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石川臨太郎の「生涯パートナー銘柄の研究」日本通運(9062)(現・NIPPON EXPRESSホールディング(9147))2015/06/30

割引あり

※このレポートは2015年6月に作成されたものであり、企業情報や数字等は当時のものです。またリンク先の変更によりリンク切れの場合があります。あらかじめご了承の上お読みください。

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        石川臨太郎の「生涯パートナー銘柄の研究」
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            ◆Contents◆

  ◇銘柄研究 日本通運(9062)
  ◇コラム 後悔がなるべく小さくなるような投資行動を取っておくべき

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◇銘柄研究 日本通運(9062)

 本日は、1872年(明治5年)に創業された「陸運元会社」を前身とし、1937(昭和12)年に株式会社として設立された日本通運を研究銘柄として取り上げます。

 日本通運は、日本最大の物流業者であり、鉄道利用運送業、貨物自動車運送業、海運業、利用航空運送業、倉庫業、建設業等の事業を展開しています。

 日本国内は支店(358支店)など1000拠点以上、そして海外40カ国481拠点(※2015年1月)を有しています。日本ばかりではなく「グローバル・ロジスティクス企業」として、海外でも総合力をいかした物流サービスを提供し成長している企業です。

 日本通運は、機関投資家など多くの投資家から大きすぎて変われない企業の代表のように見られています。確かに動きは遅かったのですが、2015年3月期には過去最高利益を更新しました。

 日本通運は、2017年10月に創立80周年を迎える歴史の長い企業であり、より強い日通グループをつくり、業界のリーディングカンパニーとしてさらなる躍進を目指すことを目標にして努力を続けてきたことが、やっと業績に表れ始めました。

 2015年3月期の連結経常利益は、前期比19%増の595億円と、23年ぶりに最高益を更新して、今期も増益を見込んでいます。

 過去最高益を更新した原動力は、国内物流の採算改善でした。
 日本通運は「物流のデパート」ともいわれていますが、いままでは陸海空の垣根を越えた営業は簡単ではありませんでした。理由は明確で、陸海空の各事業部が地域ごとに支店を構え、顧客の窓口も分かれていたためです。人事交流もほとんどなかったということです。

 それを2014年5月に九州、同じく10月に関西で統合しました。

 その結果、陸海空の垣根を越えた営業の効果は良好で、関西では半年間に約100件の新規受注につながったということです。この成果を踏まえて日本通運は、2015年5月10日に、53年ぶりに社内組織を抜本的に改正すると発表しました。

 航空輸送を手掛ける航空事業部と海上輸送の海運事業部を廃止し、陸上輸送と合わせて営業できるようにします。高度成長期の1962年に輸出需要に対応して事業部制を導入して、航空と海運の部署で独立採算にしていましたが、日本国内企業のニーズの多様化に対応して一体営業できる体制にするものです。

 これまでは陸上輸送を手掛ける国内事業本部と航空事業部、海運事業部が別々に国内各地に支店を構えて営業していました。全国を9ブロックに分け、ブロックごとに陸上と航空、海運の支店を束ねる体制にします。

 日本通運の単体の従業員数は約3万4千人です。2015年3月期から、上記で述べたように中部ブロックや関西ブロックで試験的に同様の取り組みを進めており、その成果は大きいものでした。約9千人が所属する関東ブロックでも一体営業に移行し、航空と海運の事業部を廃止します。航空輸送の顧客に空港・倉庫間のトラック輸送を一体で提供することなどで収益増につなげる狙いです。

 国内だけの付き合いだった顧客の海外輸送を手掛けるなど、取引の幅が広がったことも大きかったと考えられます。管理部門の人員も圧縮でき、経費も削減できています。

 また、2013年9月から人員削減に着手しています。営業・事務系社員を対象に8年ぶりの希望退職を募集しました。トラック台数も減らして外注に切り替える努力も行いまいした。

 この効果は着実に業績に表れてきています。国内物流が大半を占める単独売上高に対する労務・人件費の比率は、2014年3月期には23.4%と2013年3月期に比べ1.6ポイント下がりました。2015年3月期は更に22%台に下がりました。

