断髪小説~安奈~つづき

「では鋏を入れるね」
旦那さんが再び大きな声で宣言した。
肩に着かないくらいの位置に鋏が入っていく。
旦那さんは故意に鋏をゆっくりととじているようだ。
髪が切れる音が店内に響き渡る。
安奈は鏡の中の自分を凝視している。
一回で右半分の髪が切り落とされてしまった。
安奈は後ろを振り返り落ちた髪をじっと見つめている。
旦那さんが大きな手で安奈の頭をつかみぐいっと前を向かせた。
「もう半分を切るよ」
「はい」
安奈が消え入りそうな、やや震えた声で答えた。
その瞬間、ジョキという大きな音が響いた。
右半分と違い、左半分の髪は勢いよく切り落としたのだ。
床には安奈の綺麗な髪が横たわっている。
肩に着くか着かない長さの髪も安奈にはよく似合っているように思われた。

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