Cupid
レンたちが神の間から飛ぶと、人の世界の青い空が視界に入ってきた。
ガラス張りの窓の高い建物が目につく。
「見てよあそこ」
イオが指さす方向に、背の高い調理服の男が階段を上っている様子が見えた。
「あいつだね。」
テトラがにしし、と笑う。
「オッケー!じゃあ行こう!」
3人はそのまま、今注目した男の元へくるくると楽し気に回りながら飛んで近づいて行った。
レンは調理服の男が進む先にいる、ストレートヘアの女性の中にするっと入り込んだ。それから彼女の姿でテトラとイオに手を振って合図し、タイミングを合わせて階段を下りていった。
イオとテトラはニコニコしてその様子を見守っている。
男の姿が視界に入ると、女性の姿のレンがさりげなく彼とぶつかり、『出会い』をセッティングする―――
「前を良く見てなかった、ごめん。」
調理服の男は階段に座るように尻もちをついた女性に慌てて謝り、立ち上がるために手を貸すべきか躊躇していた。
女性は―いつものレンなら、「こちらこそごめんなさい、ぼーっとしてました」とか言いながら親しくなる切っ掛けを仕掛けているところなのに、本当にぼーっとしたまま男の顔を見上げている。
「様子が変じゃない?」
テトラがイオと視線を交わす。ぶつかってじっと見つめ合う二人に近づいて、声をかけてみる。
「レン、レン!どうしたの?」
声をかけられてはっとした表情を見せると、レンは女性の中から逃げるように飛び出した。
いつの間にか人にぶつかって座り込んでいた女性も我に返った様子ですぐに立ち上がり、自分も相手もどこにもケガがないことを確認すると何度か謝罪しその場を後にした。
「あー、セットしなおしじゃないこれ?」
調理服の男とストレートヘアの女性の出会いは、日常のささやかなアクシデントとして処理されたようだ。
「レンどうしたんだよ~、お腹でもすいたの?」
レンは頭を抱えて、顔を真っ赤にしている。
「ダメダメ!彼女とはセットできないよ!」
「へ?なんでさ。」
「それじゃ僕らの役目が果たせないだろー。」
イオとテトラが首をかしげる。
調理服の男は仕事場に到着し、午後の作業に取り掛かり始めたようだった。その様子を、息をするのも忘れたような様子でレンが見ている。
「まさか、レンが?」
「あはっ、自分がセットされちゃった?」
イオが心配そうにするのと反対に、テトラは可笑しそうに笑った。
「笑いごとかよテトラ。」
「あはは!そりゃね!レンが彼とどうなるかは、神様がお決めになるんだから、いいじゃない。いつもの仕事と変わらないさ!相手がレンになっただけ!」
そう、3人の仕事は人と人を引き合わせることだけ。あとのことは、神がいいように采配している。
「あとはお任せします神様~!あははは!うまくやってあげて!」
頭を振るイオの腕をひっぱって、テトラは元来た空のほうへふわりと飛んだ。
レンはキビキビと働く男の様子を、自分の心臓の音ばかり聞きながらじっと眺めていた。そう、この後のことは神様がお決めになるのだから、何も怖くない。
という感じの夢を見て目が覚めた。
神様とか恋愛とか珍しい夢だったなぁ。
空はバリバリ飛ぶタイプの私です。
保護猫のお世話をしつつ夢の話を書いたり日々のあれこれを書いたり打ちひしがれたりやる気になったりしております。やる気はよく枯渇するので多めに持ってる人少しください。