断髪小説~沙紀~
今回は無料部分に散髪の途中描写を公開してみました。
本編は散髪前の物語からはじまります。
沙紀は名残惜しそうに髪を撫でる。
「沙紀さん、頑張って」
画面の向こうから声が聞こえてくるが、沙紀の耳にはもう届かない。
隆一が黄色いタオルを出してくる。
鏡に向かって身を乗り出していた沙紀の体を椅子の背もたれに引っ張り、タオルを肩に掛けてくる。
「升谷さん、ケープはどれが良いですか」
沙紀からは見えない位置に掛けてあると思われる、ケープを二人で見つめている。
「このダサい感じが良いよね」
升谷がケープを取り出してきて言った。
「良いですね」
隆一も頷いた。
升谷がケープを手に沙紀に近づいてくる。
ストライプ柄のケープを広げて沙紀に見せる。
「ダサいよね、でもこれを沙紀さんに巻くね」
そう言って、沙紀の膝にケープを載せた。
「その前にこれを」
白い襟紙を沙紀の首に巻きつけてくる。
「刈り上げると細かい髪がたくさん出るからね。升谷さん、沙紀さんの髪を持ち上げてもらえますか」
升谷が沙紀の髪をグイっと掴み、持ち上げる。空中に掲げると向こう側が透けて見える薄い襟紙を隆一が沙紀の首に巻きつけていく。
「これもアメリカ製の襟紙なんだ。向こうの太めのおじさん達に巻かれてしまうものだから、沙紀さんの首なら何周も巻けてしまうね」
襟紙は沙紀の細く白い首を3周してしまった。
隆一は慣れた手つきでケープを掛けていく。
男性用の大きなケープが沙紀に掛けられていく。
「手を出すところはないよ」
隆一が言った。沙紀はいつもの美容院の癖で袖を通すケープをイメージして、手を出すところを無意識に探っていたのだ。
恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「刈り上げるなら、これも巻かないとね」
そう言って、升谷が黄色いネックシャッターを取り出した。
「僕が巻いても良いかな」
升谷が隆一に言った。
「どうぞ」
隆一のその声と同時に升谷がネックシャッターを沙紀に巻きつけてくる。
「ネックシャッターは初めてかな。床屋では細かい髪が入り込まないようにこれを着けるのが当たり前なんだよ。これは僕の私物なんだ」
升谷は嬉しそうに言った。
ここから先は
¥ 800
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?