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No.689 ♪ トットロ、トロロ~?

勤務先に、名にし負う「トトロ」がおります。
数年前のこと、2週にわたって我が机の上に秋の恵みが届けられたことがあります。ご丁寧に、紙袋に入れていました。

何が入っているのかと広げてみると、職場の裏山から見つけて来たのか「むかご(零余子)」です。あの、山芋の葉の脇に出来る灰色の皮をした小粒の芋です。小指大から小豆大までのむかごたちが、
「秋も深まったねぇ!」
と話しかけてくるようです。

T先生は、お顔は似ておりませんが、体型はトトロ寄りです。山野に分け入り、自然の恵みと滋味をプレゼントしてくれるこの御仁のやり方が、何とも心ニクイ!私より10歳も若いところが、なおさらニクイ!

早速、「むかご飯」にして食べました。秋山の匂いと言うか、山芋独特の風味が鼻に抜けます。親分の自然薯の美味さには比すべくもないけれど、この季節にならなければ口に出来ない贅沢な味です。ホクホクした豊かな自然が、心に潤いと力を与えてくれます。

数年前に85歳で幽冥境を異にした母の「麦トロロ飯」は、絶品でした。イリコと干しシイタケでとった出汁が、自然薯の旨さをいっそう引き立てました。その遺影の前に、むかご飯を供えました。写真の笑顔の口角が、一瞬上がったように見えました。

京都の洛南、日野山に庵を結び、晩年の隠遁生活などを綴った鴨長明(1155年~1216年)の『方丈記』には、終わりのほうに、10歳になる麓の山守(山の番人)の子どもと連れだって野山で遊ぶ楽しさも描かれています。
 
「また、ぬかごを盛り、芹を摘む」
という記事がそれです。この「ぬかご」は「むかご」のことだそうですが、50歳近い年齢差を越えた二人の交流の一端を「むかご」が果たしていたという事実が、興味深く思われました。彼らも、同じ匂いや味わいを鼻の奥や舌の上に感じていたのだと思うと、なんだか美味しさが増しました。今から800年以上も前のお話ですが…。
 
「目つむりて味はふ母の零余子めし」
 柳沢杏

※画像は、クリエイター・seiko_fさんの、タイトル「彼岸花などなど昨日と今日のトキメキ」をかたじけなくしました。Seikoさんのコメント「むかごを見つけるとなんだか嬉しくなります」が、画像によく表れています。お礼申します。