短編小説『輝きを失った黒い革靴』
玄関のドアを開けると、いきなりお父さんがいた。
「ただいま!」
うつむいて靴を磨いているお父さんは驚いた。
記憶を失った者が、電気ショックで突然、記憶を取り戻したように。
その表情は、無実の少女が突然、裁判官によって死刑を宣告された時のように、驚きと戸惑いに満ち溢れ、やがて悲しみ変わって行くように変化した。
「おおきくなったなあ」
「・・・・・・」
「ごめんな。身体の調子を崩しちゃって、しばらく会社休んでいたんだ。また、明日から会社に行くよ。もう大丈夫、大丈夫」