コトダマトラップ

 んーと、何から話そうかな。
 じゃあ、仕事から。私は事務作業員兼電話発信者の仕事をしています。正直事務は出来ないんだけど、お客さんへの電話発信は出来る方ですね。案件の処理速度は早いし、面倒そうなお客さんに電話をするのも全然怖くないです。臨機応変に会話することに自信があるし、実際揉めても丸く納めるのは得意だから。
 でも事務仕事が苦手なのと発信が滅茶苦茶得意なのもあって嫌われてましたね。特に『例のあの人』にはね。
 ところがあの日、
「あいつがミスさえしなけりゃいい」
ってあの人が言った途端、私は『あちゃー』って思いましたよ。だってあの人、自分に呪いをかけちゃったんだから。
 ああ、ここからは言霊の話題になりますね。説明します。
「あいつがミスさえしなけりゃいい」
これつまり、逆説的に言うと『ミスする奴は全部私』ってことになるんです。つまりですよ、私以外の人が仕事でミスるとその人が私に見えちゃう。仕事以外でのミスをした人も私に見えちゃう。人間ってミスするもんだから、彼女の周りは私だらけ。私だったら発狂するわー(笑)
 で、そんな事を言ったあの人はそれからどんどん人が変わってきた。一々のミスの指摘が余計うるさくなったのはいいとしても、他の人のミスにもキツく当たるようになったの。あの人が仲良くしている子にもよ?流石に言葉が過ぎるもんだから、あの人は上司に厳重注意をされたんだけど、それでも暴言はエスカレートしてきた。

 ところが!

 彼女は会社に来なくなったの。旦那さんと息子さんに暴力を奮って警察沙汰になったから。何でも、あの人に買い物を頼まれた旦那さんと息子さんは違うメーカーの洗剤を買ってきたの。『そのミス』で彼女は爆発して、二人に包丁を振り回したの。二人は命こそ取り留めたけど、旦那さんは障害が残り、息子さんは精神的に不安定になってしまった。あの人は完全に発狂し、精神病棟にいるって噂よ。

 あ、そうそう。私、彼女の治し方を知ってるわ。寛容になること──心掛けるのではなく、自然にそうなることよ。でも性格を変えるってことは全身の関節を逆に曲げて、違う生き物になるようなもの。寛容じゃない人が寛容になるって並大抵じゃないわ。正反対の性格への変化を受け入れるなんて大きな苦痛があるし、その過程で必ずや精神を病むわ。仮に成し遂げたとしても性格が変わる以上、元の生活や人間関係の維持は不可能ね。友達を全部失うのは確実なんだから。

 何にせよ、あの人は精神病棟に閉じ込められた。少なくとも誰かに害を成すことはないでしょうね。言霊って本当に恐ろしいわー。

 あ、言っとくけど、私はあの人に罠を仕掛けた覚えなんて全くないわよ!あっちが勝手にオウンゴールしちゃったんだから!

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