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No.632 遺影を背負う盆踊り

悲しみを背負ったようなその盆踊りの輪の背中で、遺影が小さく微笑んだようでした。
 
もう10年近く前のことですが、NHK総合TV「にっぽん紀行」で「遺影を背負って踊る保戸島の盆踊り」(再放送)が放映されました。それは、新鮮な驚きでした。
 
大分県津久見市にある人口900人(現在は、800人)ほどの小さな島「保戸島」では、大正時代の頃から鮪の遠洋漁業が始まりました。島では、初盆の人の遺影を背負って弔う供養踊りを続けて来ました。では、誰が遺影を背負うのでしょうか?
 
Aさんは、仲の良い友人に背負い人の世話を依頼をしました。親友は、Aさんの夫の初盆のために、島に帰省した娘婿に打ち明けて引き受けてもらいました。
 
Bさんは、年に2回程しか帰らない次男を亡くしました。何処で何をしているかも分からぬ息子に腹を立てていたのでしたが、息子の友人が遺品を持参してくれ、その生活ぶりを聴いて、心の棘が抜かれていきました。その友人が遺影を背負いました。
 
初盆には、大往生し皆が喜んで送り出せた人もいれば、事故や病気のために若くして逝かねばならなかった人もいました。それは無念の気持ちを晴らし、情念を浄める供養踊りでもありました。心優しい日本人の踊りの輪の中で、遺影が右に左に揺れていました。
 
今年、義姉が61歳の若さで病没しました。兄の傷心は癒えず、供養の日のたびに涙を見せることを憚りませんでした。ああすればよかった、こうもしてやればよかったと、後悔ばかりが思われるといいます。子供たちが大きく成長し、家庭を持ち、親となり、孫を授かって、いざこれから二人して老後をじっくり味わいたいと思っていた矢先の事でした。
 
人は、誰かのためなら強く生きられるといいます。人生の相棒を失った今、この辛さとどう向き合って生きるのかが、兄に与えられた課題のようです。きっと、亡き義姉の菩提を弔ってあげられる日々を喜びに変えてくれることでしょう。

遺影を背負っての保戸島の初盆会の踊りが、ひときわ儚く、尊く、美しい供養に思われました。兄は、そんな供養があれば喜んで参加しただろうと思われました。目にも体にも大粒の汗を流しながら。

※画像は、クリエイターふうちゃんさんの「夏祭りのイラスト」を使わせていただきました。お礼申します。