェットタイプのシートで拭く。台所の換気扇を掃除する、ネチャネチャと中学生の男子の顔ぐらい油ギッシュだった。

風呂掃除をする、排水口の掃除もしておく、ブラックホールのように真っ黒だった排水口が、底が見えるぐらいクリアにする。

家のまわりに溝を掃除する、サクラの花ハモウ散った。家庭菜園の様子をみる。食べられそうな野菜はなかった。

体を動かし、掃除などをしていると、フツカヨイになった罪悪感が消える。フツカヨイになったのも無駄じゃなかったな、と心が満たされていく。

心が満たされたところで、お腹が減ってきたので、お腹も満たしてやる。

チキンラーメンに卵、納豆をいれて食す。一週間にⅪ回、フツカヨイになる私はだいたいフツカヨイの日は、麺類を食べることがおおい。どん兵衛の肉うどん、丸ちゃんの天ぷら蕎麦、チキンラーメンをローテーションで食べている。残っていたスポーツドリンクも飲み干す。

食べたあとは寝る、ハンモックにゆられていると、空中に浮かんでいる錯覚を覚え、たのしくスグに寝ることができる。

今回はいたさなかったが、マスターベーションをしてから寝ると、酒の精が抜けやすい"気”がする。原因も理論もわからない。もしかしたらエラい人が関係をつきとめているかもしれない。そういえば、マスターベーションの研究費、日本はものすごく低予算なんだって。ポンっと払ってやれと思う。マスターベーションと身長の関係とか知りたくない?

起きてからも、酒の精が抜けていなかった。あとはひたすら酒の精が抜けるのを待つ。

YouTubeのゲーム実況を見るが好きだ。『Ark』『Planet zoo』この二つのゲーム実況はとくに好きで見たおした。そして、この二つのゲームはもっていないが、ゲームをはじめたら、クリアできるぐらいの知識を持っている。高性能のパソコンでゲームをしたいな。

あとは、読書をするとき、たとえばフツカヨイになる回数を減らそうと、吉田健一の『禁酒のおすすめ』というエッセイを読む。

開高健いわく、主語か述語かわからない山下清のような文章。たしかにヌルヌルした文章を書く、ご本人はぬらりひょんのようにも見える。

ぬるぬると禁酒のことを書いているのかと思ったら、酒を飲むと気分がよくなり、気がおおきくなり、壁をぶち破れる気がしてくるので、壁を殴ると手が痛い、しかしアルコールのおかげであまり痛くない。と人を喰った文章が書かれている。

これはたしかにある。大学時代のゼミの飲み会にいったとき、大人しいガリ勉タイプの男が、酒を飲みはじめると、ゼミの女性や店員にセクハラをしたり、やたらと絡んできて閉口させられた。

その彼が、店をでてからナニを思ったか、路肩に駐車していた車のボンネットを殴りはじめた。リアルストリートファイター2のボーナスステージやん。車のボンネットってあんなにメコメコに凹むんだなと感心させられた。そして、彼は寝た。そのまま放置して帰った。彼は大学を中退していた。

『禁酒のおすすめ』を読んでも、けっきょく吉田健一は禁酒をまったくおすすめしていない。吉田健一という文豪は、二日酔で血を吐いてから飲むお酒がうまい。などと言う人だから、とうぜん禁酒などおすすめするわけがないのである。また血を吐いたことがないので、ボクはまだ大丈夫だと安心するために『禁酒のおすすめ』を読むわけだ。

そういえば、飲んで歩いているときに、頭から血をだしたことはある。アイキャンフライできると思い、なにかの段差をピョンとフライしたら、見事にアスファルトとガチンコの頭突き勝負を挑んでいた。もちろん、私の完敗だ。頭からぴゅ~と血が噴きだした。漫画でよく見る、血で目が見えない状態を楽しんでいた。

ひたいの怪我は血がよくでる、という話を、翌朝枕を見ながら思い出した。おでこに、クレーターが新しくひとつできた。

フツカヨイになるたびに読むエッセイがもう一つある、坂口安吾の『不良少年とキリスト』だ。

歯のいたさに苦しんでいる状態からエッセイははじまる。フツカヨイに苦しんでいる状態とよく似ているな、と思いながら読みすすめる。しばらくすると、檀一雄が登場する、そこで太宰治の話になっていく。

坂口安吾は、太宰治をフツカヨイ的な人間だと語りだす。

後半になればなるほど、坂口安吾の太宰治への想いがあふれだす、文章のあいだ、句読点の点から想いがあふれだす。あふれだした想いは言葉になり、私の心を撃つ。言葉ひとつひとつが酔ったフツカヨイの頭にザクザクと突き刺さる。

 然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。

三島由紀夫が、坂口安吾の文章をウォッカのようだと評価したのを思い出す。

そうだ、今日はウォッカを呑もう。

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