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デレク・ジャーマンの庭

30歳ちょっとの時、勤めていた外資系が日本市場から撤退することになり、1年分のお給料をもらったのでイギリスに約1年間滞在していた時のこと。
いい歳だけど、ノープランで先のことも考えずに日本を出てイギリスでブラブラしていた時、ふらっと入った書店でこの本が目に留まった。

デレク・ジャーマンの庭

デレク・ジャーマンが誰かも知らず、庭仕事に興味があるわけでも全くなく、当時は植物好きでも何でもなかったのに、手に取り、迷わず買った一冊。彼の生い立ちやどう生きてきたかという背景は後から付いてきた情報で、彼が作った独特に庭の景色に圧倒されていた。本に載っている写真を見ただけなのに。

海岸で拾ってきたハードなアイテムと植物。錆も庭の一部。
色も形も独特の組み合わせで植物を育てる

映画監督でもあるので、もちろん庭のビジュアルに彼の個性がふんだんにあふれているのはもちろん、朽ちた木や金属の錆、先鋭な道具や捨てられた小舟など彼の感性にかかって、草花とともに庭として成立しているその空気感が、本を通してでさえじわじわと確実に私の中に強いインパクトを植え付けた。不穏、不安、消えゆく命の中の喜びみたいなものが凝縮されているような気がした。デレク・ジャーマンは、エイズを患いながらこの庭を作り続けながらそこで亡くなった。

なぜ、その1年の間にこの庭を訪れなかったのか、今となっては分からないが、その後も何度もイギリスに行ったのに、一度も訪れることのなかった場所。デレク・ジャーマンの庭。庭に建つプロスペクトコテージという名の黒くて黄色がアクセントになった小屋。

今年行ってみようかと思っている。初めて、その存在を知ってから20年以上経つ今。多分、若い時に行ったのでは、庭を作ることと生きることが重なったその場所に立っても受け止めきれなかったのかもしれない。病にかからずとも、残りの人生をどう生きるかを考える歳になった今、どんな安らぎを感じ、残された未来の時間を生きようとしたのか、デレク・ジャーマンの庭で感じてみたい。


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