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No.769 昭和も青春も遠くなりにけり


「幾山河 越えさり行かば 寂しさの 終てなむ国ぞ今日も旅ゆく」
「白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも染まずただよふ」 
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに飲むべかりけれ」
 
1928年(昭和3年)に満43歳の若さで病没した歌人・若山牧水は、1896年(明治29年)、11歳の時に延岡高等小学校に入学し、1904年(明治37年)、18歳で旧制延岡中学校(現、宮崎県立延岡高等学校)を卒業するまでの多情多感な青春時代を延岡で過ごし、この間に短歌を詠むようになったそうです。このことを記念して、延岡市では2000年に「若山牧水青春短歌大賞」を創設し、2001年から広く全国に向けて短歌を募集しています。
 
21世紀から始まった「若山牧水青春短歌大賞」の第22回(2022年)大会の大賞3首と、優秀賞12首をご覧いただきたいと思います。
【大賞 小学校・中学校部門①】
「水そうのメスのメダカ夏至生まれそっとはこんだシャーレの一つぶ」
(宮崎県・5年・男子)
 
【大賞 高等学校部門①】
「泣いている君も笑っている君も少しつぶれたケーキに似てる」
(埼玉県・3年・女子)
 
【大賞 大学生等及び一般部門①】
「不注意です卵を落として割ったのもあの手を握りそびれたことも」
(茨城県・4年・女子)
 
【優秀賞 小学生部門③】
「算数はトランプみたいだから好き何でもなれるジョーカーが好き」
(茨城県・4年・男子)
 
「いちりんしゃきびしくおしえるおかあさんいちりんしゃにはのれないのにな」
(宮崎県・1年・女子)
 
「きゅう食は食べる前からおいしそう東海小からいいにおいがする」
(宮崎県・3年・女子)
 
【優秀賞 中学生部門③】
「はなれてもいまでも思うあの場面ずっと葉のないプラタナスの木」
(東京都・3年・女子)
 
「授業中に寝た私はもう一人前マスクの下でにんまり笑う」
(東京都・2年・女子)
 
「青春は複数人でなくていい一人でいても別にいいだろ」
(長野県・2年・女子)
 
【優秀賞 高校生部門③】
「お互いの眼鏡よけつつキスをする化石にしたいほどに夏空」
(東京都・3年・女子)
 
「消火栓の取っ手の裏に色あせたプリクラあって誰かの青春」
(宮崎県・2年・男子)
 
「技能士の銀のバッチを貰うため今年の夏ははんだ付け漬け」
(宮崎県・3年・女子)
 
【優秀賞 大学生等及び一般部門③】
「ふんわりと笑ったままで聴き役に徹する友よ着ぐるみを脱げ」
(奈良県・女性)
 
「ブラックが飲めない君の人生にミルクを注ぐような朝です」
(鳥取県・女性)
 
「あなたには逢えないけれど合歓の花見上げた土手の橋まで歩く」
(宮崎県・女性)
 
個性的で彩り豊かな入賞句の「青春」の鼓動や息吹や輝きが快く伝わってきます。自分の中で生まれそうもない言葉の誕生を感動的に受け止め、心からお祝い申し上げたい気持ちになります。

陰陽五行説によれば、東西南北には四神がいたと考えられ、
青龍…東を守る神様。象徴の色は青
朱雀…南を守る神様。象徴の色は朱色
白虎…西を守る神様。象徴の色は白
玄武…北を守る神様。象徴の色は黒(玄)
がそれらだと解説していました。あの高松塚古墳の四方に描かれたみごとな四神の壁画が思い出されます。
 
その方角を人生になぞらえて四期と年代に当てはめたのが、
「青春」…15歳~30代前半
「朱夏」…30代後半~50代前半
「白秋」…50代後半~60代前半
「玄冬」…60代後半以降
だといいます。自分のことを勝手に「人生の秋」などと思い込んでおりましたが、既に「玄冬期」を迎えておりました。
 
「玄冬」の語感からは、黒い雲の覆った寒々しく厳しい冬の世界が想起されます。確かに心身ともに厳しい季節を迎えるのは致し方ないことでしょうが、老いと向き合い、人生をいかに始末していくかの冬支度が必要なようです。そんなことも、若者たちの歌に触れながら考えさせられました。
 
「青春はすでに子のもの虹仰ぐ」
牛山一庭人(うしやまいっていじん)
(1905年~1977年)


※がぞうは、クリエイター・麦酒 ゆみ(ゆみっぺ)さんの、タイトル「ここには思い出が、青春が、ぎっしり詰まっているから」をかたじけなくしました。お礼申します。