見出し画像

足立区立郷土博物館「琳派の花園 あだち」感想

足立区立郷土博物館で開催されている
「琳派の花園 あだち」を観に行きました。
2週続けて琳派三昧です(笑)。

展覧会の概要と訪問状況は下記の通りです。

海外からも注目度の高い、日本美術の流派の一つ「琳派(りんぱ)」。

デザイン性の高さ、金箔や銀箔を贅沢に使った豪華絢爛な絵画や工芸品などが有名ですが、江戸時代後期、足立の地でその琳派が花開いたことをご存じでしょうか。
それは、江戸琳派の祖ともいわれる酒井抱一が千住にゆかりの人物だったことに端を発します。
鈴木其一門下の絵師である村越其栄と、その息子向栄が幕末から明治にかけて千住に居を構えて活動したことで、さらに多くの作品が生まれ、豊かな文化が育まれてきました。

足立区制90周年に当たる今年、平成22年(2010年)よりスタートした足立区文化遺産調査の成果の中から、千住・足立の琳派作品にスポットを当ててご観覧いただきます。

展覧会公式ホームページより

【概要】  
  会期:2022年10月9日(日)~2022年12月11日(日)
 休館日:月曜日
開場時間:午前9時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
     金曜日は18:00(入館は17:30まで)
  料金:一般200円(高校生以上)
     70歳以上の方(年齢確認が必要)、
     障害者手帳保持者およびその介助者1名は無料。
     第2・3土曜日は無料公開日

展覧会公式ホームページより

【訪問状況】    
   日時:日曜日午後
 滞在時間:14:30~15:30
 混雑状況:混雑ということはなく、余裕をもって作品を
      見ることができました。
感染症対策:入口で検温、手指の消毒、入館書の記入
 写真撮影:一部作品を除いて可

展示構成は下記の通りでした。

プロローグ 琳派の花園
第1章   足立の文人文化のはじまり
第2章   文化の豊穣と定着 ―鈴木其一から村越其栄へ―
第3章   明治千住の「光琳派」画家 村越向栄

出品一覧より

新聞の地方欄で紹介されているのを見て興味を持ちました。江戸時代中後期に現在の足立区で活動した俳人・絵師の建部巣兆は酒井抱一と親交があり、酒の飲み比べや作品の公開などの交流があったようです。千住を拠点に活動していた村越其栄は酒井抱一の弟子である鈴木其一に絵を学び、其栄の息子・村越向栄も父の画風を引継ぎこの地に琳派の画風が定着していったそうです。村越其栄、向栄親子のことは知らなかったのですが、記事で掲載されていた作品が面白そうだったので行ってみようと思いました。実物は期待以上に魅力的でした!

村越親子の作品で特に気に入ったのは下記の作品です。

◆村越其栄「秋草図屏風」江戸時代後期 千住河原町 稲荷神社蔵
夏を過ぎ秋の草花が咲き乱れる様子が流れるように描かれており、幻想的な趣がありました。葉の色彩のグラデーションや薄の伸びやかな描線も魅力的でしたが、ツル植物(葛?)の細やかな描き込みが画面に華やかさを加えているように思いました。

村越其栄「秋草図屏風」江戸時代後期 千住河原町 稲荷神社蔵

◆村越其栄「鍾馗図」江戸時代後期 足立区千住三丁目 個人蔵
こちらは鍾馗の髭や髪が爆発したような描き方にインパクトがあり、「ゴツン」という音が聞こえてきそうな迫力でした(笑)。鬼のコミカルな描写も面白かったです。

村越其栄「鍾馗図」江戸時代後期 足立区千住三丁目 個人蔵

◆村越向栄「月次景物図」明治時代 足立区立郷土博物館蔵(名倉家資料)
ひと月ずつに季節を感じる花鳥・風景が描かれているのですが、シンプルなデザインと色のにじみを活かした描写が印象的でした。おおらかで清々しい画風が持ち味なのかなと思いました。

村越向栄「月次景物図」明治時代 足立区立郷土博物館蔵(名倉家資料)

◆村越向栄「白衣観音図」明治時代 足立区千住町 個人蔵
一方でこちらは墨の濃淡で観音様が端正に描かれており、向栄の画風の幅広さを感じさせました。

屏風、掛け軸、短冊、絵馬(こちらは実物ではなく資料写真でしたが)など幅広い作品が展示されていました。これらは作品の制作背景が分かる点で貴重であり、武蔵野美術大学・玉蟲敏子教授によると

当時の足立では「うちにもこういうものを描いてほしい」というふうに注文が広がり、絵師と発注者の交流によって、絵画が作られる日常が根付いていた

広報「あだち」に掲載されていた近藤やよい足立区長との対談より

ことが分かるという足立区ならではの魅力があるそうです。其栄、向栄とも寺子屋の先生をしながら絵を描いていたそうですが、地域に溶け込んで創作活動に励んでいた様子が想像できました(今でいうと兼業、あるいは副業だったのでしょうか)。

琳派の師匠、同門、親交のあった作家の作品も楽しめました。

◆酒井抱一 下絵・原羊遊斎 蒔絵「筑波山に都鳥墨切蒔絵大盃」文化14年(1817) 個人蔵
酒の飲み比べ会に向けて作成された杯とのことですが、会に向けての気合いが伝わりました(私はアルコールがダメなので気合を理解するには至らないのですが…)。赤と黒のコントラストの鮮烈さが印象的でした。

酒井抱一 下絵・原羊遊斎 蒔絵「筑波山に都鳥墨切蒔絵大盃」文化14年(1817) 個人蔵

◆鈴木其一「雪中檜図」江戸時代後期 個人蔵
白抜きで表現された落下する雪と少ない色数での画面構成に其一のセンスが表れていると思いました。雪のデロっとした描写が印象的ですが、この辺りが其一が奇想とみなされる由縁でしょうか。

◆関屋里元「四季花鳥図屏風」弘化2年(1845年)以前 足立区立郷土博物館蔵(中嶋家資料)
琳派というより円山応挙び近い画風のように感じられました。各隻の間を微妙にずれて漂う金箔が独特のリズム感を生んでいるように思いました。

関屋里元「四季花鳥図屏風」弘化2年(1845年)以前 足立区立郷土博物館蔵(中嶋家資料)

◆守村抱儀「紅葉図」江戸時代後期~明治時代 足立区立郷土博物館蔵(名倉家資料)
一見簡素ですが、引き算の美学を感じる作品でした。見ているとなぜか一瞬思考に静寂が訪れるような感じがありました。

守村抱儀「紅葉図」江戸時代後期~明治時代 足立区立郷土博物館蔵(名倉家資料

単に地元縁の作家を紹介するのではなく、地域に文化がどのように根付いていったかが分かる展示で興味深く拝見しました。入館料が200円なのが申し訳なくなってくる充実度でした。興味のある方は是非!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?