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第六章 作戦をたてる②(球妖外伝 キジムナ物語)

暗いガジュマルの木の下で、ブナガヤ・ハベルは、じっとひざを抱えて座っています。青白い火の玉がブナガヤに話しかけました。
(あれで良かったのか?)
「なにが言いたい?」
ブナガヤは火の玉をキッとにらみつけました。
「おれが間違っているとでも……?」
(そうではなくて……)

「ブナガヤ!」
急に声をかけられて、ブナガヤは驚いて立ちあがりました。ふりむくとキジムナが立っています。
「ブナガヤ、だれと話していたんだ?」
「おまえ……また来たのか!」
ブナガヤはすごんでにらみつけましたが、キジムナは手を広げてとめました。
「待って!ぼくはきみと争いたくない。話がしたいだけなんだ」
ブナガヤはふうと息を吐きました。
「なんだ?」
「チョウを守っているって、どういうことなの?」

張りつめた空気のなかブナガヤは答えました。
「おれはチョウが好きだ。でもチョウは弱くて傷つきやすい。羽が傷つくと飛べなくなるし、敵につかまるとすぐに死んでしまう。だからおれはチョウのために安全な場所をつくったんだ」

「それでガジュマルの虫かごを作って、中にチョウをいれたのか……」
キジムナはとまどいながらうつむくと、ぎゅっとこぶしを握りしめました。

「でも閉じこめるなんて、そんなの間違っているよ!チョウがかわいそうじゃないか!」
「だまれ!チョウのためにやっていることだ!」
ブナガヤは感情をあらわにしました。キジムナは悲しそうにブナガヤを見つめました。
「ねえブナガヤ……。きみにはチョウたちが泣く声が聞こえていないの?」
ブナガヤは耳をふさいで首を横にふりました。

「だまれ、だまれ……!二度とここに近づくな!」
ブナガヤは苦しそうに怒鳴りました。キジムナはそれ以上何も言わずに、肩を落として立ちさりました。キジムナの姿が見えなくなると、ブナガヤは耳をおさえながら、その場にうずくまりました。

いつの間にか陽が落ちて、あたりはすっかり暗くなっています。ヤンバルの森では、夜が好きな生き物たちが動き始めました。涼しげに鳴く虫の声が聞こえて、水辺では色とりどりのカエルがもそもそと歩いています。

ヤンバルクイナのトゥイ、アメ幽霊、イナフク婆、しゃれこうべは、満点の星空を見上げながら、キジムナの帰りを待っていました。いっぽうスーティチャ―は、草むらで石のように固まってじっと腕を組んだままでした。

森の奥からとぼとぼ出てきたキジムナを見つけると、トゥイは叫びました。
「どうだった?ブナガヤと話はできたのか?」
キジムナはしょんぼりと答えました。
「うん……話してきた」
みんなはキジムナを取り囲んで座りました。

「キョキョ。なぜブナガヤはチョウを閉じこめているんだ?」
「ブナガヤがチョウを閉じこめているのは、守るためだって言ってたよ。チョウは弱いから、安全な場所を作ったんだって」

「ずいぶんと身勝手な話ね!」
しゃれこうべが鼻息あらく言いました。
「守りたいから閉じこめるなんて余計なお世話よ!チョウたちは外を飛び回りたいのよ。自由を奪うなんてひどすぎるわ」

アメ幽霊が口をはさみました。
「でもわたしはブナガヤの気持ちもわかるわ。傷つくとわかっていて放っておくのは辛いことだから……。赤ちゃんとか小さな子供は守ってあげなきゃいけないでしょう?成長して大きくなったあとも外に出すのが怖くて、つい閉じこめたくなるのよね……」

トゥイも意見します。
「キョキョ!おれは閉じ込められるのはごめんだね。怖い思いもするかもしれないけど、おれは自由に走り回って、行きたいところへ行きたい」

イナフク婆も思いを伝えました。
「守りたいという意見も自由にさせたいという意見もございましょう。しかし、あれほどたくさんのチョウを閉じこめてしまうと、悪い気のよどみを生み出します。だから龍脈が乱れているのです」

だまってみんなの意見を聞いていたキジムナが口を開きました。
「ぼくはチョウを逃がすべきだと思う。泣いているチョウの声を、ブナガヤは聞こえないふりをしていた。ぼくにはブナガヤが苦しんでいるように見えたんだ」

アメ幽霊がうなずきました。
「わかったわ。ブナガヤのためにもチョウを逃がしましょう」
トゥイが首をかしげました。
「キョキョ。でもどうやればいいんだ?ガジュマルの木に近づこうとしたら、ブナガヤが怒って火を出すし……」

キジムナがはっとひらめきました。
「そうだ!シジミチョウたちに協力してもらうのはどう!?ブナガヤをおびきよせて、ガジュマルの木のそばから離れさせるんだ」

しゃれこうべがカタカタしゃべります。
「残念だけど、それはできそうもないわ。この子たち、すっかりおびえてしまって外に出てこないもの。よっぽど好きなものがあれば別だと思うけど……」
「そうか……」
みんなは途方に暮れてしまいました。

「方法ならあるぞ!」
突然の声にみんなが振りかえると、スーティーチャーが立っていました。
「先生!」
「キョキョ!いったいどんな方法だ?」
しかしスーティーチャーは急にふにゃふにゃと崩れ落ちて、地面に手をつきました。

「大丈夫?」
あわててキジムナがかけよると
「やっぱり嫌じゃ~。怖いよ~」
と弱音をはきました。
「先生!?いったいどんな方法を考えているの?」
キジムナがスーティーチャーの顔をのぞきこみます。
「しかたがないのじゃ。わしがひと肌ぬぐしかなかろう……」
スーティーチャーは弱々しく答えました。

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