生臭と坊主とコトダマトラップ

 一昨日の夜中、通報があってさ。俺は小此木神社に行ったんだ。そしたら鎮守の森の奥で丑の刻参りの格好をした女が倒れてるんだよ。通報したのは肝試しの男の子三人で、その子達は心肺蘇生を彼女にし続けてたんだ。
 残念ながら俺達でも彼女は救えなかった。
 彼女は怪談に出てくる格好と表情のまま死んだんだが──なあ、ケイ、呪いって跳ね返せるものかい?

 個室の飲み屋にて。慶一は石井の質問に答えた。
「出来ないことはないよ。それなりの知識や品、意思力があれば」
そして補足する。
「でも呪いに対する知識が生半可だと逆流する場合がある。『跳ね返す』以前にな」
「だったら今から小此木神社に行かないか?ケイなら一部始終が見えるから」
豊が二人に問う。
「呪いに関わるのはやだなぁ」
「不動明王さんが守ってくれるだろ」
「自分から危険に突っ込んだら話は別だよ。つーかお不動さんはセコムじゃねぇ」
石井がビールを吹き出した。なお、吹き出さなくとも慶一は小此木神社にしょっぴかれた事実は変わらない。

***

 いいか、俺が見たものを言うからな。
 時間は深夜2時過ぎ頃、そう、草木も眠る丑三つ時。ってめっちゃ怪談だな。
 で、あっちの方角から女が鎮守の森に来るんだよ。白装束に金輪姿で、手には五寸釘と藁人形を持って。
 女からの感情は嫉妬なんだが、かなり強烈で言葉としても拾える。
『あんな仕事が出来ない奴に、あんなキモい奴に』
って感じだ──あー、そのキモい奴に自分の取り巻き達がなついた上に、出世までされたんだね。
 で、女はこの大木に藁人形を打ち付けるんだ。その『キモい奴』を呪い殺すために。髪を振り乱しながら、
「あんなキモい奴に、あんなキモい奴に」
ってね。
 ところがここで肝試しの若い男達がやってきて、丑の刻参りの現場を目撃しちまった。
 一人は恐怖で縮み上がった。二人目は驚愕した。三人目は、
「キモっ」
てポロっと言っちまった。
 その瞬間、女は胸を押さえ、呻きながら倒れちまった。そして若い男達や石やんの努力は空しい結果になっちまった。

 「ただの馬鹿じゃん」
叩き潰した蚊を茂みに捨てた豊はこう言う。
「跳ね返す以前に呪いの標的が自分になっちまっただけだろ。帰って飲み直そうぜ。馬鹿馬鹿しい」
この天才が言う通りであった。

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