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性交同意年齢の狙いは?

 性犯罪関連の話題というのは、私もかなり多くの数の指摘をしてきたほど、非常に論駁や矛盾、感情の高ぶりの惹起(じゃっき)、通常とは違ったいびつな構造などを生み出す非常にいろいろな問題を抱えたものである。

 その性犯罪の話題で、少し前に話題になっていたのが性交同意年齢の引き上げの件である。


 かなり前から、同意年齢の引き上げに関しては主張されてはいたが、現在に至るまで法改正は実現していない。一応は、青少年育成条例などで18歳未満の子供との性交に関する罰則はあったりするが、それよりもより範囲の拡大や罰則の強化を求めている。

 彼女たちはなぜ同意年齢を引き上げようとしているのだろうか?その狙いとして考えられることを複数検討していき、どの当たりに落ち着くのかを検証していきたい。



1 一つは同意の有無との関連性

 基本的には、性交同意年齢の引き上げは強制性行の構成要件を「不同意」にすることにも由来していると考えられる。

被害当事者団体や支援団体、人権団体などは、強制性交等罪の「暴行・脅迫」要件の撤廃などとあわせて、同意年齢を13歳から義務教育を終えた年齢である「16歳」に引き上げるべきだと提言。

 同意要件に関しては、多くの問題点を抱えているものではあるが、ここでは触れることはしない。

 本件では、16歳未満の人々を同意するまでの能力がないとして、一律に分けることによって、同意要件との整合性を図ろうとする面が考えられる。

 民法上でも意思能力や行為能力といった言葉があり、未成年者や被成年後見人など、一定のものに対して法律上の行為を制限するような規定があるように、刑事上でも同意の部分を制限するのである。

 意思能力や行為能力との要件などとはもちろん異なるのだが、一般的に性的なことに関しての知識が乏しいわけであり、仮に同意をもらったとしてもその判断は非常に未熟で、判断を下さした本人にも結果が判断できないという感覚である。
 特に、判断能力の乏しいことを良いことに、子供に対して大人が行為に及ぶようなケースにおいて、子供にしっかりとした判断や意見を求めることは難しい。カバーするためには、性交自体を禁止する必要がある。

 同意における性犯罪の適否をより広く認めるために、性行為に関する範囲を広げることを考えたのではないだろうかといえる。

2 同意年齢の例外と疑問点

 ただ、同意年齢を単に引き上げすぎることには疑問も残る。年齢の上限に達していなければ、子供ごと自動的に性犯罪者として刑事罰の対象になってしまうからである。中学生や高校生で性行為をしないわけではない。にもかかわらず年齢を理由に刑事罰を一律に認めてしまうと、未成年同士でも加害者でもあり被害者でもあるとするということになってしまう。
 これでは逆に子供にたいしての保護の点で問題にならないだろうか?という疑問が出るわけだ。

 これに対しては、18歳未満の場合であるケースや18歳未満でも一定の年齢差であるのなら法的責任を取らないとする措置を執る提言もある。だが、これもかなりおかしい話だ。同意年齢引き上げの趣旨が同意の意思形成に問題があるのなら、未成年同士と大人とは線引きする理由を正面から対峙するのは難しい。知識面で不十分だからなら、大人よりも判断能力が乏しいという理由で制度設計している部分と矛盾する。

 年齢に対する例外要件を求めたのは未成年の更生や、未成年同士での恋愛関係の発展と言うことは、不思議でもなく仕方がないというような観点もあるだろうが、どうもちぐはぐな印象を受ける。

 例えば、好きな者同士で年齢的にも近いものなら、恋愛関係からの発展と判断するにしても、結局未成年での同意も可能というような部分を認めてしまってはいないか?という疑問も残すことになる。それなら、よりよい知識や判断力のある大人と行為に及ぶことは、なぜ同意ではないと言えるのだろうか?にも疑問を及ぼす危険性すらあるだろう。

 単純に、同意を問題にするというのは難しいことである。(もちろん、同意年齢の例外自体をもうけないという考えもあるのだが。)

3 性教育の充実と疑問

(1)性教育における意思反映

 同意年齢引き上げと同時に、賛同側の意見として性教育を充実させようとするワードが必ず出てくる。ピル関係の時にも感じたが、この手の話題には何か教育をすることによって、正しい意思形成と意思表示が出来るようになり、その考えが普及していくというような節がある。

 個人的には非常に疑問ではあるが、まあなにも知らないよりは良いだろうと言うことは理解できる。


 性教育における個人の疑問は一端置いておいておくとして、教育が充実していないとする事が正しいと仮定し、正しい性教育が行われたとしよう。では性教育が充実し、正しい知識があるので正しい意思表示をした子供が反対の意思表示を示したとき、それを同意するのだろうか?

