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遺物 | ショートストーリー #15

仲間とはぐれた私は白い霧の中を一人で歩いている。霧は濃く、手を伸ばした先すら見えない。残念ながら方向感覚はすでにない。道は一本道ではあるが登り坂がしばらく続いている。道の至るところに石や岩がゴロゴロと転がっている。木の根が浮き出でいる。まるで痩せた老人のか細い腕に浮き上がる血管のように。それらに足を取られないよう慎重に歩みを進める。神経をすり減らしながらしばらく登っていくと一本道が終わり、急に拓けた平原が現れる。と言っても霧の中である。私は進む方向を見失って立ち尽くす。平原に突然、風が吹き始める。私は風が少しずつ霧を散らしてくれるのを待つ。徐々に目の前に風景が広がり始める。平原は想像以上に広い。100メートル程先に何か大きなものがそびえ立っているようだ。私はそれを目指して歩みを進める。更に風が吹き霧を散らす。巨大な何かが徐々に姿を現す。それは人が作った建造物だ。何を目的とした建造物かは分からない。良きものなのか、害をもたらすものなのかも分からない。しかし、それはすでに朽ち果てており、はるか昔に建造物として本来備えていたはずの機能は明らかに失われている。柔らかく捻じれた木々の群れがその建造物だったものを包み込んでいる。ツタの葉と苔が壁一面を覆っている。まるで大地がそれを飲み込み、咀嚼しているかのような光景に思わず圧倒されている。私の住む星にこのような風景はない。しかし懐かしさを感じる。

そうだ。ここは私が生まれ育った星ではない。私の遠い祖先が誕生し、愛しながらも破壊し、捨てた星だ。私は果てしない宇宙を旅し、銀河系の片隅でついに発見した。懐かしい異世界、地球を。

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