 さらに2014年の下期には、24年ぶりの運賃値上げを打ち出しました。「運賃は下がっても上がることはない」という業界の通念を覆しました。

 図体の大きな企業なので、なかなか業績に変革の効果が見えてこなかったのですが、株価は2015年5月20日には年初来高値の733円を付けました。この株価は2007年以来の700円越えの高値です。

 株価は733円から下落して6月22日に直近の安値623円を付けました。少しリバウンドしてきましたが、この流れが続くかどうかは現時点ではまだ分かりませんが、TPP交渉が妥結に向かって動き出せば、日本通運の株価もリバウンドを始める可能性が高いと考えています。

〇日本通運の株価の10年間のチャートです。
http://www.nikkei.com/markets/company/chart/chart.aspx?scode=9062&ba=1&type=10year

〇日本通運の株価の3か月間のチャートです。
http://www.nikkei.com/markets/company/chart/chart.aspx?scode=9062&ba=1&type=3month

 私は、物流業界はTPPによって大きなメリットを受けると考えています。特に日本通運のような国際的な物流企業にとって、TPPは業績拡大のための大きな追い風になると予想しています。

 ここ数年の日本の株式市場で株価が上がっているセクターとしては、通信やインターネットなど情報関連企業が考えられます。

 特に最近は『モノのインターネット』関連銘柄のなかには、PERの高いことをものともせずに、株価を大きく上げていくものが散見されました。また、最近になってメガバンクや大手証券会社の株などにも資金が流入してきました。

 情報関連や金融業界の企業の株価が堅調なのは、これらの業界に属する通信やインターネット企業や金融機関が提供しているサービスが、産業界の企業が効率的に事業活動を行ったり、消費者である個人が快適に便利に生活していくための必要不可欠な基本的なインフラを提供しているために業績が伸びてきており、景気が良くなれば更に業績が伸びると多くの投資家が予想しているからだと考えます。

 つまり、通信が情報の流れを担う血管の役割をはたしており、金融機関がマネーの流れを担う血管の役割を果たしていると私は感じています。

 同じように国際物流業者は、国際間の『物』の流れを担う血管の役目を果たしています。

 『情報』や『お金』はインターネットなどの仮想空間を利用して素早く移動していくようになりました。しかし人間が生きるために必要な食料や衣料、機械や部品などの実体を持っている物質などは、物流業者などがトラック、航空機、船舶などを使って運ばなければ移動することができません。

 『血管』の中を流れる『血液(=情報、お金、物)』の量が大きく増加して、スピードが速くなると、『血管』というインフラを作っている企業の利益も大きくなります。

 TPPは、国際間の物流を大きく増加させる起爆剤の役割を果たすと考えています。TPP交渉が年内に妥結するかどうかは分かりませんが、米国議会上院は6月24日、TPP交渉の合意に必要な大統領貿易促進権限(TPA)法案を採決し、賛成多数で可決しました。

 上院は関連法案も同日に可決しています。TPA法案をすでに可決している下院も関連法案を可決すれば、両法案はオバマ大統領が週内にも署名して成立する見通しです。

 TPAは、米議会が持つ通商交渉の権限を大統領に一任するため、TPP交渉を合意に導くためには不可欠とみられていました。オバマ大統領はTPA法案に署名する条件として、失業者対策を盛り込んだ関連法案の「貿易調整援助制度」(TAA)法案の可決をあげています。貿易自由化の影響で米国内の雇用が減少した場合、失業者を支援することが目的です。

 TPAは通商法案の交渉を「ファスト・トラック扱い」にするための法案です。わかりやすいように単純化すると、「TPP交渉は大統領が仕切ってけっこうです」ということになるようです。

 米国議会の総意として、協定内容に賛成ですよということを、一回のみ意思表示できるというのがファスト・トラックであり、これは議員たちが「各論」を持ち寄り、法案を何度も修正することで、議会が紛糾し、本来、決まるものも決まらなくなってしまうことを避ける立法手法です。

 過去の例では1979年のGATT東京ラウンド、1993年のNAFTAなどは、いずれもファスト・トラック扱いにすることで成立してきました。

 いろいろな議論はあり、各国ごとにメリットとデメリットがありますが、それでもTPPが求められているのは、TPPは世界の経済成長率を押し上げるのに貢献すると期待されているからです。

