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『珠洲焼と金継ぎ』展

こんにちは、Last item(ラストアイテム)の藤井です。この度、8月1日(木)から9月30日(月)までの2ヶ月間、私の古巣である住友商事が運営するイノベーションラボ『MIRAI LAB PALETTE』にて展示を行います。展示のテーマは『珠洲焼と金継ぎ』です。この記事では、本展にかける想いを書きたいと思います。

珠洲のキャロラインさんのために何かできないか?

本展を開催するきっかけになった出来事は、2024年1月1日に起きた「能登半島地震」でした。

能登半島の先端に位置する珠洲(すず)は、地震による被害が大きかった地域の一つです。その珠洲に私の知り合いが住んでいました。名前は渡辺キャロライン。アメリカのコロンビア大学で日本文学を専攻した彼女は卒業とともに87年に訪日し、そこから40年弱、石川県珠洲市で自給自足の生活を送りながら珠洲焼(すずやき)を作っています。98年に同じく珠洲焼の作家であった旦那さん(幸治さん)を亡くすも「息子に故郷を残してあげたい」との想いから、現在も単身、珠洲で生活を送っています。

珠洲焼は、12世紀後半から15世紀末にかけて能登半島の先端・珠洲郡内(現在の珠洲市周辺)で作られた中世を代表する焼物です。14世紀には日本列島の四分の一に広がるほど隆盛を極めましたが、戦国時代に忽然と姿を消しました。以来、「幻の古陶」とよばれてきた珠洲焼ですが、わずかに残された断片からその姿が明らかになるにつれ、素朴で力強い美しさが人々の心を魅了し、約400年の時を経て再び発祥の地によみがえりました。

珠洲焼創炎会HP

私は過去に二度、キャロラインさんのお宅へ遊びに行ったことがあります。学生時代、当時から興味があった「珠洲焼」の本場に行ってみたいとの理由で、友人を誘い珠洲を訪れました。そこで、地元の人に紹介していただいたのがキャロラインさんでした。Instagramで「窯を見に行きたいです!」とDMすると、とてもすんなりOKしてくださったのを覚えています。訪問時に見せていただいた立派な窯や作品の数々旦那さんや息子さんとの思い出話は、今でも忘れられません。

年始早々、そんなキャロラインさんが住む珠洲で大きな地震あり、私はいてもたってもいられませんでした。地震の直後にキャロラインさんにLINEしたところ、命に別状はないものの、自慢の窯や作品、思い出の家までもが壊滅的な被害にあることがわかりました。そんな精神的にボロボロなキャロラインさんの存在を知り、私は「何かできることはないか?」と自問自答しました。

愛犬のルビーとキャロラインさん

職人の心意気を目の当たりにする

キャロラインさんのためにできることを考えた末、地震で壊れてしまった彼女の作品を金継ぎ(きんつぎ)によって甦らせようと思いつきました。お気に入りの作品が修復されることによって、キャロラインさんの心の傷も少しは和らぐのではないだろうかと考えたのです。加えて、修復した作品をお借りして展示を行い、キャロラインさんへの募金も行いたいと考えました。

金継ぎは金継ぎ師によって陶磁器の破損部分を漆を用いて修繕する技法であり、古来から行われる日本の伝統工芸の一つである。(省略)装飾として必ず金粉を用いていた訳ではなく、銀を使った銀継ぎ、黒呂色漆や弁柄漆を使った色漆継ぎ(漆直し、溜め継ぎ)なども同様の方法で多数作られている。(省略)金継ぎは複数の種類の漆を使用し、多数の工程から形成され、細かく分類すれば10を超える作業が必要とされている。また、破損した陶磁器の状態から逆算し、異なった技法が用いられる。

Wikipedia

この一連のプロジェクトを実施するにあたり「金継ぎ」ができる職人さんを探す必要がありました。一言に金継ぎと言っても、本格的なものから簡易的なものまで様々あります。そして、同じ金継ぎを行う職人さんでも、長く使えるように丁寧に修理する人もいれば、残念ながらそうでない人もいます。今回はキャロラインさんの大切な作品を金継ぎして、お返しすることが目的なので失敗は許されません。腕が良いことはもちろん、プロジェクトに共感してくれる職人さんを探さなければなりませんでした。

そんな時に思い出したのが、新潟市で仏壇店『羽賀仏壇店』を営む羽賀さんでした。過去に一度、新潟の日本剃刀の工房でご一緒したことがあっただけの関係でしたが、道具に対する思い入れや、仕事への真摯な向き合い方がとても素敵な方で、いつかお仕事を依頼したいと思っていた職人さんです。今回のプロジェクトについてご相談すると、二つ返事でご快諾くださり、しかも無償でやってくださるとのことでした。本物の「職人の心意気」を目の当たりにし、とても感動しました。

本職の仏壇のお仕事が忙しい中、合間を縫って最高の金継ぎを施してくださり、羽賀さんご夫婦(良介さんと富美子さん)には本当に感謝しかありません。

金継ぎを担当してくださった羽賀富美子さん

展示のテーマは「自然との調和」

プロジェクトがスタートしてから半年の準備期間を経て、なんとかお披露目まで漕ぎ着けることができました。キャロラインさんの珠洲焼の作品に、羽賀さんの手によって金、銀、赤の鮮やかな色が乗り、とても美しい作品になりました。

珠洲の自然が大好きなキャロラインさん。震災直後にお話しした際、こんなことをおっしゃっていました。

「地震も自然の一部。自然を支配しようとしてはいけない。調和する道を常に考えながら生きていきたい。」

これだけの被害に遭ってもなお、自然のことが大好きで、自然との調和を諦めないキャロラインさん。そんな彼女のまっすぐな姿勢を目の当たりにして、尊敬の気持ちが込み上がってきました。震災を否定せず、受け入れ、今まで以上に力強く前に踏み出すキャロラインさんの姿はまるで、傷や割れを美しく輝かせる「金継ぎ」のようだと感じました。

能登半島地震から7か月が立ちました。まだまだ復興には時間がかかると思いますが、被害に遭われた人々が前向きに、そしてより良い未来を築いていけることを心よりお祈りしています。

金継ぎ(消粉仕上げ)
銀継ぎ(丸粉仕上げ)
漆継ぎ(弁柄仕上げ)

最後に、募金をお願いします!

最後まで読んでくださりありがとうございます。もし、今回のプロジェクトに共感してくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひ、以下のリンク先から募金をお願いします!10円から募金可能です。集めたお金は全額、珠洲在住の渡辺キャロラインさんへお渡しします。よろしくお願い致します。

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