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ホントシオリ vol.15

2020.03.13 LOFTproject RooftopWEB 掲載

あなたには出会えてよかったと思えた作品、作家さんにめぐり会えていますか?
文章を作る方も人間だから作品名や内容が異なっていても、“その人らしさ”みたいなのを感じるときがある。なんとなく好きな作家さんを知ると相手がどんなモノ、コトが好きなのか、少しだけわかる気がする。
前回「ホントシオリvol.14 作家特集」として、の平成墓嵐突鬼隊・LIQさんがご紹介をしてくださった矢部嵩さんのご紹介に続き、今回はわたしが今でも影響を受けているというよりも性・生に対する大切な感覚を思い出させてくれる作家さんとして川上未映子さんをご紹介したい。

川上さんの作品で“楽しいな”と思うのは文章の描き方がとても楽しくて、脳みそそのものがぶわっと溢れ、そのままの言葉がさらさらと綴られているような印象を受ける。漢字よりも柔らかい平仮名の羅列が多く、その平仮名によって読み手側の捉え方や想像力がさらに膨らむような感じがする。
「乳と卵」も妹の夏子と娘・緑子の客観的な心境が交互に現れ、大阪弁による長い一文で構成されている独特な文体で。きっと、好みは白と黒にハッキリと分かれると思う。

母と娘を通じて感じる、女のリアル!
川上未映子「乳と卵」文春文庫 / ¥500+tax


『乳と卵』を手にした2008年。当時、専門学生だったわたしは食いしん坊すぎて、「牛“乳”と卵」と解釈をし、お料理を通しての物語なんだ、と勝手に思ってしまい、自宅に帰って背表紙に書いてあるあらすじを読んでようやく気付いた。おっぱいの意味での“乳”と卵子の意味での“卵”なんだ、と。

わたしが絶望のような経験をしたのが、忘れもしない“あの日”。そう、忘れたい記憶なのに忘れられない。小学6年生の臨海学校二日目。
みんなが寝静まった大きな広間。強烈な吐き気と寒気と共に目が覚めてしまった。ただただ気持ちが悪い。真っ暗闇の中、みんなを起こさないように静かに間を通り抜けて、お手洗いに向かうと…真っ赤だった。なにが、とは言わないけれど。今までにない経験にすごく驚いて、とにかく血を止めようと必死で。くるくるくる~っとまとめたトイレットペーパーをパンツの中に忍ばせ、何もなかったかのように寝ようとしたんだけど、完全に失敗していた。女性ならすぐにピピンとくるかもしれないんだけど、シーツも真っ赤に染まっていた。(なんならいまだに何年生理と付き合っているんだ?という年月が流れているのに、いまだにたまに失敗をする)これがわたしの忘れられない、初経を迎えた日。

本作品はシングルマザーの巻子が娘・緑子を連れ、豊胸手術のため妹の夏子の元を訪ねる真夏の三日間を描いたお話。
とにかく娘の緑子が嫌悪する女の性の部分の生々しさが年頃の女の子の現実(リアル)そのものだとわたしは思うし、異性の皆さんにも女の子がどんな葛藤を抱きながら女性を生きているのかを感じられると思う。…むしろ、感じて頂きたい!

―もしあたしに生理がきたらそれから毎月、それがなくなるまで何十年も股から血が出ることになって、おそろしいような、気分になる、それは自分では止められへん。…(中略)…生理がくるってことは受精ができるってことでそれは妊娠ということで、それはこんなふうに、食べたり考えたりする人間がふえるってことで、そのことを思うとなんで、と絶望的な、おおげさな気分になってしまう、ぜったいに子どもなんか生まないとあたしは思う。 緑子―

「乳と卵」p.31-p.33

これは本当に生理が来る前のわたし自身も緑子と同じような気持ちを抱き、思っていた。
他にも、大人になるにつれて、“わたしは毎日なんのために化粧してるんだろ?”とか“誰のためにキレイになろうとしてるんだろ?”とかをふとしたときに思い、考える時期もあって。
結局、わたしは今、自分以外の誰かのためではなくて自分自身のモチベーションの維持や自分のご機嫌取りのためにやってる。新作の化粧品を手にするだけで、すごくテンションがあがるし、お洋服に合わせて、毎朝鏡の前でリップを塗るだけで、“今日も頑張ろう!”と思える魔法みたいなモノ。ただ、老化をすることにはやっぱりちょっとした怖さも感じるし、可能ならばいつまでも若くいたいと(精神的にも体力的にも)思ったりもする。親になってもずっとずっとキレイな女性であろうとする巻子は、びっくりするほどのクレイジーな部分もあるんだけど、ちょっぴり共感もする。
自分の性や、性に関係するアイデンティティについて、川上さんが川上未映子としての表現120%を使って、言語化してくれた作品のように感じる。
女性はもちろんなんだけど、異性の方にこそ、是非!と思う作品。


