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#37 ヤマシンフィルタ(6240) 2019/12/03

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       山本潤監修「グロース銘柄発掘隊」 第37号

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 山本潤氏率いる「株の学校」で、山本氏をはじめとする講師陣の薫陶を受けた精鋭アナリスト達が、成長株を発掘し、その内容を詳細にレポートします。

 毎週火曜日配信、1回に1銘柄の深掘りレポートです。


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               【目次】


   ■はじめに
   ■ヤマシンフィルタ(6240) 客員アナリスト 吉見 高広


※本メルマガの一部内容を、億の近道へ抜粋の上掲載することがございますので、あらかじめご了承下さい。


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■はじめに


 NPO法人イノベーターズ・フォーラムのご協力により、客員アナリスト
たちのレポートの有料メルマガを提供しております。

 グロース銘柄発掘隊の隊長は東京2期生です。
 彼の指揮下、隊員たちは、週に一本のフルレポートをディープに発表します。
 どれも個性あふれるレポートです。

 投資家のみなさまにおかれましては、ぜひ、グロース銘柄発掘隊の客員アナリストたちへのご支援をよろしくお願い申し上げます。

(山本潤)


【発掘隊より】

 グロース銘柄発掘隊は、5年から10年以上の長期投資に耐えると思われる銘柄を発掘し、調査分析するものです。配信した銘柄は短期的に株価調整する場合もありますが、対象企業の前提条件が変化しない限り、問題ないと考えます。
 配信した銘柄は定期的にチェックしております。もし、前提条件が変わったりビジネス環境が大幅に変化した場合には、あらためてフォローコメントを配信致します。

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ヤマシンフィルタ(6240)

【会社概要】

 建設機械の作動油、燃料のディーゼル・オイル、エンジン駆動に必要な潤滑油のろ過用フィルタを中心に開発から生産、販売までを一貫して手掛ける。

 建設機械の故障の実に7割が油圧回路内のゴミ混入が原因と言われている。
 油圧回路内の洗浄度を維持するとことが不可欠であり、同社のフィルタが欠かせない。

 開発拠点は横浜、中国(蘇州)の2か所、生産拠点は佐賀、フィリピン(セブ島)、中国(蘇州)、アメリカ(イリノイ州)の4か所、販売拠点は日本、アメリカ(シカゴ)、ベルギー(ブリュッセル)、タイ(バンコク)、中国(上海)の4か所である。
 このように、日本、アジア、北米、欧州の4極体制により、グローバルな生産・供給ネットワークを構築しているグローバル企業である。


 ◆経営理念

  「仕濾過事」。「ろかじにつかふる」と読む。フィルタビジネスを通じて社会に貢献するという意味が込められている。左端と右端の「仕」と「事」が、真ん中の「濾過」を挟んでおり、仕事の中心は常に「濾過」であるという意味もあるそうだ。余談だが、山崎社長が中国蘇州の現地スタッフにこの四字熟語の意味が分かるか聞いてみたところ全くわからないという返事が返ってきた。完全な和製中国語である。


 ◆沿革

  1956年、山崎社長の父であり創業者の正彦氏がヤマシンフィルタの前身「山信工業」を大田区で創業する。創業当初は清酒用のろ布の製造からはじまり、自動車用、建設機械用と時代の要請と創業者の決断により変化させていく。
  正彦氏の息子である敦彦氏(現社長)は、1980年東京大学を卒業し同社に入社する(同年、同社に籍を置いたままコマツで2年間修行をする)。
  1985年のプラザ合意を受けて円高が急速に進み、国内佐賀でフィルタ生産するのでは採算がとりにくくなってきたため、いくつかの候補地から1989年にフィリピン・セブ島に同社最大の製造拠点を立ち上げる。以降、2000年前半にかけ北米、欧州、アジアに販売拠点を構築していく。
  2014年10月に東証二部上場、2016年3月に東証一部へと市場変更する。


 ◆創業者、正彦氏の大きな決断

  当社は1956年創業だが元々油圧フィルタを扱っていなかった。沿革にもあるとおり同社は、清酒用のろ布からスタートした。その後時代は昭和30年代で高度成長期に入り、ろ布から自動車のフィルタに切り替える。
  ただ世の中甘くなく既に多くの自動車フィルタメーカーがひしめいていたためその下請けからスタートした。ただ下請けであるが故、「儲からない」「製品設計の自由度がない」といった理由で当時売上の9割が自動車向けフィルタだったが、これをやめるという大きな決断をする。
  次に目を付けたのが、建機向けフィルタだった。直接建機メーカーと取引することでフィルタ開発の自由度が高くなる。当時の建機業界は大手のキャタピラー以外は日本のメーカーであり、キャタピラーも日本に拠点があったため、国内で建機向けフィルタを押さえることでグローバルトップシェアを獲れるという目論見があった。ここから同社のフィルタビジネスは開花していくことになる。