 と考えるに至るのだが、それを提示した人間というのは見覚えがない。(いたら教えてほしい。逆に反対する人ならよく見たけど。)

 何か自分たちが正しく教育をしたら、子供たちも信じるのではないだろうか?と言うような感覚にも見える。賛成するだろう、かつて引き上げた国々もそうしてきたはずだ。そんな前提でもどこかに抱いているようにも見える。だが、本人たちが考えているようなことが、そのままその通りに行くというのはいささか疑問ではないだろうか?

(2)本当に聞く気はあるだろうか?

 また、実際に子供の意見を聞いてみようとする声に対して、反駁すると言うことも少なくないようにも見える。



 誤解のないように言っておくが、山下弁護士としては当事者の意見を尊重して取り決めようとする趣旨に過ぎず、それ以上の意味はない。(その点をちゃんと指摘している別の弁護士の方もいる)ましてや、本当に年齢制限をそのままになるだろうとも、本人ですら思っていないだろう。

 彼は子供の権利条約に書かれている内容を忠実に反映できるように、提言をしているにすぎないのである。

第12条
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。

 児童に関する権利については、条文にも年齢や成熟度によって異なるとは書かれているものの、子供に関しての意見を考慮する機会や聴取を求めているのであり、当たり前の主張である。

 だが、実際にこういった反応を示す人物がいるのも事実である。なにも保守的な人物だけがその反応を示すのではなく、革新的な人でも同じように主張しているのである。

 性教育を進めようとしながらも、当事者の意見をいざ聞くとなったときに、このような反応を示してしまっては逆に議論も後退しかねないわけではある。ひょっとしなくても、「まずは性教育を」という人物でも議論を避けるために利用している可能性も、彼女たちの存在を考えると十分あるだろう。まずは議論というのなら、なにも性急に国会に提出する必要がないと言うべきだが、それを聞くことはほとんどない。教育充実論というのも疑問点が多い。

3 周辺国家における年齢における身体の危険性


 同意に関しては触れてきたが、年齢を引き上げるのにはそのほかにも理由が考えられる。

(1)周辺国家の年齢設定に関して

 年齢の設定は各国でまばらではあるが、おおよそ15歳から16歳くらいを同意可能な年齢としているところが一般的だろう。 

 ならば、日本もそれに合わせたほうがいいのではないだろうか?というところもあるといえよう。年齢をここにする理由は行くとか考えられるが、とりあえずはこの年齢くらいなら。という深く考えていないようなところもあるだろうが、13歳は早すぎるのではないだろうかという、感覚的には理解できなくもない。

 ただ、そこから2,3年程度たったからと言って意思判断ができるようになるという判断もなかなか難しいのではないかともいえるだろう。

 (2)妊娠した時の体の負担について

  性行為によって、妊娠した体への負担というのを考慮する声もある。

 子供についてはまだ体が十分に出来上がっていない状況もあり、あまりに早い年齢で出産をするとなると、身体に対する健康を害する可能性が高くなる部分もあることだ。

 具体的な事例としては、妊娠高血圧腎症、切迫早産、貧血、胎児が育ちにくいようなことがあげられる。確かに、まだ十分に肉体ができあがっていない時期に妊娠をさせると言うことは危険性があると言うことは理解できる。

 また、中絶をするようなことになったら、中絶そのものに様々な危険や負担がでるのは言うまでもないが、中絶もすれば妊娠しにくくなると言うようなこともあるだろう。

 しかし、あまりに低い年齢であるのなら身体的なリスクもあるとしても、逆にある程度体が出来ている段階なら、妊娠に関してのリスクは10代であっても必ずしも多いわけではない、ある程度の年齢を考慮するのなら、一定程度までは引き上げようとする行為も十分な理解があると言えよう。

 実際の統計的にも、ある程度若い年齢のほうが死亡率や胎児の障がいなどの確立などが低い部分も報告されている。

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妊産婦死亡報告事業
2010年~2016年に集積した事例の解析結果 より



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ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は?出生前にわかるの? より

 年齢が上がるにつれて、かえって妊娠や出産に対する危険性が10代の時よりも危険が多くなるわけではあるが、それを踏まえると、子供にたいしてのみ危険性を訴えて防ごうとするは変だというような見方も出来るだろう。

