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56番・浦添線の歴史を調べてみた(前編)

琉球バス交通が運行する56番・浦添線は、沖縄県豊見城市の豊崎を起点とし、浦添市の西原または宜野湾市の真栄原を終点とするバス路線である。
かつては起点、終点共に現在とは異なっていた。


1961年当時は那覇~浦添前田の路線

56番・浦添線の運行開始時期は不明であるが、1961年3月当時の昭和バス(現在の琉球バス交通の前々身)のバス路線一覧には記載がある$${^1}$$。この当時は1日30本の運行だったようだ。
この一覧には起終点の記載がないが、
・1961年8月に西原折り返しが認可$${^2}$$。
・1964年12月末時点で前田折り返しと西原折り返しの2系統が存在$${^3}$$。
していることから、この当時は前田折り返しのみだったと想定される。当時の想定されるルートを以下に示す。

1961年当時と2023年現在の浦添線のルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

前田折り返し系統の終点である「前田」は、県道38号線上にある現在の浦添前田駅バス停(かつての前田バス停)と思っていたのだが、浦添前田駅バス停がある道路は後からできた新道のため1970年代まで存在せず、この当時は現在も一部が残っている旧道がバスルートであった。よって、この旧道のどこかが終点の前田だったようだ。なんの根拠もないが、前田公民館があるあたりが、かつての前田バス停だろうか。

1961年当時と2023年現在の浦添線のルート(前田地区の拡大)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

浦添市西原まで延長

前述したが、1961年8月5日に浦添線の西原折り返しが認可されている$${^2}$$ことから、1961年には終点が西原まで延長されたようだ。

1961年8月5日 浦添線(西原折返し)認可、増車2台

法人企業業務報告書 運輸・通信業 1962年度(1962年 琉球政府計画局経済企画課)p.31

ただ、繰り返しとなるが1964年12月末時点$${^3}$$で前田折り返しも存在するため、新たに西原折り返し系統が新設されたようである。当時の想定されるルートを以下に示す。

1964年当時と2023年現在の浦添線のルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

西原折り返し系統の終点である「西原」は、西原町のことでは無く、西原町に隣接して存在する浦添市「西原」のことである。また位置的には、現在も折り返し場所として使用されている西原四丁目バス停と同位置であると思われる。
なお、1964年12月末時点のバス路線一覧$${^3}$$によると、前田(真栄田)折り返しが1日27~28本、西原折り返しが1日12本運行されており、この当時は前田(真栄田)折り返し系統の方が運行本数は多かった。

1964年当時の浦添線
行政監察業務概況 1970年5月(1970年5月 琉球政府総務局行政部発行)p.73~74より抜粋

一時期、久茂地経由が存在?

現在の56番・浦添線は、那覇バスターミナルを出発すると、国際通り(牧志)を経由して、国道330号に向かう運行ルートであるが、1979年8月1日時点のバス路線一覧$${^4}$$によると、平日の下り(那覇→浦添方面)のみだが1日5本ほど運行されていたようである。

1979年当時の浦添線のルート(牧志地区の拡大)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors
1979年当時の56番・浦添線
昭和53年度 業務概況(1979年 沖縄県陸運事務所発行)p.27より抜粋

この久茂地経由であるが、1983年3月末時点のバス路線一覧$${^5}$$には記載があるが、翌1984年3月末時点のバス路線一覧$${^6}$$では全て牧志経由となっていることから、1983年4月~1984年3月の間に廃止となったようである。

1986年頃に新道に切り替え?

浦添市前田地区を横切る県道38号線は、前述の通り新道と旧道があり、1977年12月当時の航空写真をみると、新道が建設中であった。この当時のバスルートと、現在のバスルート(真栄原発着系統)を航空写真に落としてみた。
浦添小学校前から前田入口までの間は旧道を経由しており、現在とはルートが微妙に異なっている。また、この当時は浦西団地は造成前であったことから、団地内を経由するルートではなく、一旦、広栄まで北上した後に、市道を経由して西原へ向かうルートとなっていた。

1961年当時と1977年現在の浦添線のルート(前田・西原地区の拡大)
上:1977/12/23撮影/下:1977/12/09撮影
(国土地理院の空中写真【上:COK771-C55-9/下:COK771-C56-10】を筆者が加工) 

