見出し画像

(改訂・増補)雅楽・龍笛【楽譜解説】 平調「越殿楽」譜面に装飾技法を注記しました

雅楽の平調(ひょうじょう)「越殿楽」(越天楽、えてんらく)の譜面に、書いていないこと、書いてあっても意味が分かりにくいことを解説します。

下の譜面画像で、最初から印刷されているのは筆書きの部分だけです。他は私、凛が付記しました。

画像1

(譜面は香川雅正会「雅楽龍笛譜」より)

①小曲
大・中・小は、曲の格付けを表します。長短とは直接関係ありません。

②早四拍子(はやよひょうし)
打楽器パートの指示です。
「早」は小拍子=こびょうし=(小さい黒丸と小さい黒丸の間)、すなわち大きいカタカナ2文字が、4拍です。大きいカタカナ1文字=2拍です。
「四拍子」は、小拍子4回に1回太鼓(大きい黒丸)が打たれることを意味します。
*「拍子」という語にはいろいろな意味があるので、注意が必要です。

③「拍子八」(ひょうしはち)
この場合の「拍子」は太鼓と太鼓の間を意味します。打楽器パートは、太鼓と太鼓の間が1サイクルです。「八」ということは、8サイクルあることを意味します。この曲の場合は、3行目を無視して数えています。1・2行目を2回ずつで、「拍子八」となります。

④「末二拍子加」(すえにひょうしくわう)
末尾の「二拍子」=打楽器パート2サイクル=に、「加え拍子」という奏法を用いるという意味です。
「加え拍子」は打楽器パートの奏法で、複数のパターンがあります。
打楽器パートの演奏は「打ち物譜」で学びます。
参考:中村仁美 篳篥|「簡易携帯版! 雅楽打物譜 どうぞ」

⑤「后度十二」(こうどじゅうに)
「后」は「後」と同義です。「楽曲を二度以上演奏する時、または部分的に繰り返す時の二度目の意」(『雅楽事典』里文出版)。
越殿楽における「2度目」は重頭(後述)から最初に戻って2行目で終わるので、后度は12拍子(=サイクル)になる、という意味です。

⑥「二返」(にへん、にかえし)
繰り返しの指示です。前出指示(初出は冒頭)からそこまでを2回吹きます。

⑦重頭(じゅうとう)
大前提として雅楽には、「最後まで行ったら最初に戻る」「どこで止めるかは申し合わせで決める」という了解事項があります。(だから譜面には終わりがどこか書いてありません)。
「重頭」は「頭と重ねなさい」「ここも頭です」という意味です。
つまり実際は、上の譜面では、行末の「二返」までを2回吹いたら冒頭に戻ることになります。
「換頭」(かんどう)というものがあります。これは、「冒頭部分をこちらに取り替えなさい」という意味です。
「換頭」と併せて考えると、「重頭」の意味が分かりやすいかもしれません。

⑧切り所(きりどころ)
横線と斜線。タイミングを図りながら息継ぎをします。文字の途中で切る場合に、見やすいよう斜線としました。

⑨止め所(とめどころ)
特に申し合わせが無い場合、止める箇所は曲ごとに共通理解があります。
上の譜面で○で「止」としている箇所です。ここまで吹いたら、フレーズを変え、「止め句」で終わります。

⑩止め句(とめく)
上の譜面では、止め所のフレーズに入った後の、切り所以降、「ト」です。
調子(平調<ひょうじょう>、双調<そうじょう>など)ごとに、決まっています。
なお、祭典奏楽などその場の状況により合図で止める場合は、主管(後述)による「途中吹き止め句」で終わります。(平調の場合はこちら参照https://youtu.be/Pi-2ndUtsBk<千唱万吹 SHINさんのチャンネル>)

⑪付所(つけどころ)
雅楽は、多くの曲が「音頭」(おんど、おんどう)と呼ばれる龍笛の独奏で始まります。龍笛が二人以上いる場合、音頭を吹く人を「主管」(しゅかん)、それ以外の人を「助管」(じょかん)と言います。
助管が吹き始める箇所を「付所」と言います。
なお、主管は止め句も担当します。助管は、止め所(上の譜面で「六 ロ」)までしか吹きません。

⑫セ
「責め音」で吹きます。
もとの楽譜では全ての責め音に「セ」と書いてあるわけではありません。上の譜面画像では、凛が書き足しました。
なお、書いていない箇所は前出と同じという意味です。

⑬ふ
和(ふくら)音を出す箇所です。普通、譜面には書いてありません。
譜面画像ではこちらも、書いていない箇所は前出と同じという意味です。

⑭〃(叩く)
例えば、譜面画像1行目真ん中辺り「トラハ」の「ハ」の右側に書いてあるもの。譜面の筆文字ではテンテンがつながっていて、分かりにくいかもしれません。
原則として隣接の穴を叩きます。

動画:東京藝術大学 小泉文夫記念資料室

⑮当てる
唇を瞬間緩めて、アクセント音を出します。

⑯押す
アクセント音の一種です。「当てる」より長く鳴らします。

動画:同

⑰経過音
譜面に書かれている2音の間に、1つ音を挟みます。いくつか種類があります。平調越殿楽の場合は、「折手」(おるて。「折指」<おりゆび>とも)のみ登場します。

動画:同上

⑱まわす(回す)
円を描くように指を動かすことで、音を滑らかに上下させます。「スル」とも言います。

動画:同上

⑲すりあげる(すり上げる)
指や管(笛自体)の操作で、隣接音へ滑らかに移行する奏法です。
この動画では、「五」の指で管を向こうへ回しています。

⑳「丁」の音
指押さえで「丁」と記す場合、実音では「上無」「神仙」の2音のパターンがあります。左人差し指を浅く添えると「上無」、半押さえすると「神仙」の音になります。越殿楽の場合は「上無」です。


*龍笛サークル(京都府・宇治市)の入会を随時受け付けています。
「龍笛サークルばう『ばう』 基本情報(参加要項)」をお読みください。

社会人初心者が、実技も座学も基礎から系統的に学べる、雅楽伝習所を宇治に創りたいです。