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水滸伝 爪牙の章(十四)

読んだ本:水滸伝 爪牙の章(十四)
作者:北方謙三

【シリーズのネタバレ注意】
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この記事の作者は以下の本を読んでいます。
よって予期しないネタバレをするかもしれませんがご了承ください。
北方水滸伝・楊令伝・岳飛伝・チンギス紀を読了済み。
(楊家将・血涙・史記シリーズも読んでます)
15年ほど前に水滸伝読了後、最近になって続編を読破。その後水滸伝を読み直し中。ふと感想を書きたくなってこのシリーズを開始。
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裴宣と孫二娘、王英と扈三娘、それぞれがひっつこうとしている様子が着実に描かれてますね。前者はもう報告まで済ませてますけど。結婚に疎い作品なのに二組同時に描かれているのは先生が気が向いたからなんでしょうかね。それにしても誰と誰がどのタイミングでどうやって結ばれるかとかはどうやって決めているんでしょう。ある程度史実に沿っているにしてもその辺は創作の範疇ですから、まさに気が向いたらとかなんでしょうか。
裴宣と孫二娘はお互いに仕事で一緒にやっていくうちに仲良くなったみたいですが、王英と扈三娘は片思い中の王英が命を救う形で接近していってました。現代で命を救ったとかの間柄なら即恋に落ちそうなもんだけどなと思いながら読んでました。

後の楊令の弟分である張平が子午山に父とともに向かいました。途中張平にも子午山に預けられる妥当な理由付けが描写されていました。理由は分からないけど相当の盗み癖を持っているとのことのようです。盗み癖を何とかしてやりたいけど、どうしようもできない無力感が張横の父としての苦悩が心に残っています。父さんなりに愛しているつもりなんだけど、実はどこかで道を間違っていたんだという後悔もしてるんだろうな。
今では科学が進んである程度答えありきの社会になってしまっているけど、こういう精神的な課題をどう克服していくかというのも昔ならでは解決法が羨ましく感じる。戦争はよくないことだけど、そのために身体を鍛えていく過程で得られる精神的な成長は現代人からすると輝いて見える。
張平も張平できっと繊細な面があって、そのはけ口が盗みという形で表出してしまったんだろうな。繊細さなのは楊令も一緒だから相性よかったんだろう。

史進が闇の妓楼で刺客に襲われて素っ裸で暴れまわったというコミカルな事件が発生した回がここでした。しかも林冲と盧俊義は部屋からなかなか出なかったのは致したかったか否かの賭けまでしていたそうです。
彼らの日常では大なり小なりこういうことは普通に行われているんだろうけど、改めて描写されると面白いですね。しれっと柴進が連れ去られそうになったけど、呂牛の判断の速さがすごすぎる。連携していたわけじゃないのにいつでも連れ去らう用意をしていたのは有能ですね。

ついに20万の宋軍が梁山泊に攻めてきました。
そして樊瑞が袁明の暗殺に失敗し、内臓を破壊される拳を食らい、自分の死と向き合う描写もありました。まさに北斗神拳の領域です。あれって創作だと思っていたけど本当はモデルとなる体術があったんかな。
死とはなくなること。すべてがなくなること。今まで生の方向に傾け続けてきた安道全との会話は重みがありました。

宋軍もただ20万で攻めてくるのではなく、完全に殲滅を狙っています。
董万が4万で清風山を攻め、趙安は死に兵を使ってまで流花寨に猛攻をかけようとしています。この辺りの駆け引きは正直本を読んでいても想像がしづらいのですが、数を示されると圧倒的に劣戦なんだろうなというのは分かります。もう少し兵がどのように動いて戦況がどう変化しているのかが分かるようになればまた違った読み方ができるのかな。

燕順が決死の覚悟で守っていたものの圧倒的な数(4万対300)の前では歯が立たずついに散ってしまいました。見殺しにしてでも一日でも長く守り抜くしか最適な解がないという状況下で戦人らしい覚悟と死に方でした。制圧した董万が驚いたのは、逃げ道を完全に塞いでいたことです。たった一行のその描写で燕順の覚悟の深さを物語っています。そしてそれをやり遂げる意思の強さは見習いたいです。
この巻は最後に花栄の強弓が宋軍将校を狙い撃つというところで話は終わっています。


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