ホントシオリ vol.03
2019.04.19 LOFTproject Rooftop 掲載
『今日、暇ですか?』
そんな連絡が入ったら、どんなに仕事が忙しくても会いたくて、すぐに仕事を全部片付け、すごく疲れていたとしても彼のもとへ走り出すだろう。そうゆうタイプ。これが俗に言う“都合のいい女”である。きっと。
学生の頃の話なら「そんな恋愛もあるよね♪」と笑って流すこともできるのだが、もう今年で29歳。いい歳(周りは結婚もし、子どもが3人くらいいる)をして、今でもそんな恋愛をしてしまう。なんなら、すごく歳下の掌で転がされている。彼もまた本作品の登場人物、マモちゃんのように“私を好きではない”。だからこそ、テルコが痛いほど自分にしか思えなかった。
“あ、テルコってわたしだ。”
頭の中ではちゃんとわかってる。君は振り向かないって。
角田光代「愛がなんだ」KADOKAWA / ¥520
作品の主人公である28歳OLのテルコ。飲み会の席で出会ったマモちゃんに恋をした。彼から電話があれば仕事中でも長電話。食事に誘われればさっさと退社。だが、彼はテルコのことが好きじゃない。
帯には“不毛な恋愛をする人に刺さる”と書いてあった。不毛な恋愛がなんなのかわからずに読んでいたんだけど…。
不毛な恋愛をしている人は自覚があまりないのかもしれない。自分に非があるのか、相手に非があるのか。周りにいくら否定をされたとしても好きなときは周りがなんと言おうが好きの気持ちは変わらなくて(相手のことを基本的に『自分にはもったいないくらい“いい男”』だと心の底から思っている)。全てが終わったときに周りの声、言葉がちょっぴり正解だったかも、と気付く…時もある。
作品を読んでテルコの気持ちがわかってしまった人や自分と重ねてしまった人は不名誉ではあるけど…きっと、仲間なんだろうな。読んでいるときは、マモちゃんに全く興味もわかないし、ステキな人とも思わないし、思えないんだけど、ね。現実として、自分に置き換えると…心が痛くなる(笑)。
いつだってそう。恋愛をすると振り向かない相手を好きになり、あやふやな関係になる。そして、しばらく経つとその恋が叶わないこと、一緒に過ごせない現実に心が切なく悲しくなり、ぎゅっと苦しくなり、自然とこれ以上傷付かないように、と諦めてしまう。
朝方、ベッドから起き上がり身支度を整え、ドアを開けていく彼の背中を見るたびに何度も味わう虚無感。これが“不毛な恋愛”…なのか、と。
阿佐ヶ谷ロフトAでアルバイトスタッフとして勤めていた頃に今泉力哉監督作品「サッドティー」のイベント開催があった。真っ直ぐに作品への思いを伝える監督の姿勢や身振り手振りをつけた熱量の伝わる話。何よりもその時に観た作品がとてもステキだったことを覚えている。それ以来、すっかり今泉監督作品のファンになってしまった。(個人的にはやっぱり思い出もある「サッドティー」がとてもお気に入り)今回、今泉監督により本作品の映画化が決定し、原作がどんな風に今泉監督の世界、視点によって届けられるのか…映画公開をとても楽しみに今年の春は過ごしている。
好きだからこそ、些細な変化にも気づいて勝手に傷つく。
ただ、幸せになりたいだけなのに…な。
ますだみく「匂いとか想い出の消し方とかわからないから、上書き保存できたらいいのに」KADOKAWA / ¥1,500+tax
ふと彼が横をすり抜けるときに“いつもと匂いが違う”と気づいてしまう。気づいていても気づかない、気づいていないフリをして平然と装う。今日で何度目だろう。
同じように触れ合っているはずなのに、彼の気持ちはわからない。何事もなかったかのように隣で静かに眠りにつく。距離は近いのに、すぐに触れられるのに、心はすごくすごく離れていることに心が締め付けられて眠れない夜を過ごす。
きっと、わたしの存在は彼の中ではたくさんいるオンナの中のひとりにしかすぎなくて、代わりなんてたくさんいるんだろうな。そんなことを彼がいないベッドの上でふと思う。いつ来るかもわからないから歯ブラシも買ってある。バスタオルも買い替えた。部屋の掃除もするようになった。だけど…。
昨年、作品を手掛けたますだみくさんに当店阿佐ヶ谷ロフトAのBARスペースで個展『Re:menBar』を開催して頂き、書籍を読んでから依頼をしていたので作品と、ますださんの人柄とのギャップに驚いたのを覚えている。すごく柔らかい雰囲気でお洒落でとって笑顔が似合う方で。この方が作品のように“こんな切ない思いや心が引き裂かれてしまうような恋愛をしているの?”と、イメージが全くつかなくて…結局、最後の最後までその真相(恋愛事情)をますださんにお伺いすることができなかった。
作品のおわりには、
と、ますださんの正直な気持ち、想いが丁寧に綴られている。
幸せを、他人になんて決められたくない。好きになったら、気持ちは止められない。
安心できる、自分だけの場所を見つけたい。こっちを向いて、私だけを見て欲しい。
そんな本当は伝えたいけど、伝えられない想いを抱えた4人の女の子たちの“切な過ぎる恋愛”の物語。漫画作品なので、登場人物の感情が表情でわかったり、背景でどんな気持ちが入り混じっているのかもわかりやすく、とても素敵な一冊。漫画だけではなく下部に書かれたシンプルな言葉にぎゅっと苦しくなったり、共感して思わず涙が溢れてしまったり…。ますださんの優しさ、経験に包み込まれる。読んでいても苦しさだけで終わらないのは、「よく頑張ったよ。一緒にいるから泣いてもいいんだよ?強がらなくてもいいんだよ。我慢もしなくていいよ。」と、そっと隣にますださんが寄り添ってくれているような、そんな温かさを感じるから。
恋愛は、お手本もなければ、正解もない。教科書もない。好きな人が自分のことを好きになる保証もないし、どんなにお互いが想い合っていたとしても気持ちが急に変わることだってある。“好き”だと気付く始まりの合図もなくて、離れたときに相手の大切さや自分の気持ちに気づくこともあって、悔やむことだってたくさんある。みんながどんな恋愛、経験をしてきたのかはわからないけれど、痛みや苦しみも大切。溢れる幸せや穏やかな時間だけが恋愛じゃない。いろんな経験を積み重ね相手には“そんな気持ちにさせたくない”って思うと自然と優しくできるんだよね。きっと。過去の恋愛や経験がなかったら、今、好きな人と出会えてなかったかもしれない。“過去があるから今がある“そう思わずにはいられない。
今回は2冊の作品を通して「”不毛な恋愛“ってなんだろう。」と思い、向き合いながら、自身の恋愛と重ね紹介をしました。きっと、みんなもいろんな恋愛をして、今日もいろんな想いを抱えているんだよね。誰にも話せない、言えない、そんな時は今回紹介した2冊を手に取ってみて。
ひとりで読むのは心細いと感じたらペトロールズの楽曲「アンバー」をBGMに流して、そっとページをめくってみて。物語の世界をより感じられるから。(楽曲紹介:阿佐ヶ谷ロフトAスタッフ 田中いずみ)
今日も恋愛小説(漫画)に手を伸ばす。
きっと、“こんな風に愛されてみたい”っていう願望が心の片隅にあるからだと思う。現実では感じられない“誰かに愛される”という感覚を補うために。
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