 また、先ほども少し触れたが、妊娠の負担やリスクを防止したいのであれば、年齢差によって適用除外にするという制限を設けることにも疑問は残る。
 同意するだけの判断能力などが非常に難しいとされているのに、年齢差が短ければ例外規定であるというのは、逆に危険性をはらんでいないだろうか?ということは当然に考えられる。

 同意する能力などが乏しいのなら、そのほかの知識や技術も当然少ないと判断されるのは自然であるし、いっそのこと性行為そのものを最初から年齢問わず禁じていれば、子供をそう言った危険から守ることができよう。 

 不純異性交遊とかいかにも古そうな言葉が出てきそうな話ではあるが、妊娠や出産に関しての問題が出てくるのであれば、一定の年齢まで待ってみるというのも根拠にはなりうる。


(3)子供と接するという生理的嫌悪感か?

 この点も捨てがたい論点であると思われる。子供に対しての性行為をいうのに忌避的な感情を抱くというのは、13歳未満の子供に対する性交禁止そのものも、その理由ではないかという風にも考えられるのである。

 そもそもそういった対象にはならない者に対して、欲情を抱くと言うこと自体が変であると考えることもあるだろう。年齢がペドフィリアなどと呼ばれるような年齢になくても、若い年齢の者に対して男性の性の関心が向くこと自体、自分自身に目線が向かないことを嫌っているようなことも考えられるだろう。

 後者に関して、他人の内心を除くことは出来ないので、想像の域を出ることはないが、存在はするのだろう。ペドフィリアなどに関しても現実に嫌悪感を持っている人が男女問わずいることは一定数いるだろう。

 しかし、時代をさかのぼれば、10代での妊娠・出産というのも珍しい話でもない。初潮が始まれば、既に性の対象になりうるともえいるし、前田利家の正室である芳春院(まつ)は、数え年12歳で初産と言うこともあるくらいで、これは当時でも珍しいものであるにしても、10代での妊娠出産はそれほど珍しい話でもない。

 現代において、性交や結婚自体がおかしいと考えられているような年齢であっても、一昔前にさかのぼれば当たり前のように行われていた。もちろん今よりも医学意識はないために、早すぎる結婚や出産もあったわけだが、それが普通だった。むしろ、初産が20代を超えてからや、出産そのものが30代を超えてしまったら逆に出産が危ないと考えられていたこともあり、かえって若いうちにとも考えられていたこともある。

 現代でもイスラム国家では児童婚と言われるようなことが行われている地域もあり、人権問題の一つとしてあげられていることもあるが、我々が今感じている嫌悪感も、必ずしも昔とは一致していない。

 では、なにがそういった価値観の変容を与えたのであろうか?

4 出産後の生活と貧困

(1)近代社会におけるライフスタイルに関して

 近代の性的なことに関しての規制というのは、医学的な側面といった部分もあるが、現代では提唱されているライフプラン的な側面を有している部分が性道徳に影響を与えていることも考えられる。

 現代において高校、大学進学率に関しては、女性もかなり上昇している現代であり、女性であっても進学することの障壁はほとんどなくなったといっていいだろう。

 女性も学歴を積んで、普通に就職をし、まあ出来れば女性にも高い地位にいってもらっていければ。その上で結婚あり出産なりライフプランを形成していく。そういったモデルが一般的になっている世界である。

 現代におけるこういったライフプランを考えると、あまりに早い妊娠や出産というのは、女性に対するリスク要因としては大きなものであると考えている。

(2)十代の妊娠、出産における社会的なリスク要因

 先ほど、若い時に妊娠や出産に関して身体的なことの危険性を触れさせてもらったのだが、社会的なリスクを負うことの方が少なくない。

a. 学業の中断や出産による遅れ

 10代での妊娠をしてしまったら、学業の中断と言うことが考える。

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妊娠した生徒への対応等について

文部科学省 初等中等教育局
児童生徒課生徒指導室 より

 妊娠をした生徒が、その後の学業の継続に関してどのような状況であるのかと言うことであるが、公立高校における妊娠における学業に関する実態調査において、学校から進められた及び自由意志における退学が全体の約4分の1に及ぶ。

 妊娠や出産をしたことによって懲戒退学というようなことは、この統計上はないようではあるが、一定数の生徒は学業を断念しなくてはならない。出産に伴う子育てへの時間の捻出、そのための費用を考えると学問に対する集中をするというのは難しい。

