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No.1099 吸って、吐いて!

そんな考え方もあったのかと、心が澄まされる言葉に出合ったので紹介させて下さい。

 感謝
 宇野浩二の「王様の嘆き」(1922年)という童話があります。王様に頼まれて歴史の本を書き上げた、遠い国のある大歴史家のお話です。その国では、金貨も銀貨もトーマン。1行について1トーマンずつもらう約束でした。17年かけてようやく20万行の本が完成しました。しかしもらったのは銀貨。王様のひきょうな行いに失望した学者は、故郷へ帰ってしまいます。ある日、王様は素晴らしい詩を耳にしました。その学者の書いたものでした。王様は自分の行動を恥じて、馬とラクダとあらゆる財宝を学者の故郷に送ります。王様の使い一行が町の西の門をくぐった時、静かな笛の音に、送られて学者のひつぎが東の門から運び出されてゆきます。
 これは実在したペルシャの詩人・フェルドゥーシーの話です。実際は17年ではなく35年。その歴史の本「王書」は、日本語でも読むことができます。大歴史家は、この世の支配者は「時」だと教えてくれます。王様であろうと誰であろうと、時が命を吹き消す瞬間、あらゆる苦しみと喜びはシャボンのように消え去ってしまう。だから、良い思い出を遺す人こそ幸福であると。
 2023年という一年が終わろうとしています。平和な日常に小さな幸せを、良い思い出をたくさん遺してください。どんな不幸を吸っても、吐く息は感謝でありますように。

(久留島武彦記念館館長・金成妍 大分合同新聞「灯」2023年12月19日記事より)

「どんな不幸を吸っても、吐く息は感謝でありますように。」
もう、殴られたような気持ちになりました。筆者が信仰心のある方か否かを知りませんが「感謝」の心のいかに尊いものであるかを思い知らされます。

的は己の外にあるのではなく、己の内にあったのですね。この歳になっても、このざまです。怏々として不平や不満を託つことの多い私など、200年生きたとしても思い浮かばない言葉でしょう。トホホのホです。
 
記事の中にある「王様の嘆き」については、
『少年少女日本文学館7 ウミヒコヤマヒコ』(講談社、1987年)
『宇野浩二全集 巻9』(中央公論社、1972年)
また、「王書」については、
『王書 古代ペルシアの神話・伝説』(岡田恵美子訳、岩波文庫、1999年)
などで読むことが出来るようです。
 
冬休み中の私自身への課題図書にしたいと思います。


※画像は、クリエイター・中川 貴雄さんの、タイトル「国際子どもの本の日」の「裸の王様」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。
因みに「国際子どもの本の日」とは、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの誕生日である4月2日に祝われるそうです。