『霧の中の約束』(約束:やくそく、Yakusoku)
残り100
古い紙と革の香りが空気に重く漂っていた。それは棚に二度目の皮膚のように纏わりつく心地よい香りだった。淡い陽光が高くアーチ型の窓から差し込み、埃の粒子がその中で舞っていた。それぞれの粒子が、渦巻く光と影の小さな宇宙のようだった。私は本の背表紙に手を走らせた。そのタイトルは、忘れられた世界、失われた愛、そして遠い昔に生きた人々の残響を密やかに約束していた。ここは私の聖域であり、外の世界の喧騒から逃れる避難所だった。ここでは、亡き人々の静かな友情の中で、私は慰めと創造の源を見出していた。
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