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お笑い初期衝動

55.3人で

田中三球と僕でスタンダードな漫才を一度ネタ合わせしたが、手応えを感じなかった。
それもあってだろう。
次回のネタ見せの日に、田中三球と顔を会わすと、田中三球はこう言った。

「河合と3人で試しにやってみようか。」

河合、田中、僕。一体この3人で何をやるつもりなのか。
僕には全く見当もつかなかったが、田中三球の頭の中にはぼんやりとイメージがあった。

田中三球とドクター河合で、元々、コンビ用として作ったネタがあった。
それは一風変わったネタで。ドクター河合をセンターにただ黙って立たせ、横で田中三球がずっと河合をイジり続けるというコントだった。

そこに今回、僕が加わり。
センターにドクター河合、その両サイドで田中三球と僕が交互に河合をイジっていく。
これが田中の「試しにやってみようか」の案だったのだ。

この案でやってみようとなったとき、僕はやや戸惑った。
なんせ、当時の僕の中の笑いの教科書にはないようなネタで。
普通はイジるといっても、それなりの設定があって、フリがあって、ツッコミがあって、というものだが。
このネタには、まずそれらが一切ないのだ。

ドクター河合が何も発せず、センターで仁王立ち。
イジる側も、特に設定を説明するセリフもなく。
何の脈絡もないイジりで、フリもなしに、一発で笑わせないといけない。
言わば、どんなふうにイジるかの大喜利のようなネタだった。

なんてハードなネタなんだ…。
養成所に入ってまだ2ヶ月程度で、突然こんな難題に取り組まないといけなくなったか。

内心そんなふうに感じたが。
その横で、田中三球が「へぇ~、こういうのは苦手なんやぁ」という表情をうっすら見せた。

田中三球は元々自分が考えたネタだったからか、案外余裕綽々といった感じで。
むしろ、若干の上から目線で僕を見ていることに気づいた。

その瞬間、僕もスイッチが入る。
やってやろうじゃねえか!と燃える気持ちがわき起こった。
同期に負けてられるかと。

ネタ見せの時間まで、あと3時間。
僕は懸命にアイデアを練った。



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