 ◆同社のビジネスモデル

  建設機械用油圧フィルタを主に製造している。
  身の回りにはたくさんのフィルタが存在している。例えば、掃除機用、コーヒーメーカー用等身近にたくさんあるが、同社のフィルタは過酷な建設現場で使われるフィルタである。砂漠や極寒など過酷な条件下で使用されるのである。
  世界の主要建設機械メーカーの製品には標準品として搭載されており、日本、北米、ヨーロッパなど世界中で7割というトップシェアを誇っている。
  2019年9月期の売上は約138億円であり、うち約9割が建機用フィルタの売上となっている。建機用フィルタはライン用と補給品に分かれており、直近の売上構成はライン用が45%、補給品が55%である。ライン用は新車マーケット向けのフィルタであり、補給品はアフターマーケット向けのフィルタである。ライン用フィルタは、建機メーカーが建設機械を生産するときに部品として最初から搭載される。その新車の建設機械がマーケットに出て稼働し、500~1000時間など一定の時間が過ぎるとフィルタが目詰まりするので交換する。この交換用のフィルタが補給用フィルタである。
  景気がいいときは、建機メーカーはたくさん建設機械を製造するためライン用フィルタの売上が伸びるが、景気が悪くなると今度は建機メーカーは生産台数を絞るためライン用フィルタの売上が落ちるが、国は景気刺激策として公共投資をするため、橋や道路を建設すると建設機械が動き、補給用フィルタが売れる。比較的、不況に強い体質を持っている。
  両フィルタの利益率は不明だが、補給品フィルタが圧倒的に高く、ライン用はほとんど利益が出ないらしい。まさにプリンタとインクの関係と同じで、本体(ライン用)+消耗品(補給品)で継続的なビジネスを実現して いる。


 ◆社員を大切に扱う環境づくりを実践

  当社はワークライフバランスを重視し、原則18時退社を実践している。
  2015年以降、働き方改革を実行しており、営業・開発を含めて、決算期などの一部職種の例外を除いて、残業をしていないようだ。
  導入当初は、社長含む管理職から強制的に退社するようにしていたが、今では自然とその体質が固まり、繁忙期を除いて18時以降の残業者はほぼいない状況だという。
  2019年3月期単体の従業員数は149人で平均勤続年数は約8年、平均年間給与は約640万円となっており、同社で働く従業員の満足度は総合的に見て高いのではと推察する。
  筆者は、経営者は常に従業員、債権者、株主等の各ステークホルダーの満足度を高め、そのバランスを最適化する必要があると認識しているが、特に従業員が生き生きと働く組織は株主としても安心感があり、また成長性 も期待できると考える。

 ◆IPO以降大きく増加した時価増額

  当社は2014年10月8日に東証2部に上場した。上場初日の時価総額は約70億円だったが、2019年11月29日終値ベースで約610億円と上場から5年で約9倍へと時価総額を上昇させた。
  上場初日の記者会見で山崎社長は「5年後に時価総額300億円を実現たい。」と述べたが、それを大きく上回るパフォーマンスを上げている。
  さらに今後は、専門フィルタメーカーから総合フィルタメーカーへの飛躍を遂げ、売上1000億円、時価総額1兆円を目指すとしている。


 ◆市場環境

  ・世界の建機市場
   2018年世界の建設機械の市場規模は1840億ドル(約20兆円)と17年に比べ13.5%上昇。
   キャタピラーがシェアトップで12.6%、2位はコマツの11.9%、以下ディア(米国)、ボルボ(スウェーデン)と続く。近年は中国建機メーカーが台頭し、三一重工が7位に位置している。

  ・中国建機市場
   世界の建機市場の約5割を中国が占めており、当社が現在最も注力している市場である。建設機械の代表格、油圧ショベルの総販売台数の実に 56%が中国向けとなっている。
   中国市場において圧倒的な存在感を誇っているのが、三一重工※を筆頭とした中国ローカルメーカーであり、中国ローカルメーカーが半数以上のシェアを握っている。
   中国系メーカー以外では、キャタピラーが3%、コマツ5%、日立建機4%である。日系建機メーカーは中国メーカーの安値攻勢に押され年々シェアを落としており、10年以上前コマツは15%と中国国内シェアトップを誇っていたが、毎年シェアを落としている状況である。
   ※三一重工:中国最大の総合建機メーカである三一集団のグループとして油圧ショベル等を製造・販売する企業。

  ・高まる環境技術への対応
   建設機械など幅広い産業で使用されているディーゼルエンジンは、燃費効率が高い一方で、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)を排出し、PM2.5をはじめとする大気汚染の原因となっている。
   このような汚染物質を減らすため、先進国を中心に排出ガス規制が導入され、新興国でも導入が進められている。
   中国は以前より深刻な環境問題を抱えており、数年前から政府による排出ガス規制が段階的に導入されている。「Tier4」と呼ばれる排出 ガス規制が2020年12月スタートする。
   各建設機械メーカーも各国排出ガス規制に対応すべく環境技術への対応が国際競争力の要素として必要との認識を持っており、燃費効率等環境配慮型のモデルを市場投入している。建機メーカーと取引している各サプライヤーも当然その流れに歩調を合わせる必要がある。

【成長ドライバ】

 ◆同社の強み

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