今日はとびっきりの“おめかし”して心踊ろう
川上未映子「おめかしの引力」朝日文庫 / ¥660+tax


最近、阿佐ヶ谷ロフトAのスタッフ達と「とびっきりのおめかしをしてお出掛けしたいよね♪」と、言う会話をよくする。ここで、彼女たちに対して“好き”と思えるポイントが“お洒落”ではなく“おめかし”と言う言葉を選んでくれるところ。わかります?このニュアンス。

―「おめかし」という言葉自体が、懐かしいような甘い感情を喚起させて、ステキなタイトルですよね。
川上:「めかす」の字義的な意味は、化粧のことであり、大人の女性が気取ったり着飾ったりというニュアンスになるけれど、わたしの感覚では、小さな子どもに「今日はおめかししてるね」といったりする感じがぴたっときます。…(中略)…「おしゃれ」と「おめかし」にあえて違いを見つけるとしたら、「おしゃれ」って、やっぱり他人の評価が入っている気がするんですよ。…(中略)…自分がいいと思うものを自分だけで肯定できるのが、「おめかし」だと思います。―

おめかしについて語るときにわたしたちの語ること
聞き手:江南亜美子 p.255-p.256

本作品内に江南亜美子さんと川上未映子の「最新のおめかしについて」の対談が収録されていて、本当に考え方がしっくりきてしまい、数々の川上未映子さんの作品を拝読しているけれど、さらに好きだな、と思えてしまう。
わたし自身、スタッフとの会話として前置きをしましたが「とびっきりのお洒落をして~…。」と、言われるとなんだか不安になる。今、流行しているお洋服とかにも疎くて(一応、毎月雑誌も眺めるけれど、似合う気がしない)、メイクもわからないから“お洒落”がわからない。“おめかし”は、自分の中で“今、自分が好きで一番よく見える”みたいな感じに勝手に捉えていて、他人の目や評価を気にしない感じがして、対談でもお二人がお話をしているのもあるけれど“おめかし”という言葉、響きもニュアンスもとても好き。

きっと、お気に入りの一着って女性だけではなくて、異性の方もあると思う。むしろ、おめかしには性別も年齢も一切関係ないと思っているので、だからこそ、いろんな方に読んで頂けたら嬉しい。
川上さんの“おめかし”にまつわる失敗談や憧れがぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅーっと詰まった一冊で、それぞれ、どのお話もほとんどが片面1ページで終わるのでサクサク読めてしまうし、作業の間の息抜きにも読めてしまい、くすっと笑えるチャーミングな川上さんが浮び、読んでいても楽しい♪
個人的には「セレブ洗剤の使い方」はまさに今のわたし自身の生活に近くて読みながら笑ってしまった。皆さんも洗剤って買うでしょ?お洋服用の。正直、わたしは洗剤の違いってにおいとパッケージ以外、全く違いがわからないし、こだわりもない。ただ、最近、“余裕のある暮らし”と“余裕のある女性”に対しての憧れが強くて、普段は400円くらいで買っているお洋服用の洗剤を使っているんだけど、何を思ったのか、この前、お気に入りのセレクトショップでシンプルなデザインで、においも好きな香りを見つけて買ってしまった。お値段3,500円。普段の洗剤の倍以上の価格。(作品内で同じことを川上さんが経験をしていて、お値段4,000円…!)おかげで、その月は“余裕のある暮らし”でも“余裕のある女性”でもなく月末にはカツカツな現状維持に必死なわたしがいた。(笑)身の丈に合う生活って大事だな、って学んだよね。
そんなきっとあなたが経験したことも本作品のどこかに川上さんの言葉で描かれているはず!そんなことを探しながら読むのも面白いと思う!


今回、平成墓嵐突鬼隊・LIQさんとのコラム連載ということで、LIQさんともご連絡をしつつお互い原稿2,000字くらいで、と言っていたのに…見事にLIQさんもわたしも2,000字を軽く超えちゃいましたよね…。(笑)やっぱり、好きなモノ・コト・ヒトってなると魅力がたくさんで、どんどん溢れてきちゃって、あれもこれもで増えちゃうのよね。仕方ない!だって、好きだから。(わたしの場合はただただ文章の書き方が下手くそなだけ=まとめる力がない)
LIQさんおすすめの矢部嵩さんの作品もぜひ、みなさん読んでみてくださいね!(WEBで読めちゃうのでとってもオススメ!)

そして、わたしが紹介をしなくてもほとんどの方が知っているであろう、川上未映子さん。川上さんの言葉の旋律で文章の楽しさ、面白さを感じながら、女性としての性を(もちろん、異性の方にも)どうに生きていくかを改めて考えさせられる、そんな作品をご紹介させて頂きました。
ムック本になりますが、穂村弘さんとの対談や書き下ろしもある「ことばのたましいを追い求めて」もオススメです。

春の風、空気を感じながら、ぜひ読んでみてください。

川上未映子「ことばのたましいを追い求めて」KAWADEムック文藝別冊 / ¥1,430

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