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愛を知った私に贈る『風たちぬ』

なんとなくジブリの新作だし見てみよっか

そんな感じで映画館に観に行ったと思う。

寝た。

人生で初めて映画館で寝るということを経験したのはこの時だった。

大きな盛り上がりもなく淡々と過ぎていくストーリー。
よくわからない飛行機の話。

前日の疲れもあってぐっすり眠ってしまった。

話の内容はほとんど覚えていなかった。

よくわからない面白くもない話だった。
何せ映画好きの私が寝てしまうくらいなんだから。

そんな感想をもつだけの2時間を過ごした。

でも、周りの人の評価は違った。

感動して何度でも観たいと言っている人
あの旦那さんは何なんだと憤慨している人

みんな何かしらの感情を抱えていた。

それから数年後、地上波放送で同じ作品を観る機会があった。

あの時多くの人の心を動かした作品。
私ももう一度ちゃんと観てみたいなと思っていた。

二十歳になったばかりの、あの時映画館で眠ってしまった私を
殴りたいと思った。

こんなにも色々な感情が湧いてきて胸を締め付けられる作品だったとは。

私の中でのお気に入りランキング上位に悠々と入ってきた。

おそらくあの時の私にとってはあの感想が素直なものだったのだろう。

まともに人を好きになったり人を思いやったりすることを
まだ知らなかったあの時の自分には、今のこの感情は理解できまい。

たくさん人を傷つけ傷つけられ愛され愛し裏切られ

そんな経験を積んだ自分だからこそこの物語の愛の部分が
深く胸の内に入ってきた。

大好きな人だからこそ自分のことなど気にせず
大好きな人の大好きなことに集中してほしい。

愛しているからこそ自分が犠牲になっても構わない。

こんな気持ちが理解できる人間になるなんて。

あの時「あの旦那さんは何なんだ」と憤慨していた人は
この境地に達したのだろうか。

愛を知るのは素晴らしい。
と同時に苦しみの始まりでもある気がする。

#映画にまつわる思い出


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