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10.ペアを見る力

高校バドミントン

最初に結論から言ってしまうと、高校で本気になれたのは1年生の時だけだった。
ここまで部活が続かないとこを見ると僕は一つのことをやり遂げる力がかなり欠如しているのかもしれない。

進学しバドミントン部に体験も行かずに入部する。お決まりの流れで入部した初日の練習。
正直僕は天狗になっていた。中学時代これと言った成績も残していないのに。逆にそんなに負けた記憶もなかったからだろうか、謎の自信に満ち溢れていた僕は、きっと強い人もいないだろうからまた少し打ってちやほやされて次はそこで調子に乗らないようにしよう、なんて考えていた。

初めて先輩たちを見ると、中学では考えられないくらいにみんな体が大きく、入学当初160前後しかなかった僕からすると大人の領域。しかも1個上には1中(同市の別中学)の先輩がいた。しかも男女ともに。

僕の思い描いていたちやほやプランが少しずつ崩れ始める。でもまだ僕を知らない人たちの前で僕の最高成績(ブロック敗退)を言えば少しはびっくりさせれるだろう、同級生にバドミントンをちゃんとやっていたっぽいのもいないし。

まず自己紹介から、5人いる男子の最後が僕。1~3人目までは全くの初心者、4人目と僕が経験者だった。これは輝けるチャンスとおもったその時、顧問から「○○君(僕の隣の経験者)はダブルで都大会出てるから」

僕のプランが瓦解した。成績も負けた(ブロック敗退)、僕を知ってる人がいるからインパクトも薄れた、このままでは印象になんか残れない並の部員になってしまう。何としても実力で印象に残ってやる。

その反骨精神からか、その日の練習はかなりいい動きができ、都大会出た同級生を圧倒するほどに調子が良かった。
シングルをやれば負けない、ダブルなんてやったことなかったけど入った試合は負けない、途中から僕と彼との一年生ペア固定で試合に入っていたがそれでも負けない。今思えばダブルスのダの字もわからない様な僕と組んで普通にローテーションしていたところを見ると、ことダブルスにおいて彼はほんとに上手かったのだと思う。

かなり調子が良かったとはいえ学校の第一ダブルス(いわゆるエースペア)には勝てなかった。
それは1中の先輩のダブルス。普段の団体はこの二人はシングルも兼ねているらしく、この学校の二枚看板だった。

この試合がきっかけで初日から僕たち二人は団体メンバーに入れ事ができ、直近新人戦が控える中僕らはシングルではなく、ダブルスで出場することになった。

トーナメント

発表されたトーナメント表を見ると第三シードに名前がある。去年の新人戦で1ダブの二人がベスト4に入り初めてシード権を獲得したとの事で、このシード権のキープが目標、最悪ベスト8で中シードが絶対というミッション。高校は中学よりも一つのトーナメントが大きく5回勝てば優勝、しかもそれを一日で消化するらしい。

初めてのダブルスの試合という事もあり、部活はもちろん普段の外部練習でもダブルスを練習しまくった。
普段行っている夜の練習に来ている人たちは、主にダブルスが本職の人たちだったので短い期間でかなり大切なことをたくさん教えてもらう事が出来た。

入学してから1.2か月で新人戦が始まった。今までの試合とは会場の大きさ、人の数、応援の数すべてが比べ物にならないほどだった。まだ雰囲気にのまれていたがそんなことはお構いなしに試合が始まっていく。

6面あるコートは各コートで熱い試合が行われ、各所から震えるほどの応援が送られていた。シードなのに一番空気にのまれていた僕は何の準備もできないまま初戦を迎えてしまった。
しかもこのシードは自分でとったものではないにしろ、初戦の相手にそんな強い奴はいないだろうと油断していた。

試合が始まると相手の勢いに完全に圧倒された。強くは無い、しかし気合が違う。僕は自分が持っているシードというものがどういう物かの理解が出来ていなかったのだ。
普段シードと戦うときは少なからず力が入るもの、それは相手がシード、すなわち強いという事がはなから分かっているからこそ、最初からガツガツ打っていく。

