緊急時の法人マニュアルのつくり方

はじめに

<この記事は、従業員数人〜20名程度の法人で、決済権を持つ経営者向けです>

法人にとってコロナ禍は、経済危機や天災などこれまでの危機と違うものでした。そのリスクは「見えない」「わからない」「自分たちの力ではどうにもならない」というのが特徴です。また経済的な直接被害だけではなく、「終息時期が読めない」こともあり、経営者および職員のメンタルケアも重要となります。

そこで、危機管理のための新しい緊急時用の法人マニュアルが必要となり、作成しました。今回作成したマニュアルをもとに、作成手順を記します。
マニュアルの作成から代表と協議、決済を経て職員に交付するまでの所用時間は約4時間でした。(全体の経緯については 5/20の記事 をご覧ください。)


(一社)郡上・ふるさと定住機構「新型コロナウイルス拡大に伴う業務対策マニュアル」(2020.3.30)https://sites.google.com/gujolife.com/operation-manual/


なお、一般社団法人は「会社」ではありませんが、ここではわかりやすく法人や事業者を「会社」、従業員(正規雇用、パートタイム、契約社員など広く含む)を「社員」とします。

緊急対応マニュアル作成時に大切なこと

緊急時用の法人マニュアル作成にあたっては、次の3つが大切になります。

◯法人の考えを職員に示す機会と捉える

緊急対応マニュアルをつくることで、社内外、特に社員に対して、会社の考えを示す良い機会になります。

◯スピード感が大事

緊急時時には、一刻も早く会社の考えと今後の方向性を社員に伝えることが大事です。非常時なので、詳細を吟味しているとその間にも状況が変化し、いつまで経ってもマニュアルはつくれません。後で変えてもよいので、基本的なことが決まったら一刻も早くつくってリリースすることが大事です。そのためには、リーダーシップをとらなくてはいけない責任者や経営者が、覚悟を決めて独断で作成することも必要となってきます。

◯シンプルに表現する

メッセージは職員向け、そして社外取引先向けにつくります。誰が見ても理解や判断ができるものが望ましいです。そのため難しい表現は避け、できるだけシンプルにかつわかりやすく作成します。

これらのポイントをもとに、3/30に作成した法人マニュアルは こちら です。作成手順は次のようになります。

<Step 1> 会社の考え方を示す

法人マニュアルの作成には、まず会社の考え方を示す「前提」をつくります。そのための”前置き”として、下記を設定しました。

<第1期: 2020.4.1〜4.30>
・職員の健康と安全を最優先に考える
・その上で、最適な環境づくりのため郡上市と協議を行う
・欠員や休業などによる、業務を優先しての人員補填は、この期間には行わない。
・業務遂行能力が大幅に減る可能性がある。郡上市と協議の上、委託内容が優先される場合、一部または全部の契約の解除願いを市と協議する。(委託内容:対面での相談員の配置要求、スケジュールの厳守、委託内容の履行、など)
・「緊急の雇用保障」は、職員(正職員)の通常月給の2分の1を支給する。当法人には、3ヶ月間は支払えるストックがある。(2020.3.31現在)国の緊急雇用対策が発動した場合は、それと鑑みて再検討する。

「職員の健康と安全を最優先に考える」は、何よりも優先されるべきものとして置いています。

その次は、事業を考えます。この法人は100%郡上市の委託事業で動いています。資本関係はなく独立した法人ですが、緊急事態下での事業遂行については、クライアントの理解及び連携が重要となります。

次に「業務を優先しての人員補填は、この期間には行わない」としました。先行きが不透明なときに、業務を優先して人員を入れるのは得策ではありません。まずは既存の職員を守ることを最優先とし、その戦力の中で業務量を調整する努力をします。

その上で、大手クライアントとの交渉が決裂した場合、受注解除もやむなし、ということを前置きしました。今回のような自分たちのコントロールできない非常事態下で、「必要な人員確保をできない」かつ「業務を調整できない」という条件が揃ったときは、事態が長期化した場合は最悪の状況が想像できます。最終判断の心構えもこの時点でしておきます。

会社が立ち行かなくなったときに一番困るのは社員です。最後に、社員の補償について”前置き”として決めました。当法人は、フルタイム雇用で月額20万円がベースです。その2分の1というと月額10万円となります。もし会社が倒産しても、10万円を全職員に3ヶ月払います、というアナウンスです。この最悪な状況になりたくはないですが、優先すべきは社員の生活と将来です。郡上市で10万円あればギリギリ生活ができ、かつ失業保険をもらいながら再就職活動をするための支援金という位置づけです。そして会社を整理する際も、このストックには手をつけない、という確認です。
なお、4/20に決定した国の特別定額給付金が10万円だったのは、偶然ですが、「ベーシックインカム」としての「月額10万円」はこれから一つの目安になるかもしれません。