次に1984年11月当時の航空写真をみると、新道が完成している。

1987年当時と1977年現在の浦添線のルート(前田・西原地区の拡大)
1984/11/09撮影
(国土地理院の空中写真【上:OK841X-C10B-6/下:OK841X-C11-6】を筆者が加工)

ただ、1980年代のバス路線一覧に記載されている路線延長を見てみると、1979年8月1日時点$${^4}$$で12.0kmだった西原折り返しは、1986年3月末時点$${^7}$$でも12.0kmのままであり、翌1987年3月末時点$${^8}$$でようやく12.7kmへと約0.7km延長されている。新道ルートと旧道ルートの距離の差が約0.7kmであることから、1986年4月~1987年3月の間に、現在と変わらない新道経由のルートに変更されていたと思われる。なお、新道切り替え後の前田折り返しがどこで折り返していたかは不明である。

旧道経由のルートと新道経由のルート(前田地区の拡大)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

1988年頃に浦西団地折り返しが運行を開始

後に本線となった浦西団地へ乗り入れる「浦西団地折り返し」系統は、1988年3月時点のバス路線一覧$${^9}$$には記載が無く、1989年3月末時点のバス路線一覧$${^1}$$$${^0}$$には記載があることから、1988年4月~1989年3月に運行を開始したと想定される。当時のルートを以下に示す。

1989年当時と2023年現在の浦添線のルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

1988年3月末時点では、前田折り返しが18本/日、西原折り返しが15本/日だったのに対し、1989年3月末時点で、前田折り返し、西原折り返しの本数はそのままに、新たに浦西団地折り返しが22本/日追加される形となっている。

1988年当時の56番・浦添線
昭和63年度 業務概況(1988年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.26より抜粋
1989年当時の56番・浦添線
平成元年度 業務概況(1989年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.25より抜粋

ただ、その4年後の1993年3月末時点$${^1}$$$${^1}$$では、西原折り返しは15本/日から13本/日に微減、浦西団地折り返しは22本/日から26本/日に微増しているのに対し、前田折り返しは18本/日から3本/日へと、浦西団地折り返しに代わる形で大幅に減便されている。

1993年当時の56番・浦添線
平成5年度 業務概況(1993年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.25より抜粋

前田折り返しは1996年に廃止

1993年3月末時点$${^1}$$$${^1}$$で1日3本となっていた前田折り返しは、翌1994年3月末時点$${^1}$$$${^2}$$では1日2本となっている。

1994年当時の56番・浦添線
平成6年度 業務概況(1994年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.24より抜粋

その後の本数の推移は不明であるが、1996年3月末時点のバス路線一覧$${^1}$$$${^3}$$には前田折り返しの記載があり、1997年3月末時点のバス路線一覧$${^1}$$$${^4}$$にはその記載が無いことから、1996年4月~1997年3月に前田折り返しは廃止されたようである。

1996年当時の56番・浦添線
平成8年度 業務概況(1996年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.23より抜粋
1997年当時の56番・浦添線
平成9年度 業務概況(1997年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.23より抜粋

なおバス停に貼られている時刻表は、2000年に入っても「前田折り返し」の凡例が残ったままであった。

廃止から10年以上経過した「前田折返し」の記載が残る時刻表
(2008年8月 赤嶺安里原バス停にて撮影)

西原発着も徐々に減便

1993年3月時点$${^1}$$$${^1}$$で1日13本運行されていた西原折り返し系統も、前田折り返し系統と同じく減便傾向で、翌1994年3月末時点$${^1}$$$${^2}$$では1日7本となっている。

1993年当時の56番・浦添線
平成5年度 業務概況(1993年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.25より抜粋
1994年当時の56番・浦添線
平成6年度 業務概況(1994年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.24より抜粋時刻表

前田折り返しと同様に、その後の推移は不明であるが、少なくとも2006年時点では1日2本にまで減便されていた。

2011年に西原折り返しは廃止され、浦西団地折り返しは路線延長

2007年には道路拡張工事に伴い、西原折り返しが廃止予定候補に挙がった。当時の新聞記事を以下に示す。

県、国、バス会社、関係市町村でつくる県生活交通確保協議会(議長・上原良幸県企画部長)が27日午後、県庁で開かれ、那覇バスが平和台・安謝線(系統番号101番、運行距離16.8キロ)、沖縄バスは首里・屋慶名線(同180番、43.6キロ)を2007年度に廃止する方針を示した。琉球バスは路線見直しにより天久新都心線(同99番、廃止区間0.5キロ)と浦添線西原折り返し(同56番、同0.7キロ)の一部廃止方針を伝えた。
 (中略)
浦添線西原折り返しは道路拡張工事に伴い一部廃止される。

