怪しいオジィ

母がデイサービスに行く日なので出勤前に実家へ寄ると母から変な話を聞かされた。

亡くなった父と一緒に仕事をしたことがあるという、オジィが家にやって来て、図々しく中へと上がり込みしばらく話をしたのだと。しかも7、8回来たと言う。

3日前に実家に来た時は、そんな話は全くしていなかったので、7、8回も家に来たというのは大袈裟に言っているのだろう、と思ったが数回は来たということか。何者!?

「その人、名前はなんていうの?」
「さあ、名前はなんだったかねえ!?」
「なんで、名前も知らない人を家の中に入れるわけ?」
普通は、親が子供に言うセリフではないかと苦笑する。
軽い認知症の母の説明では、どこまでが本当の話なのかわからない。

私が自分の家で作って持って来た、ポロポロジューシー(具が入ったおかゆ)を食べながら、
「たまには、こういうのもいいねぇ。」
と、言う。最近、いつもおかゆだけど…と、思いながら家の中に入った時から感じていた違和感に気づいた。

「ねえ、いつ美容院に行ったの?」
「昨日の朝よ。買い物した後に行ってみたら開いてたの。」
と、言った。

母の行き付けの美容院が、自粛期間中でない時も閉まっているとか、予約をしないと駄目とか、そんな言い訳をして、別の店に行くとか言いながら結局は行かないので、ボサボサになってゆく母の頭を見兼ねて私がカットしていたくらいだ。
母はとにかく面倒臭がり屋で呆れるほどの、オバアなのに、、、
怪しいオジィ出現の話を聞かされた後に、美容院へ行き髪を染めてカットして整えた母の行動は、たまたまなのか?

優しい事ばかり言って気持ち悪いんだよーと、母は言うのだが、
優しい言葉をかけられてアンタ、その気になっているんじゃないでしょうね?と、80代の母親に訪ねるのも馬鹿馬鹿しく、眉をひそめる娘なのであった。

デイサービスの職員が迎えに来るまで、母に何度も念を押した。
「その人が来ても絶対、家の中に入れないように!」
「インターホンがなっても玄関のドアは開けないでね!おばさん達や○○ちゃん(従姉妹)にはウチに用事がある時は電話をかけてから来るように言っておくから!」
母は能天気に笑いながら、
「もう、わかったさー。そんなに何回も言わないで。」
と、答えたが何回言っても忘れる事がある認知症なのだから、本当に心配なのだ。

母を見送った後に早速、身内のグループLINEを開いて実家を訪ねる際は電話をかけてから行くようにと、お願いのメールを送信した。

すると、勝ち気なおば様から、
『その怪しい人が誰かわかったら私が注意しに行くから!』と、頼もしい返信が返ってきた。

私より一回り年下の親しくしている従姉妹には休憩中に、母が美容院へ行った事もLINEで伝えると、
『こわいね。今頃、女心が芽生えたのかな。』と、返信がきた。

従姉妹は仕事が休みなので、母がデイサービスから帰って来る時間帯に、実家で待機してくれると言ってくれた。ありがたいことだ。従姉妹には合鍵を渡してある。娘の私以上に娘っぽい、とおば様たちに言われる程、私の母に優しく接してくれる。天然の私の母がかわいいのだと。
従姉妹も母に注意してくれるだろう。彼女の優しい言い方で。

仕事中も、母から聞かされた怪しいオジィの事が頭から離れなかった。母がちゃんと断りきれずに、そのオジィとどんどん親しくなって、実家に居座ってしまったら!と、想像するだけで頭が痛くなるのであった。


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