以上のことを基につくった法人マニュアルの「前提」はこうなりました。シンプルなので、今後新しい事態に対応した緊急マニュアル作成時にも共通して使えそうです。

<1> 前提
当法人は、事業と同時に、まず職員のみなさんを大事にしています。
その上で、災害や危機があった場合は、次の2点を最優先してください

1)本人が健康であること
2)本人の家族が健康であること
その上で、未曾有の危機に直面した今、次のことを職員の方にお願いします。

第1: 自分と家族を守る
第2: 他者を気遣う
第3: 社会人として賢明に判断する
第4: 1〜3の上で互いに支え合う

<Step 2>  緊急時の勤務体系をつくる

マニュアルの「前提」が作れたら、次は詳細に入ります。今回は主に社員の勤務体制について作成しました。その際まず置くのは、「安心して働ける」ことを優先にしている、という会社から社員へのメッセージです。
下記を作成しました。

<2> 休みやすい体制づくり

無理をせず、健康と緊急事態下の家族を守るための体制づくりを考えます。この時点で「有給の追加付与(4月〜5月に10日間)」も設定しました。(その後、厚労省の「小学校休業等対応助成金」が5/11に創設されました)

<3> 勤務について

情報収集を行い、最低限のガイドラインを独自に作成します。法人のガイドライン作成をまず行い、クライアントとの協議に向かいます。これが逆だと、クライアントの要望=仕事に合わせて職場、つまり社員が会社のリスクを抱えることになり、社員の不信感につながります。まず会社が社員を守る姿勢を明確にします。

また、緊急時の連絡網がなかったため、作成しました。当法人では常勤の経営陣が1名しかいないため、法人理事・・・普通の会社でいう「役員」もバックアップとして、これを機に連絡・相談網に入れさせてもらいました。

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ここまでできれば、緊急用の法人マニュアルはだいたいいいと思います。そのうえで、職場に合わせた業務マニュアル(最低限これ、順序付け)ができるように、各セクションで考えられる体制をとれると理想です。
ここから先はできれば各セクションに細かいマニュアルを任せます。職員の経営的視点を育てる機会ととらえましょう。

<Step 3> 判断レベルの作成

緊急時の法人マニュアルができたら、今回のコロナ禍に備えた法人運営の判断基準をつくります。これは刻々と変わる状況下の中で、経営者および社員の誰もが、客観的に状況と照らし合わせて適切なオペレーションモードに入れるよう、あらかじめ判断基準を示したものです。これを作成することで、状況の変化に合わせてリアルタイムに、スムーズに職場環境をシフトすることができます。また社内外に自分たちの姿勢と状況を、迅速かつ明確に示すのにも有効です。


「新型コロナウイルス感染拡大に伴う業務判断レベル」(2020.03.31ver.)
レベル1:対策準備の設置
レベル2:対策準備の開始
レベル3:非常時体制
レベル4:業務縮小
レベル5:業務停止

作成にあたっては、「業務停止」の条件と状況を設定し、あまり細かくせず、しかし必要な状況をレベル分けしていきました。その結果、今回は5つのレベルとなりました。だいたいこのくらいのレベル分けがあればよいのではないでしょうか。
こちらも細かい検証をしていると時間がかかるので、後で修正することも前提にスピード感を持って作成することが最も重要です。

<補足> 作成ツール

今回はGoogle Sitesを使用しました。HPを作成するツールですが、文書を考えたり整理するのに向いています。打ち合わせ時の社内チェックも遠隔でリアルタイムでできるので便利です。
完成すると、そのままネットで見られるHPになるので、社内報として共有する他、社外にアナウンスするのにも向いています。リリース後に加筆や修正できます。Googleのアカウントを持っていれば無料で使えます。

最後に

この法人の判断レベルを3/30につくった後、4/5には「レベル6:業務整理と解散」もアウトラインをつくっています。まだ未完ですが、BCP(事業継続計画)を準備する上でも、最終段階についてもシミュレートしておくことが重要となってきます。
企業には「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に備えたBCPが必要」と言われますが、平常時にはなかなか考えられいものです。今回、100年に1度といわれるウイルスクライシス、コロナ禍によってBCPをリアルに考えるきっかけになりました。ぜひこの機会にBCPマニュアルを作成してみてください。

<参考> 「BCP(事業継続計画)とは」
中小企業庁HP

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