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数のヨミカタの事例1 ~コロナでの死者、インドよりも大阪の方が多い??~

コロナ関連で様々な数値が巷に溢れかえっていますが、先週末に、少々センセーショナルな見出しの記事を見つけたました。この記事に使われている数字の妥当性について検証してみます。



1)見出しのヨミカタ

 この記事が配信される直前、インドではコロナウィルスの爆発的な感染拡大が起こっており、その惨状が日本のメディアで連日取り上げられていました。この時期、日本人の多くが、コロナで最も悲惨な地域はインドであるとの印象を持っていたと考えられます。

 見出しは、”その”インドよりも大阪の死者数が多く、大阪の方が深刻であることを示唆しています。
 本当でしょうか?
 数字の使われ方は妥当なのでしょうか?

 この見出しに違和感や疑問を持った方もいると思います。このような印象を持った場合は、特に、データを批判的に見る姿勢が重要です。

2)大阪の新規死者数はインドよりも多いのか?

 記事の前半に以下の記載があります。

「政府の会議の資料に人口100万人あたりの7日間の新規死者数のデータがあるのですが、大阪は19・6人(5月5日時点、以下同)。インドの15・5人、メキシコの16・2人、米国の14・5人より上回っており、惨状というほかありません。兵庫県も9・0人、愛媛県11・2人、和歌山県7・6人など関西は高く、東京は1・4人と意外にも低い水準です」(厚生労働省関係者)

 ※小数点の表記に誤りがありますが、原文通りの引用

 この部分は、政府の会議資料からの引用で、記事のオリジナルではありません。この文中の数字は
 現在、世界で最も悲惨な感染状況はインド
 大阪ではそれを上回る死者数
 インドより大阪がヤバい状況だ!
という主張の説明に使われています。

この数字の使い方を3つの視点で検証してみます。
①データの提供元について
②公平な比較か?
③他の国や以前の状況はどうか?

①データの提供元について
 政府の会議資料なので、怪しいデータが用いられることは少ないと思いますが、念のためインターネット上の記事やデータ提供サイトの調査を行いました。調べるとすぐに、記事に掲載されているデータの提供元らしきサイトを見つけることができました。

 これは、「札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門」が運営しているサイトで、世界中のコロナの感染状況のデータを提供しています。その中に「7日間の新規死者数(人口100万人あたり)」も含まれています。
 このサイトでは、過去のデータも閲覧することができ、私が確認したところ、記事に取り上げられている数値と概ね一致しました。記事中のデータは信頼できる機関が提供しているデータベースのデータを使っていることが明らかになりました。
 
②公平な比較か?
 「データの比較がどのように行われているか」はとても重要なポイントです。好ましくない比較がなされ、人々を間違った理解に誘導するニュースや記事を目にすることがあります。ここではどうでしょうか?

 ”人口100万人あたり”とは、人口規模で補正をかけたデータで、人口の影響を排除した数値です。 
 例えば、人口10億人の国で8,000人が死者がいた場合、
  ・100万人あたりの死者数は8人
 となります。(人口1000万人の国で80人が死亡したのと同じ)
 国と都市の比較という点は少し気にはなりますが、大阪くらいの大都市であれば、国との比較も大問題ではないと思います。
 よって、この数値を用いたインドと大阪の比較は公平と考えられます。

③他の国や以前の状況はどうか?
 ①②だけでは納得がいかないので、7日間の新規死者数(人口100万人あたり)をもう少し調べてみました。
 すると、以下が分かりました。
・5/1 ハンガリー132.6人、ウルグアイ111.1人など数か国において、100人を超えている
・1/15では、米国71.9人、ドイツ67.8人

 これらは、5/5のインド15.5人よりもはるかに大きい死者数です。この事実から、インドの新規死者数が異常値(低すぎる)で、現実と乖離していると解釈できます。
 これを裏付けるニュースがロイターより配信されていました。このニュースでは、インドの感染者数や死者数が公表の5-10倍に達している可能性があると指摘しています。

3)まとめ

・大阪の100万人あたりの新規死者数がインドを上回ったという記事は、政府の会議資料の引用で始まっている
・同資料で使われているデータは、公的機関が提供するもので、信頼性は低くない
・しかしながら、インドの7日間の新規死者数(人口100万人あたり)15.5人という数字は、現実を反映したものとは考えにくく、異常値と判断するのが妥当
・大阪の19.6人は、国内では群を抜く高い数値であることは間違いないが、インドとの比較は読者に誤解を与える可能性がある
・すなわち、数字の引用に適切でない部分があると言える

おわりに(筆者所感)

 この記事を最初に見た時、どこかに過剰な演出があると直感的に思いましたが、まさかのデータエラーという結末でした。札幌医科大学の提供するデータベースは信頼できると考えていますが、地域によっては正確なデータの入手が困難という事実もあるようです。
 改めて、データを丁寧に見る必要性を感じた次第です。

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