バス2路線を廃止 平和台安謝線・首里屋慶名線(2007年4月28日 琉球新報)

ここでいう道路拡張工事は、西原折り返しが通る市道西原西線の工事ではなく、浦西団地から西原までの市道西原浦西線および市道西原中央線の工事のことである。すなわち、西原折り返しのルート上が工事で通行止めになるから廃止というわけではなく、浦西団地から西原までのルートが整備されるため、そちらに付け替えることにより廃止ということである。

2007年当時の浦添線のルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

浦添市議会録にもこのことに関する記述がある。

56番浦添線というのは現在本数が1日35本です。そのうちの33本は浦西団地まで来てUターンして帰る。そして西原は何本かというと1日2本なんです。1日2本のバスというこの状況、この状況というのは西原地域は市道西原中央線が平成19年2月にできたわけです。こうして浦西団地から結局西原のJAの前まで来れるようなルートは平成19年にでき上がったわけです

浦添市議会 平成20年9月 定例会(第146回)09月18日-04号
太字は筆者によるもの

(3)この御質問は56番浦添線の便数についてバス会社への要請の件だと思いますが、今後広栄入り口経由、JA西原行きの2便が廃止される予定のため事業主体の琉球バスにおいては浦西団地行きの経路を延長し、市道西原浦西線及び西原中央線を通りJA西原を経由し、県道241号線沿いのバークレイコート付近までとするための準備を進めている状況がございます。

浦添市議会 平成20年9月 定例会(第146回)09月18日-04号
太字は筆者によるもの

市道西原中央線の整備は2007年(平成19年)12月に完了したようで、翌2008年(平成20年)からは浦西団地折り返しを西原まで延伸する検討が始まっていたようである。この検討による結果は、2011年3月28日に実施された再編で実現することになった。再編内容を以下に地図上で示す。

2011年ルート再編前後の浦添線のルート(前田・西原地区の拡大)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

この再編で西原折り返しの単独区間である浦西団地入口~広栄~西原は廃止となったが、浦西団地折り返しが終点を浦西団地東口から西原(現在の西原四丁目)に延長したことにより、西原バス停は存続した。
また56番・浦添線の管轄は、宜野湾市にある琉球バスの宜野湾営業所であり、これまでは宜野湾営業所~浦西団地東口は回送であったが、その一部区間が路線化されることになり、浦西団地東口~西原~広栄を経由して、真栄原まで向かう真栄原発着系統が誕生した。
よって、浦添線が経由しなくなったのは、浦西団地入口~広栄団地入口(途中バス停は無し)と広栄~西原(途中に西原二区バス停があり)の合計約1.0kmで、バス停で考えると廃止は西原二区バス停のみであった。

起点側の変遷は後編で

長くなってしまったので起点側(那覇側)の変遷は後編にする。

脚注

  1. 沖縄バス争議 1961年(1961年 琉球政府労働局中央労働委員会事務局)p.115

  2. 法人企業業務報告書 運輸・通信業 1962年度(1962年 琉球政府計画局経済企画課)p.31

  3. 行政監察業務概況 1970年5月(1970年5月 琉球政府総務局行政部発行)p.73~74

  4. 昭和53年度 業務概況(1979年 沖縄県陸運事務所発行)p.27

  5. 昭和57年度 業務概況(1983年8月 沖縄県陸運事務所発行)p.28

  6. 昭和58年度 業務概況(1984年8月 沖縄県陸運事務所発行)p.28

  7. 昭和60年度 業務概況(1986年8月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.27

  8. 昭和62年度 業務概況(1987年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.26

  9. 昭和63年度 業務概況(1988年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.26

  10. 平成元年度 業務概況(1989年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.25

  11. 平成5年度 業務概況(1993年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.25

  12. 平成6年度 業務概況(1994年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.24

  13. 平成8年度 業務概況(1996年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.23

  14. 平成9年度 業務概況(1997年7月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.23


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