 TPPが成立した場合、米国の石油会社は原油を日本へ輸出できるようになります。これはいままでアメリカ国内でだぶついていた原油に新しい市場が出現することを意味します。現在の法律では原油の輸出は禁止です。ただし精製し付加価値をつければ輸出できます。またNAFTAのような貿易協定締結国には例外的に輸出できます。TPPが成立すると、TPP加盟国への禁輸は解かれます。

 まだ日米間だけでも大きな課題が残っています。日本や米国にもデメリットがあります。例えば日本が国内世論を納得させなければならない一番大きな問題は、米国が求める日本へのコメの輸出拡大への対応です。日本側にとってコメは「聖域」扱いのため交渉は難航しています。このため、TPA法案が成立し次第、日米は事務レベルでの協議を再開して間合いを詰め、7月下旬にも開催される閣僚会合での合意につなげる考えが示されています。

 したがって、TPP交渉がいつ合意に達するかは、まだ定かではありません。でもTPPが無くとも国際間の物流量は大きく増加している状況です。

 日本通運は、NAFTAの恩恵を受けるための北米諸国間の物流網を拡充してきました。イスラム諸国への輸送ができように、イスラム教の教えに対応できるハラル認証を獲得しています。

 ハラル(HALAL)とは、イスラムの教え(シャリーア法とイスラム原理)で許された、「健全な商品や活動」のことの全般を意味します。

 ハラルの反対は「ノン・ハラル」あるいは 「ハラム」と呼ばれ、これらイスラム教徒にとっては有害な物、中毒性のある物を意味しています。従ってイスラム教徒は、ハラル品であると正式に認められるもの以外の食べ物、飲み物などは避けなければなりません。

 ハラルとは、こうした安全な生活を示すためのガイドラインであり、イスラム教徒にとっては無くてはならない規準なのです。しかしハラルとハラムをはっきりと区別することは 非常に複雑で難しく、基準も国ごとに異なります。また、ハラルは食品だけでなく、化粧品や医薬品、介護用品、金融など様々なサービスにも適用されます。ハラルの食品などを運ぶトラックなどにもハラル認証は必要になります。

 世界のイスラム教徒は16億人以上といわれ、中東やアフリカに多くのイスラム教徒がいます。ハラル食品の市場規模は60兆円を超え、医薬品や化粧品などを含めるとその規模は200兆~300兆円に上るといわれます。

ハラルに関する分かりやすい解説のあるサイト
https://www.nikkei4946.com/zenzukai/detail.aspx?zenzukai=129

 従って、日本通運のような国際物流業者の業績は今後も着実に伸びていくと考えます。

 以上が日本通運を本日の研究銘柄に選んだ一番大きな理由ですが、それ以外にも日本通運には投資対象として考えた場合に魅力がありますので、その点を最初に書いておきたいと思います。
 日本通運についてイメージしやすいように、日本を代表する優良な倉庫業者である三菱倉庫の数字と比較しながら、日本通運の数字や事業規模を確認していきます。

1.日本通運は日本国内で最大の倉庫を保有していること。

 日本で最大の倉庫を保有しているのは、三菱倉庫だと思っている人は多いと思います。実は、私も数年前までは三菱倉庫が日本で一番の倉庫を保有する企業だと勘違いしていました。

<三菱倉庫>

 2015年3月期の三菱倉庫の決算説明資料には、三菱倉庫の倉庫保管面積、賃貸建物面積、不動産賃貸面積が開示されています。

http://www.mitsubishi-logistics.co.jp/ir/library/presentation/201402/html/33.html

倉庫保管面積 873千平方メートル
賃貸建物面積 1043千平方メートル
不動産賃貸面積(倉庫賃貸を除く)919千平方メートル

<日本通運>

日本通運のホームページには以下の情報が開示されています。
http://www.nittsu.co.jp/warehouse/services/index.html

倉庫保管面積 2700千平方メートル
全流通施設 6150千平方メートル

 日本通運は、三菱倉庫より3倍以上もの倉庫保管面積を持っている日本最大の倉庫業者であることが分かります。

2.三菱倉庫より土地の含み益が膨大だと推定できること。

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