ミュージカル黒執事 寄宿学校の秘密 レポ

私の黒執事経歴

 2016年 ミュージカル黒執事 地に燃ゆるリコリス2015のBDを借りたのをきっかけに、セバスチャンが「悪魔」ということを知る。出遅れビギナー。
 リコリス→アニメ1期→3期→サーカス→原作漫画→劇場版→カンパニア
 内川シエルの2作は劇場に足を運んでいます。
 ミュージカルを見るまであの有名なフレーズ「あくまで執事ですから」をいまいち理解していなかった民です。

全体の印象

  2020年3月7日マチネ 観劇
 銀河劇場はクラシカルな雰囲気がとても好きで、座席や照明のランプもちょっとドキドキする。ある専門学校はここで客入れの卒業公演をしたりするそう。
 今回座る位置によっては音が遠かったりするのでしょうか?私は足元からスピーカーのビートが感じられる場所だったので、比較的バランス良く聞こえた気がします。(一階下手後方)

 重厚感のある本格派ミュージカルからTHE2.5次元ミュージカルらしいライトで華やかな印象へ。
 ダークでシリアスな話が多い中で、このストーリーの序盤は比較的日常として事が進みます。学校内の学生の話ですから、強いて言えばダークな部分とは、これまで見聞きした"犯罪"に比べれば、人間味あふれるごく考え得る事象です。
 しかし3時間で綴るほどではなかった気がします。間延びしてるところやダイナミック時間稼ぎ(転換や衣装待ちは除く)もありました。あえて言うならシエルの潜入期間の長さを体感させているのでしょうか。
 できることならクライマックスのシーンに尺を使って欲しかった。もっとたっぷり使ってもいい気がします。2時間待ってこれかぁ、と気落ちしました。随分と印象が変わってしまいましたが、主要キャラクターのキャスティングは手堅く、黒執事らしい『闇』をきちんと成立させていました。特にP4の4人は、過去の演出で重たく進行させても映える力を持っていると思います。

成人男性による初のシエル坊ちゃん

 演出のためのキャスティングと感じました。他のキャストと明確な体格差を付けないことで、一斉に踊った時に見劣りしないように。これは良策です。また、なにかと身体を張る坊ちゃんですが、寄宿学校編は彼本人の力量で左右される部分も多いです。セリフ量もかなりあったかと思います。
 率直な感想は、歴代シエルと比べてしまうと明確に浮き彫りになる圧倒的なキャリアの差。セリフや動作の組み立てが意識レベルから違います。今回初の原作に忠実な色合いのウィッグで登場しましたが、それはキャラクターの雰囲気を装うものであり、醸し出すものではありませんでした。
 しかしこれは、以前松田氏が言っていたコンテンツを利用した俳優の正しい売り方でした。間違いではないのです。

 小西さんは以前、舞台刀剣乱舞で拝見したことがあります。その時は殺陣の多さや相棒とのバランス、演出家の難しさなどを考慮すれば、総合的にはまとまっていた印象を受けました。次に刀ステで見る時に確実な成長をしていることを切に願います。

別タイプのセバスチャンが見られる嬉しさ

 生執事はカンパニア以降、プロジェクトが一旦終了したのは、セバスチャンを演じる役者の後継者が見当たらなかったからではないでしょうか?「次は誰だろう」この疑問に長らく答えがなかった気がします。
 今回満を辞して新たなセバスチャンがお披露目されて、また生執事が見られるんだという嬉しさがありました。演じた立石さんの前情報は全くなく、お顔の綺麗などうやら歌は上手い人、という噂だけで見ました。
 成分的には松下セバス寄りの台詞回しで、お歌は松下セバスと古川セバスの中間。個人的には古川セバスよりも歌セリフがクリアに聞こえるありがたさがありました。空気量の違いですね。
 ただ、今回は楽曲に恵まれていないと言いますか、ソロパートが少ない。一緒に歌うことの多い、シエルやアンダーテイカーと声色が似通ってることが残念でした。違う譜面の歌を聴きたい気持ちがあります。
 雰囲気はスイートなお顔立ちが際立ち、『オペラ座の怪人』って感じでした(笑)人間が闇に落ちて怪物になった感がありますね。古川セバスにあった圧倒的悪魔人外という感じが薄れ、人間味あふれるセバスです。
 また演出の違いでしょうが、シエルに擦り寄る構図がBLを彷彿とさせる絡みで納得がいきません。捕食者であって欲しかった。

曲の印象

 曲とキャストが調和するのではなく、かなりバックミュージックに徹した音楽に作られていたような印象。キャストを見るための邪魔にならない曲だな、と思いました。ストーリーではなく、キャストを見せるためのもの。
 ディズニーのミュージカル映画もそうですが、鑑賞した後に強く印象に残った曲があると、いいものを観たと認識させられます。帰り道に曲を持って帰れた気分になります。
 歴代で特徴のある曲といえば、リコリスのメイン曲(カーテンコールで使用された曲とします)「私はあなたの駒となり剣になる」中のフレーズ「降り止まぬ雨」のメロディラインの応酬ではないでしょうか。この曲は同じフレーズとメロディを繰り返すことで印象付ける手法が取られていました。
 しかし今作はそれがほとんど感じにくい曲調でした。感情線で歌う楽曲が無いと言ってもいいくらいです。既存ではエリックやマダムレッド、ジョーカーがその役割を与えられていました。

女性キャスト不在によって生じた困難

 ミュージカルらしい重厚感は多彩な声が集まってできるハーモニーですが今回はそれが賄えない部分がありました。
 今作では寄宿学校が舞台のため、アンサンブル含め女性が登場しないことに疑問は感じません。しかしことミュージカル楽曲に置いて、男声斉唱の難しさを痛感させられたと思います。
 キャストにしてみても個々に見れば割と「歌える人」がいたようにも感じました。しかし声質が似通っていて、声が特徴的なキャストも不在、譜面上でもアレンジが効かなかったのではないでしょうか。
 ハモる部分ももちろんありましたが、声の相性がそれを相殺してしまっている。斉唱は間違いなく難しいのですが、やはり特有の「男子学生の校歌」のような印象になっていました。
 生執事の持つ迫力は大勢の実力派アンサンブルにより男女バランスを整えることで保たれていたのではないでしょうか。
 ※シーンによっては千の魂のソプラノ歌手様、2013年メイリンやマダムレッドのように、出力値の大きいキャストが演じることでカバーしていた面もありました。

今までとこれからの生執事

 アンサンブルが増えた頃から感じられますが、ミュージカル黒執事という作品は、長らく"応援・成長するタイプ"の2.5次元作品ではありませんでした。ひとつのミュージカル作品としてある程度のクオリティが保証されていたのです。
 しかし今作は大幅にマーケティング層が変わりました。売り出し方は従来の2.5次元、松田氏が確立させた興行メソッドを当て込んだように思えます。
 もし続きを描くなら、緑の魔女が待っています。これもまた沢山の課題があるテーマです。画的にも子役に戻る可能性もあります。どうか全てを乗り越えてこのコンテンツが進み続けると嬉しいです。

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