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化学産業におけるデジタルトランスフォーメーション

「デジタルトランスフォーメーション」という言葉の中で、私は「トランスフォーメーション」に魅力を感じる。最新のデジタル技術で業務やビジネスがどう「変化」するのか興味がある。最近の事例を紹介する。

三菱ケミカルは「オペレーションの最適化」を一例として挙げている。「MMA事業においては、グローバルなサプライチェーンの情報伝達をデジタル化して事業運営を最適化することで、世界中の顧客に市況変化の中でもより安定的に製品を提供できるようになります」としている。三菱ケミカル傘下の三菱レイヨンは2008年にルーサイトを買収してMMA世界最大手になったが、ルーサイトは英ICIと米デュポンのMMA事業を受け継いでいる。需要や原料の市況変化、為替の状況変化に対応して、オリジン企業も製造プロセスも異なる世界各地の工場の生産計画を最適化させることは極めて複雑なオペレーションであろう。みずほ銀行に限らず、出自の異なる企業間のシステム統合は大変な作業なのだ。

三菱ケミカルのグローバルMMA供給ネットワーク

三井化学はAIとデジタルツインでプラント運転が効率化し、運転員の手動操作に比べて運転変更に要する時間を40%短縮することに成功したという(2020年11月30日発表)。デジタルツイン技術については別の記事でまとめてみたい。手動操作というと、プラントに入って温度計や圧力計をにらみながらバルブとかを操作するようなイメージだが、実際には1980年代から実用化された統合生産制御システム(DCS)がどの工場でも動いているはず。DCSといえばハネウェルや横河電機だが、この記事に出てくるオメガシミュレーション社は横河と三井化学の合弁企業ということなので、プラント制御技術がAIによってさらに進化したということでなのであろう。

AIの提案について可否を判断して実行することで、運転員が試行錯誤しながら操作するよりも短い時間で目標状態を実現できる。(出所:NEC・三井化学・オメガシミュレーション・産総研)

住友化学はアクセンチュアとの合弁会社を設立した(2021年4月1日発表)。この合弁に先立ち、自社内のシステム担当企業である住友化学システムサービスをいったん住友化学本体に吸収している。システム構築は専門外だが、一般的なクライアント-ベンダーではなく合弁会社という形態をとることに新しさを感じる。両社にとって得られるものは大きいものの、一定のリスクがあるということかもしれない。今後の展開が楽しみである。


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