 学校側から自主退学を進めるケースに関しても、先の調査報告では大半が家庭や母体を考慮した上での学業継続の困難さをあげている。

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 半数以上は学業を継続しているようではあるが、それでも一定の期間は休学したり、場合によっては転学するようなことがあるなど、学業への遅れや追加の費用負担などを強いられるケースもそれなりにある。

 出産後の支援や学業中の妊娠や出産というのは大きな負担とリスクが伴う。

b. 貧困に陥りやすい

 学業を中断したり、無事卒業が出来たとしても、大学などの進学諦めたりするようなことがおこると、その後は仕事をしていかなくてはならない。そうなると、仕事に制限やそもそも仕事に就けないような状況に陥ってしまった場合には、その先に待っているのは貧困に陥る可能性も高い。


 2. 10代での妊娠・出産がもたらす低学歴と社会的貧困

―現行のシングル親女性とひとり親家庭向け政策とインタビユー調査を通して―
武輪 敬心 
スクールソーシャルワーカー・社会福祉士
大阪市立大学大学院創造都市研究科
都市政策専攻都市共生社会研究分野修了生

 「平成23年度全国母子世帯等調査」(以下,同調査によれば、日本のシングル親女性の80.6%が就業しているにも関わらず、貧困である。

 シングル親女性の年間就労収入をみると、全体では182万円だが、「中卒」では129万円と、「中卒」に次いで低い「高卒」の169万円をさらに40万円下回っており、学歴の不利が職業選択を限定し、低収入となることが推察される。

 そもそも、シングルマザーに関しては年収自体が低い原因としては、学歴における面も十分に高いが、子供を育てながらフルタイムの仕事をするということ自体がそもそも難しいだろう。

 そうなってくると非正規雇用になっていく方向になるのだが、当然非正規高揚では安定性に欠けるし、収入も少なくなる。運良く正規雇用になったとしても、けっして年収も多くはないだろう。

 妊娠させた相手も、同じ学生同士というようなこともあるだろう。ならばその学生も働かなくてはならないとなるのなら、共働きであったとしてもお金の面では相当苦労するケースが多くなる。
 一緒に生活をしてくれるのならまだしも、場合によっては男性側が離婚などによって、どこかに行方をくらましたりするようなこともあるだろう。父親が誰かすらもわからないかもしれない。

 特に若年層の離婚率というのは、離婚全体で見てもかなり高い。

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より

 原因に関しては置いておくが、女性は特に若い年齢の場合だと離婚するケースが多くある。養育費も払われるケースも多くはない。
 親元で育てられるのであるのならまだ良いのだろうが、経済的なツテや支援を得にくいような状況に陥りやすい環境にあると言えよう。

 もちろんシングルマザーや子育て支援及び学業中に退学するようなことを防ごうとする動きはあるが、それがうまくいっているとは言いがたい。

 経済的に苦しい状況になりやすい環境になってしまう危険性が高いのであれば、出来ればそういった環境になりにくいようにすることも考えられるだろう。

5 その時の同意よりも、同意以外のところや同意よりも後のことのほうがありえるのではないか?


 以上の検討を踏まえると、どうも純粋に性交そのものの同意という観点よりも、同意した後のことに関しての事情のほうが理解がしやすいく、理論的な整合性を求めやすいように思える。

 従来の強制性交等の保護法益を考えると、論点としてはかなりずれが生じているようにも考えられるが、子供の将来や先のことまでの考えたうえで、「同意」というものを考えているのではないだろうか。

 同意年齢に関する例外に関しても、子供同士の恋愛からの発展である程度は仕方がないというようなところもあるため、その慣習に合わせて設けられたの妥協の産物ともいえよう。だが、それに反対する意見というのも存在を確認できるため、性行為そのものを避けさせようとする側面は強い。

 もちろん、子供に対する性行為そのもの嫌悪感を持っているという面も否定できないが、その嫌悪感も後天的なモラルやイデオロギー的な面があることも捨てきれないわけである。

 色々な立場や考えが融合はしているだろうが、大元は現在の社会状況に合わせつつも、パターナリスティックな側面が強く出ているように思われる。そして、フェミニズムがそれに乗っかるというのもいつも通りと言ったところだ。

参考

第3章 絡み合うリスクと子どもへの影響:
婚前妊娠、若年出産、離婚


10 代の妊娠のリスク・ファクター
〜イギリスの総合政策プロジェクト「10 代の妊娠戦略」から〜
専修大学法学部教授 広瀬 裕子




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