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かつて運行されていた浦添市内一周線

浦添市は、那覇市に隣接する県内第4位の人口を有する都市であるが、第2、第3の都市である沖縄市、うるま市に向かうバス路線のルート上にあることから、路線バスの路線数、運行本数でみれば、那覇市の次に充実しているものと思われる。ただそれは点と線での話で、多くのバス路線が、幹線道路である国道58号と国道330号(バイパス)に集中しているため、面的には路線バスが走っていないエリアも多く存在し、市内の4割は公共交通空白地域である$${^1}$$。
この状況は昔から変わらなかったようで、1980年代に空白地域を埋めるために、市内を循環するバス路線が運行された。


1983年に市内一周線が運行開始

前述の通り、既存の路線バスが走っていないエリアを網羅することを目的に、1983年3月15日より浦添市内一周線が運行を開始した。運行は琉球バスが担当した。

浦添市内一周バス路線が15日開通した。浦添市はこれまで、国道58号とバイパスを除いて、市役所のある中心部はバス路線がなく、ながい間市民は不便をかこっていた。昨年12月27日沖縄総合事務局から琉球バスに新規免許が交付された。

浦添市内一周バス路線が開通/琉球バス(1983年3月15日 沖縄タイムス)

当時、75番・宜野湾市内線(琉球バス)が既に運行されており、那覇市、宜野湾市に次ぐ、県内3番目の「市内線」であった$${^2}$$。

75番・宜野湾市内線と同様に、浦添市内一周線も市の強い要望により運行を開始したが、この当時は、自治体が税金を使い、バス会社にコミュニティバスの運行を委託するという発想が無かったことから、バス会社(琉球バス)が自らの負担で運行を実施する代わりに、運行に必要な各種設備について、浦添市による手厚い援助が行われている。

浦添市に、市内一周バスが新設される。沖縄総合事務局運輸部は27日、琉球バス株式会社(長浜弘社長)に対し、浦添市内一周線の新規免許を交付した。路線の開設は、市当局からも強い要望があり、沖縄では初めてマイクロバスを使っての運行。
 (中略)
この路線開設に当たって、浦添市が積極的に援助している。駐機場として市役所裏の市有地350m2を無償提供、運転手待機室、ポール施設の補助もするほか、広報によるバス利用の奨励、市内での回数券販売所のあっせんなど、誘客にも努めることにしている。

浦添市に市内一周バス/琉球バスに期限付き免許(1983年12月28日 沖縄タイムス)

系統番号107番が港川廻り、108番が沢岻廻り

浦添市内一周線は、反時計回りである「港川廻り」と時計回りである「沢岻廻り」の2系統が運行された$${^3}$$。正式なバス路線であったため、系統番号も付与されており、港川廻りが「107番」、沢岻廻りが「108番」であった$${^4}$$。
運行ルートを以下に示す。

107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

なお折り返しの駐機場として、前述の新聞記事の通り、浦添市役所の裏にある市有地が充てられた$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。2024年5月現在も市有地として「市民駐車場」が設置されている場所である。

浦添市役所前を基準に、107番・港川廻りが7時15分から20時5分までの1日14本、108番・沢岻廻りが7時20分から20時20分までの1日14本が運行された$${^3}$$。
なお那覇市内線とは異なり均一運賃とはならず、初乗り80円の一周300円となるキロ運賃制であった$${^3}$$。

路線バスが走らない地区を網羅

浦添市内一周線のルートは、その後に開設されたバス路線が走っている区間もあるが、2024年5月現在もバス路線が走っていない区間も存在する。

浦添市伊祖・港川

浦添市伊祖および港川は、国道58号と国道330号(バイパス)に挟まれたエリアであるが、このうち地区内を通る市道学園通り線は、2024年5月現在もバスが走らない区間である。この区間には、浦城、電電公社社宅前、港川中学校前、港川小学校前、県営城間団地前の5つのバス停が新設された$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。

107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート(港川・伊祖地区)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

なお、浦添市内一周線が運行を開始した当時は、99番。天久新都心線が運行されておらず、大平以北のパイプライン通りにもバス路線が無かったことから、この区間にも浦城小学校前バス停が新設されていた。浦城小学校前は、現在の99番・天久新都心線が停車する伊祖入口と伊祖二丁目の中間地点に設置されていた$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。

