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ある視点からの「新しい人よ、眼ざめよ」

この記事はライターのババショウタ記事はライターであり2022年3月5日に行われたスタジオライブにスタッフとしても参加して頂いたババショウタ氏(https://twitter.com/bb_yotsuba)による記事です。写真も同氏によります。ライブ後にインタビューして頂いた内容を基に、第三者の視点で同企画について書いて頂きました。

おこめマンより



「全く同じことをもう一度するつもりはないです」

2022年3月5日、ベースオントップ中野211stで行われた、令和D.I.Yハードコアギャルパンクバンド・theおこめマン(z)の自主企画『新しい人よ眼ざめよ』。

蓋を開ければ、約10kgの食料が集まり大成功で幕を閉じた。

当日寄せられた食料

バンドのライブにおいて、なぜ食料を集めたことが大成功なのか。にもかかわらず、もう一度やりたいと思わない理由とは。そこには首謀者であるおこめマンの次なる企みがあった。

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いきなりお金の話で申し訳ないが、本企画のチケット代は2,000円に設定されており、3ヶ月以上保存可能な食料品を持ってくると1,000円割引となる。食料品は家で余ったレトルト食品や、ドン・キホーテで安売りされている60円のポテトチップスでもかまわない。少しの手間でお得にライブを見ることができる。

そして、集まった食料品は中野区の子ども食堂・沼袋ワイワイ食堂へ寄付される。学生時代に学童スタッフや、ボランティアを経験しているおこめマンだからこそ、発案された企画だ。

そして、結果的にこれだけの食料が集まった。

彼は告知の際、「恵まれない子どものために」などの常套句ではなく、「あなたの善意に1,000円の値段をつけた」と記した。値引き額は単なる食料代じゃない。一人ひとりの動いた気持ちにそれだけの価値があるという意思の表れだろう。

スタジオのドアには手作りの入場案内

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強いコンセプトのもとで企画されたライブだが、出演バンドは強烈にエッジの立ったキレ者ばかりだ。

主催のtheおこめマン(z)の音楽は、正直、子どもに聴かせるような内容ではない。理想と自意識の狭間で葛藤しながらどうすることもできない現実の中を生きる、恐ろしいほどの人間臭さがある。

theおこめマン(z)

おこめマンが「この2バンドありきで企画を開催した」と語る共演のPSP social、うしろ前さかさ族も同様だ。ソリッドな爆音で観客の耳をつんざく。小学生が聴いたら驚いて泣くかもしれない。3バンドとも、大きく子ども食堂について言及することなく、驚くほどに普段通り、粛々と演奏を行っていた。

PSP social
うしろ前さかさ族

だが、それでいい。社会的な思想や発言力は、その人の経験、積み重ねによって説得力を担保する部分が少なからずある。市井の苦悩を豪邸に住む七光り国会議員が語っても、その声は届かない。

自分たちは積み重ねている段階。やるべきことをやるだけ。そうした決意をどのバンドからも感じることのできるライブだった。言わずもがな、彼らはバンドだ。演奏で自分たちのアイデンティティを示すことが、ステージに立つ上で課せられた唯一の責任なのだ。

寄付だって同様だ。おこめマンは「自分がやるべきだ」と思い行動に移しただけ。誰に頼まれたわけでもなく、他人に強要したわけでもない。実際に自分で寄付先を探し、ゼロからやりとりを行なっていた。

「子ども食堂への寄付」という枠組みは用意した。どう受け取るかは自分次第だ。企画全体を通して、そう問いかけられている気がした。

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話を冒頭に戻すが、成功にもかかわらず「全く同じことをもう一度するつもりはないです」という語る理由。それは、この企画が彼の中で理想とする形ではなかったからだという。

「本当は施設の人を招待したかった」

「本当はフードを販売したかった」

「本当はもっと大きい規模でやりたかった」

コロナ含め様々な事情があり、今回の形に止まったという。“ライブ”としては思い描いた形に実現できたはずだが、“企画”としては、まだまだ発展途上にある。バンドマンである以上に生活者として音楽に向き合うtheおこめマン(z)だからこその企みに、今後も期待していきたい。

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