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No.958 釘に刻んだものは?

「千年を支える釘を打つ 古代道具復元 白鷹幸伯」
というTV番組を観たのは、1996年(平成8年)3月のことでした。
 
白鷹幸伯(しらたかゆきのり、1935年~2017年)は、日本の伝統的な大工道具を専門に手がけた鍛冶師です。それまで、金物店に勤めていた彼は、宮大工の西岡常一(1908年~1995年)との出会いが縁で鍛冶職人として身を起こし、奈良薬師寺西塔再建の際の和釘づくりを引き受けます。
 
西岡常一は、日本古代建築物の修復を数多く手がけてきた伝説的な宮大工です。その男に啓発された白鷹は、古代建築の木の切り削りの形を参考にしながら、建物の創建当時に使われていた大工道具の「手斧」(ちょうな)などを復元していました。
 
西岡からの要請に応えるべく、純度の高い古代の鉄を全国の歴史的な建造物の解体跡から取り寄せて溶解し、鋼鉄に造り直し、古代の製法そのままに、ふいごを用いながら「千年も生き続ける釘」を七千本も作り上げました。
 
白鷹がそうする理由は、「日本人が世界に誇れる高水準の文化遺産を築いたのに、先祖の作ったその技術と道具を絶やしては申し訳ない」という思いから出発したといいます。
 
彼の造る千年の釘には「願奉 萬民豊楽 荘厳國土」という経文が刻印されました。己の名ではなく、「人々が豊かで、国が穏やかであって欲しい」という祈りでした。ゾクゾクするようなシビレル思いが、重い槌の一打一打に籠められていました。敬虔な思いになりました。