浦添市宮城

浦添市宮城も国道58号と国道330号(バイパス)に挟まれたエリアであるが、このうち市道銘苅仲西線および市道税務署通り線は、2024年5月現在もバスが走らない区間である。この区間には、殿下橋、持田原、北那覇税務署前の3つのバス停が新設された$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。

107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート(宮城地区)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

浦添市沢岻

浦添市沢岻は、市の南端に位置する地区である。現在は47番・てだこ線、87番・赤嶺てだこ線が走っている市道内間経塚線には、かつてバス路線が存在せず、浦添市内一周線が当該区間を走る初のバス路線であった。この区間には、昭和薬科大学附属高校入口、沢岻農協前、うらそえ荘入口の3つのバス停が新設された$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。
なお、現在とは道路線形が異なっており、47番・てだこ線、87番・赤嶺てだこ線のバス停とは微妙に位置が異なっていた。

107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート(沢岻地区)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

バスは、現在も191番・城間線などが停車する第一経塚バス停を端末に折り返していたようだ。折り返し用の用地が確保されていたのか、道路を使って周遊して折り返していたのかは不明である。

第一経塚で折り返したのちは、元来た道を戻ってくるが、県道251号線(パイプライン通り)まで戻らず、市道沢岻大平線を北上するルートであった。この区間も2024年5月現在もバスが走らない区間であり、昭和薬科大学附属高校前、大平高校入口の2つのバス停が新設された$${^3}$$$${^,}$$$${^5}$$。

107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート(沢岻地区)
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

1986年に廃止

市のバックアップもあった浦添市内一周線であったが、利用者数は予想の2割未満という少なさであり、1986年3月31日をもって廃止となった。なお、運行開始から1年後の1984年3月末時点で1日12本に減便されていた$${^6}$$。

琉球バスの浦添市内線が3月いっぱいで運行廃止される。
同路線は昭和59年に、浦添市、同市議会の要請を受けて運行を開始したが、"バス離れ"の現象の中で、利用者が極端に少なく、路線廃止に追い込まれたもの。
 (中略)
路線運行に際して、バス会社側では1日の乗客数を1千人を見込んでいたが、この2年間の実績は予想乗客数を多く下回り、2割程度。
 (中略)
会社側は「現在の実績を5倍にまで引き上げるのは不可能に近い。また、これ以上、赤字を重ねることもできない」と説明。路線継続を断念することとなった。

琉球バスの浦添市内路線 今月中で廃止に(1986年3月19日 沖縄タイムス)

なお当初の運転免許認可時点で、3年間の期限付き免許であったが、期限を延ばすことは無く廃止となった$${^3}$$。また浦添市内一周線は、県内初の29人乗りのマイクロバスを使用したバス路線でもあったが、この車両は、利用者が減少傾向であった75番・宜野湾市内一周線にて使用されることとなった$${^2}$$。

2010年にコミュニティバスの実証実験運行を実施

浦添市内一周線が廃止されてから約24年が経過した2010年12月1日からは、再び公共交通空白地域を埋めるためにコミュニティバスの実証実験運行が実施された。
浦添市内一周線の時とは異なり「浦添市が運行主体となりバスの運行のみを琉球バス交通と那覇バスに委託」「那覇市内まで運行」「200円の均一運賃制度を導入」する形で、2011年2月28日までの期間限定運行であった。
運行ルートを以下に示す。

浦添市コミュニティバスと107番/108番・浦添市内一周線の運行ルート
OpenStreetMap®を元に作成 ©OpenStreetMap contributors

起点は市立図書館前となり、浦添市内一周線と同様に、浦添市伊祖、港川、宮城を経由するルートであった。
なお、参考までに、浦添市内一周線の運行ルートも重ねてみたが、一部で共通するルートも見られる。なお、この実証実験は本格運行されることなく、予定通り2011年2月28日をもって運行を終了した。

脚注

  1. 浦添市地域公共交通計画(2024年2月 浦添市)p.25

  2. このまま継続を/バスの宜野湾一周線 小型化に市民は心配顔(1986年6月7日 沖縄タイムス)

  3. 浦添市に市内一周バス/琉球バスに期限付き免許(1983年12月28日 沖縄タイムス)

  4. 昭和58年度 業務概況(1984年8月 沖縄県陸運事務所発行)p.31

  5. 浦添市 [1984] ゼンリンの住宅地図(1984年12月 善隣出版社)

  6. 昭和59年度 業務概況(1985年9月 沖縄総合事務局陸運事務所発行)p.29

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