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脱炭素社会のキーワードと化学産業

「脱炭素社会」の言葉が新聞やネットニュースで見ない日はありません。これからの化学産業を考えるうえで最も重要なキーワードですが、似たような言葉がたくさんあります。意味を整理したうえで、それぞれの課題に対する化学産業における取組を紹介します。

カーボン・ニュートラル、カーボンネットゼロ、カーボンゼロ、ゼロカーボン

カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて、二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする」を意味します。カーボンネットゼロ、カーボンゼロ、ゼロカーボンも同じ意味です。脱炭素に関する政府からの情報は環境省の脱炭素ポータルにまとめられていて、一番左上のあるページが「カーボン・ニュートラル」です。

カーボン・ニュートラルの状態(環境省資料)

2021年5月に日本化学工業協会(日化協)は「カーボンニュートラルへの化学産業としてのスタンス」という文書を公表しています。内容で興味深いことは、「化学産業における GHG(温室効果ガス) 排出削減の貢献範囲は、当面は Scope1+2の範囲とする。Scope3 については、その算定方法等について第三者評価に耐えうるルールが整備されるという前提で、貢献範囲と認識し、社会全体への貢献が拡大するよう業界を超えた協業に努める。」としている点です。Scope3の算定についてはやはり課題が多いようです。

Scope1:自らによる GHG の直接排出(燃料の燃焼、工業プロセスなど)Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う GHG の間接排出
Scope3:サプライチェーン(購入原料の製造、輸送、出張、通勤、製品の加工、製品の使用、製品の最終廃棄等)に伴う GHG の間接排出

https://www.nikkakyo.org/system/files/20210518CN.pdf

カーボン・オフセット、カーボン・クレジット

カーボン・オフセットとは、二酸化炭素の排出量はできるだけ減らすが、どうしても排出される二酸化炭素については、1)排出量に見合った削減活動に投資する、あるいは2)削減・吸収量を定量化した「クレジット」と呼ばれるものを購入することなどにより、排出される二酸化炭素を埋めあわせよう(オフセット)という考え方です。二酸化炭素が排出される状態は継続されているので、カーボン・ニュートラルになるまでの経過措置的状態とみられています。しかし、カーボン・クレジット自体がまだ法的に確立されたものではなく、二酸化炭素排出が公表数値の通りに「埋め合わせ」されているのかどうかの問題も指摘されています。実際には森林保護の実態が伴わないカーボンクレジットも多く、国際的に検証可能なルール作りが求められます。

カーボン・ポジティブ、カーボン・ネガティブ

カーボン・ニュートラルを超えて、「排出される二酸化炭素よりも、大気から吸収する二酸化炭素の量の方が多い」状態まで視野に入れている企業もあります。ややこしいのはカーボン・ポジティブ(ユニリーバなど)とカーボン・ネガティブ(マイクロソフトなど)で、どちらも同じ状態を指します。直感的には「ネガティブ」のほうがしっくりきますね。

ユニリーバのホームページより
マイクロソフトのホームページより

カーボン・フットプリント

CFP(カーボンフットプリント)は、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、商品やサービスに表示する仕組みです。上記の温室効果ガス測定におけるScope 1~3をまとめたものになります。LCA(ライフサイクルアセスメント)手法を活用し、環境負荷を定量的に算定する必要があり、複雑かつ煩雑な計算を支援する新ビジネスが立ち上がっています。BASFは自社の45,000点の製品のCFPを計算するデジタルアプリケーションを開発し、外販も視野にいれています。シーメンスもCO2算出ツールを22年に提供するとしています。いずれもCPF算出のルール作りとデファクトスタンダードを狙っていると見られます。

カーボン・フリー

2020年にGoogle は「2030 年までに世界中のすべてのデータセンター、クラウド リージョン、キャンパスにおいて 24 時間 365 日カーボンフリー エネルギー(CFE)で運用する」という目標を発表しました。Googleのカーボン・フリーの定義は「温室効果ガスを排出しない、風力や太陽光発電といった自然エネルギーを使うこと」です。2021年12月の発表では、世界のデータセンターのうち 5 つがカーボンフリー エネルギー利用率約 90% で運営されているとしています。

カーボン・プライシング

カーボンプライシングとは排出される二酸化炭素に価格付け(プライシング)する仕組みです。この中に炭素税、排出量取引、クレジット取引などが含まれており、世界ではカーボンプライシングの導入が広がっています。ルール作りで欧州に押され気味ですが、日本にも脱炭素関連では多くの優れた技術があります。世界の動きに迅速に対応し、さらには世界をリードしてもらいたいと思います。


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