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脂質ナノ粒子

新型コロナウイルスのワクチンが続々と実用化されています。モデルナやファイザー(ワクチン技術はドイツのビオンテック)などが開発したワクチンは「mRNAワクチン」と呼ばれ、核酸分子を成分としているものです。弱毒化した病原体やウイルスを使わないのが特徴です。


しかし核酸分子は体内で酵素により容易に分解されてしまうので、確実に効果が出るように特殊な保護剤でおおわれています。「脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle、LNP)」と呼ばれるものです。脂質ナノ粒子は生物の細胞膜を模して合成した粒子で、直径10nmから1000nmの脂質を主成分としています。主な原料は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、ステロイドなど生体適合性がある脂質と、界面活性剤です。

脂質ナノ粒子は、これまで癌ワクチンなどの特殊な用途でのみ開発されてきたため、供給できる企業が限られています。ファイザー・ビオンテックのワクチンに使われる脂質ナノ粒子はオーストリアの70人の企業、ポリマン・サイエンティフィック・イミューンバイオロジッシュが供給しているとのことですが、これがワクチン供給のボトルネックになっているようです。

モデルナのワクチンは、-70℃のような極低温でなく通常の低温で輸送できることが強みですが、この秘密も特殊な脂質ナノ粒子の開発に成功したからといわれています。

2020年11月12日に公開されたモデルナの特許「脂質ナノ粒子の生成方法」(特表2020-532528)を見てみましょう。請求項1は、
「核酸脂質ナノ粒子組成物の生成方法であって、
イオン化可能脂質を含む脂質溶液を核酸を含む溶液と混合し、それにより前駆体核酸脂質ナノ粒子を形成することと;
修飾剤を含む脂質ナノ粒子修飾剤を前記前駆体核酸脂質ナノ粒子に添加し、それにより修飾された核酸脂質ナノ粒子を形成することと;
前記前駆体核酸脂質ナノ粒子、前記修飾された核酸脂質ナノ粒子、またはその両方を処理することにより、前記核酸脂質ナノ粒子組成物を形成することと、を含む前記方法。」
 で、どこに特徴があるのかは正直わかりませんが、請求項21で
「前記前駆体核酸脂質ナノ粒子が、
約30~60mol%のイオン化可能脂質と;
約0~30mol%のリン脂質と;
約15~50mol%の構造脂質と;
約0.01~10mol%の前記第1のPEG脂質と、を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。」
とあります。で、どんな構造の物質が例示されているか見てみると、イオン化可能脂質としては請求項72に下記の構造が例示されています。

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こんな構造もありました(請求項78)。

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リン脂質としては細胞の膜組織に一般的に存在するリン脂質である1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)が例示されています(請求項60)。

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構造脂質とはコレステロールに代表される細胞膜構造の材料となる脂質のことで、特許でもコレステロールが例示されています(請求項59)

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PEG脂質としてはこのような構造が例示されています(請求項46)。ジグリセリドのポリエチレングリコールエステルですね。

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これらが新型コロナワクチンの使われているかどうかはわかりませんが、このような化合物たちが脂質ナノ粒子となり、コロナワクチンに使われているのですね。

ところで、上のリンクで紹介したモデルナのワクチン技術に関する2020/11/19のヤフー記事「有効率94.5%、モデルナ社のワクチン候補、どこがすごい?」(ソース:ナショナル・ジオグラフィック)で、「モデルナの技術は特許で保護されているため詳細は不明だが」とあります。しばしば特許を「技術の秘匿」ととらえる記事がありますが、特許とは「技術の公開」に関する制度です。すなわち、技術を公開させてさらなる発明を促す一方で、発明者には一定期間の独占的な利用を認める制度です。もちろん詳細は専門家が読み解かないとわからないのですが、保護されているのはモデルナの独占使用権であり、技術は公開されています。このあたりは2021/1/8のヤフー記事「新型コロナ用mRNAワクチンの4つのすごい設計」でもくわしく説明されています。



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