政策保有株への批判と企業の防衛手段

議決権行使助言会社は政策保有株に厳しいスタンス

政策保有株をめぐっては、二大議決権行使助言会社であるISS、グラスルイス共に厳しい立場を示し始めている。最大手の助言会社であるISSは2020年の11月、政策保有株式を純資産の20%を超えて保有する企業について経営トップの取締役選任議案に反対推奨する方針を発表した(2022年2月より適応)。

グラスルイスは2019年の時点で純資産の 10%以上の政策保有株式を有している企業の経営トップに原則反対を推奨するとしており、来年からそのポリシーが適応される。

政策保有株の縮小が要請される背景

改めて説明する必要がない読者も多いだろうが、大学生にもわかるNoteを目指して政策保有株とは何ぞや、という事から説明する。政策保有株とは投資目的ではなく、経営戦略上の目的で保有している株式のことを指す。有名なのでいえば、テレビ局のTBSが半導体製造装置の東京エレクトロンの株式を保有している、京都銀行が任天堂の株式を保有している、京成電鉄がオリエンタルランドの株式を保有している(京成電鉄にとってオリエンタルランドは持分法関連会社)などだろうか。

こうした株式保有が進んだ背景には、経営戦略を実践するうえで上場企業が自分たちにとって都合の悪い株主から保有されることを防止する目的があった。歴史をたどると60年代半ばから70年代にかけて第三者割当増資の規制緩和などを背景に安定株主獲得の動きが進んだことに加え、80年代後半のバブル期には、当時は資本コストなどという概念が希薄だったため、エクイティファイナンスを多発したことなどが、現在の安定株主が多い状況に繋がっていると考えられる。1980年代後半の小糸製作所へのアクティビスト到来、2006年のスティールパートナーズ到来なども触れた方がよさそうだが、ここら辺は話すと長いし、興味がある人はググればわかるので今回は割愛する。

当然安定株主が多い状況は、真面目に議決権行使を行う中長期目線の外国人投資家を中心に不評である。取締役選任議案に反対したところで、安定株主が半分を占めている状況じゃ勝ち目ないよね…みたいな事態はよく起きているし、ましてや株主提案における定款変更の議案については3分の2を取らないと勝利できない。

金融庁、東証は日本の株主総会の形骸化の多発が、外国人投資家の日本株への関心を削いでいる大きな要因の一つであるということに気づき、コーポレートガバナンス・コードで「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである」と縮減に関する方針・考え方を示すよう2018年に改訂した。従来からの政策保有株への批判がさらに強まることになった大きなイベントの1つである。二大議決権行使助言会社が冒頭に記したような決断をした背景には、コーポレートガバナンス・コードの改訂の影響が大きいだろう。

上場企業の困惑、そもそも問い直される上場の意義

上場企業としては、困惑している状況にある。買収防衛策の導入に関しては、2015年のコーポレートガバナンス・コード施行の時点からすでに機関投資家から猛烈に批判的に捉えられていることに加え、政策保有を通じた安定株主の獲得まで封じられてしまえば、自分たちにとって都合の悪い株主に持たれかねないからだ。東証の市場再編で「プライム市場(現在の東証一部相当)には一段階高いレベルのガバナンスが求められる」なんて言われてしまうのだから、そのトレンドに逆行して我が道を行く決断はなかなか難しい。一方、ネスレなどがアクティビストと友好的にやっている、と表面上こたえていたとしても、本音ベースでアクティビストに持たれたい経営者は、世界を見渡してもおそらく皆無であろう。

ひとつの究極的な対応策は非上場化だと考えられる。2020年はMBO(経営陣による買収)が9年ぶりに2桁を超えたようだ。市場からお金を調達するつもりがない企業にとっては、有効な選択肢の一つであると考えられる。個人的に「あんたエクイティファイナンス絶対いらないし、早く非上場化しろよw」と言いたくなる企業もある。

とはいえ、上場企業という看板にこだわるプライドの高い企業の方が日本の場合圧倒的多数であろう。そこでアクティビストという鮫が潜む資本市場の大海に放り出された多数の日本の上場企業が取り組んでいる、もしくは取り組もうとしていること、それはアセットオーナーや一部の超長期スパンの投資家に保有してもらえるよう笑顔を振りまく(情報開示の改善に取り組む)ことだ。もちろん、保有してもらうためには私も含め皆さんが大好きなESG、CSRの取り組みも含まれるだろう。ただし個人的には笑顔を振りまく(情報開示の改善)のもよいが、実業がてんでだめで傀儡に化粧を塗って笑顔にしているだけの状況の企業も少なくないように思う。中身と外見の両方が揃って、初めてミスコンに当選する美女が生まれるのだ。

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