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無駄を楽しむ

世はまさに、大ショートムービー時代。
tiktokやyoutube shortではリコメンド機能によって、自分に合った60秒以内でサクッと観れる動画が次々に画面に表示される。
興味があればそのまま視聴。興味がなければスキップして好きな動画を探す。
タイムパフォーマンスといって、短い時間の中でいかに効率良く情報を収集するかという考え方がZ世代では主流とのことだ。
この世のすべてがそこに置かれているらしい。

自分もその傾向は否めない。TVerでテレビを見るときはスキップを繰り返し1時間の番組を10分で見終えたり。
NHKで放送されている『100分de名著』は1.5倍速機能を使い『66分de名著』にして観ていた。(なお、内容がほぼ入ってこないのでオススメしない)

そんな大ショートムービー時代に生きているわけだが、
数年前から時々、ラジオや落語を聴くようになった。
海外旅行中、数時間の移動時間にどうしても飽きてしまい、時間潰しに音源をダウンロードし始めたのがきっかけだ。

落語は題目にもよるが30分前後のものが多いし、
ラジオは1本1時間半〜2時間ほどの時間がかかる。

とにかく長い。ラジオなんかよく話が脱線するし、集中力もすぐに切れてくる。
一見すると無駄に思える部分もあるコンテンツだが、無駄も全て含めて楽しんでいる。


以前、能を観に行った。
インターン先の知り合いから1枚チケットが余ってるとの連絡をもらい、
やることもなかったので行ってみることにした。

事前知識は全くなし、前の方でかなり良さそうな席。
周りは品の良さそうなお爺さん、お婆さん達で埋め尽くされていた。

下調べもなしに、ラフな服装できてしまったことを後悔する。
自分には場違いすぎるし、どう鑑賞すればいいのか分からない。

小袖曾我という演目。
兄弟とその母が主な登場人物。出家しなかったことで母に勘当された弟は、父の仇討ちが見つかり、討伐前に母の元を訪ねることに。
母は弟を認めようとはしないが、兄がうまく間を取り持って、和解をするという物語。

とにかく長い。説明すれば10秒で終わる話を1時間ほどかけて行う。
母が舞台袖から現れてから、兄と母が初めに再会するまでの舞台の移動だけで5分ほどかかっていたような気がする。
時間が過ぎず、苦痛な時間が流れる。
これをどう見ればいいのかと悩み、周りを見渡すと
お爺ちゃんお婆ちゃんも皆寝ていた。

ははーん。能って特権階級の文化だし、あまりにも暇すぎてとにかく時間を潰すために生まれたものなんだろうと、失礼極まりないことを考えていた。

自分もうとうとしながら、早く終わらないかなと思いながら眺めていると
突如親子が舞を踊り出した。
どうやら和解して踊っている様子。現代だとパリピと呼ばれる親子なのかもしれない。

親子はダイナミズムに動き、気づけば魅了されていた。
客席からも少し感嘆の声が聞こえる。

ダイナミズムとは言っても、別段早いわけではないのだが、
今までの遅さを基準に考えてしまうので、とても強く躍動感がある。
倍速で英語を聞いた後に通常スピードに戻した時みたいな。

終わってみると、ストーリーの何が面白いのかは正直分からなかったが、
なんとなく来てよかったなと思った。

無駄な時間も無駄ではなくなってしまうというか、
無駄だからこそ、楽しみを見出そうとすることも時には合ってもいいのかもしれない。

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