主役はイザナミ••花の窟(1)ーイザナミの墓所

熊野三山の祭りについて書いてきましたが、書いているうちに気がつきました。「主役はイザナミ!」。本宮では3日目の渡御祭で、新宮では御船祭り、関係ないように思われるお燈祭りでも最後はイザナミを祀る速玉大社第一殿での特殊な奉幣神事で祭りの幕が閉じます。那智はイザナミが主祭神ですから、当然イザナミが主役です。イザナミは熊野の神としては夫須美神、あるいは牟須美神とされます。牟須美は結、御垂迹縁起の「結玉」の「結」です。そしてこの神がイザナミだとされていますから、ここではイザナミとして話を進めます。
神話の中でイザナミが熊野に関わって登場するのは二つのエピソードです。一つはイザナミの墓所に関する話、もう一つはイザナギの黄泉(よみ)帰りの話です。
まずイザナミの墓所からです。国道42号線を新宮から伊勢に向かうと七里御浜のシーサイドドライブが楽しめます。熊野市街に入る手前、国道から少し左に入った場所に花の窟(はなのいわや)神社があります。ここが『日本書紀』に書かれているイザナミが葬られた場所だとされています。その部分の記述です。
「一書曰、伊弉冉尊火神を生み給う時に灼(や)かれて神退去(かみさり)ましぬ。故(か)れ紀伊国熊野の有馬村に葬(かく)しまつる。土俗(くにびと)此神の魂(みたま)を祭るには、花の時に花をもって祭る。又鼓吹幡旗(つづみふえはた)を用て歌い舞いて祭る」とあります。
イザナミは火の神カグツチを産んだことで火傷して亡くなります。『古事記』ではイザナギは愛する妻が亡くなり、その原因となったカグツチを斬殺し、泣きながらイザナミの遺体を葬ったとあり、その場所は出雲と伯伎(ははき、伯耆)の境の比婆山(ひばのやま)。今の島根県東部と鳥取県西部の境です。具体的な地名は書かれていないため、この両県プラス広島県北部にその場所だとされる所が数ヶ所あります。そこには何故か熊野神社が祀られています。さらに宮内庁が管理する岩坂陵墓参考地まであります。これは戦前に指定されていますが、戦前の皇国史観のもとではイザナミの墓があるということが地域の誇りだったわけです。広島県北部の比婆山はヒバゴンという怪獣?が棲んでいてその姿を見たということで一時評判になりました。山深い場所です。それに比べると花の窟は、国道から少し入っただけですから、その気になれば誰でも訪ねることができます。どうして比婆山のほうが有名になったのでしょうか?『古事記』では、出雲と伯伎の境の比婆山となっていますが、こちらは紀伊国熊野の有馬村と具体的です。郵便を出せば届きます。前書きはこのくらいにして花の窟をご案内しましょう。



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