逆の立場になるという事は相手もそうやってくるし、何なら1試合やっている分体もあったまっているのだからスタートダッシュしてくるに決まっていた。その勢いを止められずほぼ僕のミスで1セット目を取られた。

今まではシングルしかやったことがなかった分、崩れたときは自分一人で立て直さなくてはいけなかった。
自分で自分を励まして、自分で間を取って、自分のやりたいことを正確にやっていく、外からの応援もあるがそれは精神的なサポートであって戦術的なサポートにはなりにくい。だから今回も自分で考えて自分の時間を作るんだと考えていた時、

「相手ストレートにしか打ってこないからそこ狙っていこうか」

ペアの何気ない一言。彼にすれば当たり前の声掛けだが僕からすれば初めてのコート内のアドバイス。
しかもやたら落ち着いてる彼を見て自分が完全に浮足立っているのに気付き、冷静になれば難しいことなんて無い、と完全に気持ちを切り替える事が出来た。

独りよがりなプレーの代償

そこからいつも通りのプレーができるようになりその試合を取る事が出来た。
勢いそのままにそこからの試合は1セットも取られることなく決勝まで駒を進める事が出来た。

当初の目標は達成したし、何なら優勝が目の前に見えかなり気持ちが高まっていた。
試合の後に聞いた話だが、ペアの子は優勝をしたことがなく決勝戦も初めてだったらしい。

決勝の相手はさすがに強かったが全然勝てない相手ではないし、むしろこのレベルなら勝てると思えるほどで、一回戦目が嘘のように周りも見れるし球も走っていた。しかし1セット目は相手に取られてしまった。まあ緊張も少しは解けて2セット目から普通に取れるだろう、と考えていた。

自分で言うのもおかしいがペアで見たときに上手いのは僕の方だったし相手も含めて僕が一番上手かった。
それくらいの実力差があったが、同時にこの中で僕が圧倒的に足りていないものがあった。

それこそが「ペアを見る力」

この時僕自身は調子を取り戻していいプレーが出来ていた。しかしペアは初めての決勝戦でかなり緊張していてミスが目立っていた。相手はもちろんノリノリの僕には球は出さなずに、どんな体勢からでもペアに球を集める、狙われてると思えば思うほどミスが増える、この悪循環に全く気付いていなかったのだ。

それに気づいたのは2セット目の終盤でこちらが追い上げ始めたとき。そういえば久々にシャトル打ったな、なんて悠長な感じで気づいた。最後はペアのロングサーブがあらぬ方向に飛んでいき、あれ、緊張してたのか?なんてまたまた悠長な感じでペアの心情に気づいた。

試合に負けて準優勝で新人戦は終わってしまった。きっと喜んでいい成績なんだと思う、しかし試合が終わり「俺のせいだ、ごめん」とペアに謝られたときに、今まで感じたことのない敗北感に襲われた。今までの敗戦でこれよりメンタルに来たものは無い。

俺が完全に崩れた1試合目。彼が一言僕にかけてくれたアドバイスのおかげでいつも通りのプレーが出来た。アドバイスが的確だったから勝てた訳ではない。雰囲気に飲まれた僕に声をかけることでいつもの僕に戻してくれた、そのためのアドバイスであり声掛けだった。

彼は相手だけではなく、僕がいつもと違う事に気づいて対策を講じてくれていた。
それに引き換え僕は自分の事しか考えていないプレーでペアを苦しませていたのだ。せっかく打ってくれたのに決めれなくてごめん、カバーしてくれたのに次をミスってごめん。違う。

僕が彼の構えたとこに行くように打たなくてはいけなかった。
カバーしたのはその前の僕の球が悪かったから、そのカバーもただ返すだけで相手のいるとことに返していた。
ペアの事を何も考えていなかった。あの日僕がやっていたのはダブルスの邪魔をするシングルだった。

打てることよりも大切なのは考えて打つことなんだと身に染みて実感した。

次の試合は先輩を含めた団体戦。こんな体たらくではいけない、誰と組むとか関係なく常にコート内の事に気を張らなくてはいけない。

今回の準優勝は勝ち取った準優勝ではない。
僕が優勝をこぼしただけだ。

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